男主はニュートの兄テセウスの親友という設定。
「やあ、ニュートじゃないか!俺が卒業した以来かな。久しぶりだね」
「あ、っはい、お久しぶりです、…ナマエさん」
「わざわざどうしたんだい?テセウスは最近来てないんだ。闇祓いの仕事で忙しいみたいでさ」
「いえ、あの…、」
「…?何か欲しい本でも?…あ、そうだ、君の好きそうな本が入荷してたことを思い出したよ!」
「え、ほ、本当ですか」
「ああ。ほら、そんなところに立ってないで入っておいで。寒いだろう?紅茶を淹れよう」
「…あ、ありがとう、ございます」
やあテセウス、近頃会えていないが元気にしてるだろうか。闇祓いとして成功しているようで嬉しいし、そんな君が友人で俺も鼻が高い。
俺はといえば、卒業してから実家の本屋兼雑貨屋というよく分からない店の家業を継いで、最初は慣れないことも多かったけれど近頃はそれも慣れてきて、毎日に余裕ができた頃だ。そういえばそうだ、君に伝えたいことがあるんだ。この前君の弟のニュートがうちの店に来てくれたんだ!それからというもの最近は毎日のようにうちの店に来てくれるんだよ。驚いただろう?俺もびっくりだ。だって、ホグワーツにいた頃は挨拶ぐらいしか交わしたことがなかったのに。
「しかし君も熱心だなあ、ここのところほぼ毎日のように来るじゃないか」
「あ…迷惑でしたか…?」
「いいや、全然。むしろ嬉しいよ。店を継いだは良いけど、結構暇でね。君も感じてると思うが閑古鳥が鳴いてるだろう?君と話をするのは楽しいし、君から聞く魔法動物のことも、勉強にもなるからさ」
そう言うとニュートはそうですか、と顔を綻ばせて頬を染める。数週間前にニュートが初めて店を訪れてくれた時から、古びた店の、古本の匂いが染み付いた店の奥のスペースで紅茶を飲みながら昼休みの時間に店に来てくれるニュートと他愛のない話をするというのは俺の日常になりつつあった。ニュートと話をするのが楽しいというのは本当だ。どちらかというと、彼の話を聞くのが楽しいというのが本当だろうか。テセウスから彼が魔法動物好きだということは散々聞いていたけれど、彼が魔法動物について話す時の表情は俺がいつも見たことのあった固い表情とは大違いで輝いている。だから彼の知らない一面を知れたようで嬉しい。
「あ、かといって無理して来ないでくれよ、仕事が第一だからね」
はい、と頷くニュートにはて、彼はどこで働いているんだっけかと首を傾げた。魔法省で働いているというのは覚えているが、詳しい部署は忘れてしまった。前に聞いたはずなんだけどなあ。
「…そうだ、仕事はどうだい?たしか、魔法生物規制管理部の…」
「屋敷しもべ妖精転勤室です。それがとても退屈で…仕事だとは分かっているんですが」
「そうか、なら、ここに来るのも分かるよ。毎日退屈なら、君が大好きな魔法動物のこと考えるよなあ」
うんうん、と勝手に納得して頷く。今度彼のために魔法薬学や魔法動物関係の本でも探そうかと考えていると、何やらニュートが何かを言いたげにじ、と口をひき結んでこちらを見つめていた。どうしたの?と聞くとゆっくりと口を開いて、
「あの、…ナマエさん」
「ん?」
「僕がここに毎日のように来るのは、その、本や薬草のためじゃないんです」
「え、」
「貴方の店の品揃えはすごく良いし、雰囲気とかも、好きです。けど、僕がここに来るのは、……貴方に会いたいから」
ニュートの言葉に目をぱちくりとさせてしまった。ここに来るのは、俺に会いたいから?
「…ニュート、」
「貴方のことが好きだから会いたくて、話をしたくて、…本や材料を買いに来るのを建前にして、毎日のように来てしまって…」
ぽつりぽつりと話し出したニュートの言葉に正直驚きを隠せない。
まさか、俺の店に毎日のように来てくれていたのはそんな理由があったからなんて。ホグワーツの学生だったころの彼は挨拶をしても素っ気なくて、目を合わせてもすぐ逸らされてしまっていた。会話といえばその挨拶と、中身のない学校の話を、俺が繰り出すだけで。テセウスは「照れ屋なんだ、許してやってくれ」なんて言っていたが、正直嫌われてるんじゃないかと思っていたのだ。その逆だったとは。今までの素っ気ない態度が好きの裏返しだったと知って、顔を真っ赤にして想いを伝えてくれた目の前の青年に、今まで抱くことのなかったなんとも言えない愛おしさが湧き上がる。
「…ごめんなさい、貴方が嫌だと感じるなら、もう来ません、から」
「ニュート、」
俯いて、固く握り締めているニュートの手に自分の手を重ねる。
「ニュート、こっちを向いて」
頬に手を当てて至極優しい声音でそう言うと、ニュートはゆっくり顔を上げてくれた。眉を下げて、瞳にいっぱいの涙を溜めて、今にも泣きそうな表情だ。彼にとっての精一杯の告白だったのだろう。それを俺にしてくれたことが、とても嬉しい。
「…ありがとう、嬉しいよ、ニュート」
「ナマエ、さん」
「顔が真っ赤だ」
耳も、と呟いてニュートの耳たぶに触れる。熱い。くすぐったかったのか、ニュートの身体がぴくりと震える。その反応が初心で可愛らしくて、むずがゆい気持ちになった。
「ナマエさ、…ん、」
俺のことをそばかすだらけの頬を染めて相変わらずの涙目で見つめてくるニュートが堪らない。そっと唇を寄せ、その薄く色づいた唇に口付けるとニュートの身体がぴしりと固まる。触れるだけのキスをして唇をゆっくりと離して彼を見ると、ニュートのきれいな緑色の瞳から大粒の涙がぽろりと零れ落ちた。それを優しく拭ってやるが、その大粒の涙は次々とぽろぽろ零れ落ちる。
「…はあ、…参った、君を泣かせたってテセウスに怒られるな」
「はは、…僕の兄はそこまで過保護じゃないですよ」
「…ニュート、俺でいいの?本当に、俺でいいの」
「……貴方がいい」
涙で潤んだ瞳で俺を見つめて少し震えた声でそう言ったニュートをぎゅう、と抱きしめると、俺の腕の中ですんと鼻をすすって、恐る恐ると言った風に俺の背中に手を回す。
「ナマエさん、ごめんなさい」
「ん?なんで」
貴方の服に涙とか、鼻水が付いちゃうともごもご言うのがなんとも可愛くて胸がぎゅうと締め付けられて、そんなの気にせずにぎゅう、と抱きしめてやった。
20170214