クリーデンスにはハグが必要だ。
単純にそう思った。義母から虐待を受けて育ったことや、今までの彼の生き方や他人に対する反応を考えると、彼には人との触れ合いが必要だと、そう思ったのだ。
人との触れ合いを増やすには、ハグが手っ取り早い。俺の持論だが、ハグには人を安心させる力がある。抱き合っていると、相手の体温を感じれて温かいし、ほっとするのだ。だから、もう怖いものはない、不安になることはない、俺やグレイブスさん、ニュートやティナのような頼れる人ができたと安心させるために、クリーデンスと会う時は必ずハグをすると決めた。
そしてグレイブスさんの家でクリーデンスが一緒に暮らすと聞いた時ラッキーだと思った。俺とグレイブスさんの家は距離的に近いから会いに行きやすいし、クリーデンスに会えると同時にグレイブスさんにも会えるのだ、一石二鳥である。
と、そんな感じでクリーデンスとのハグ週間を始めたわけだが。
「クリーデンス!」
「っ!?う、あの、」
最初のハグは、とても固いものだった。何って、クリーデンスが。グレイブスさん家にクリーデンスに会いに行って、挨拶もそこそこにいきなりその場で俺からぎゅっとハグしにいってしまったのだ。突然だったからかぴしりと固まってう、とかあの、とか言ってるクリーデンスに、最初からこれはやりすぎたかと慌ててパッと身体を離す。
「あ、ごめんなクリーデンス、びっくりしたよな」
「……ぁ、」
「…あの、もしかして、嫌だった?」
目を合わせずに中々答えてくれないクリーデンスに内心焦る。俺の馬鹿、クリーデンスが俺とのハグを嫌がる可能性だって当然あるということを失念していた。自分本位でクリーデンスのことを全然考えられてなかった。
「えと、もうしないから、」
これじゃあただの偽善だ。ごめん、ともう一度謝って、コーヒー淹れるね、とキッチンに向かおうとすると。
「…、クリーデンス?」
くん、と服の袖を控えめに引っ張られる。
「あ…の、」
振り向くと、クリーデンスが下を向いている。その耳は赤い。何か言いたいことがあるのだろうと、そのまま少し待っていると、躊躇いがちに俺の方を見て、
「嫌じゃ、ないです…少し、びっくりして」
小さい声で、けれど確かにそう言ってくれたことがすごく嬉しくて、クリーデンス!と名前を呼んで抱きしめたら、またびっくりさせてしまった。ごめんよクリーデンス。
そうして2、3日ハグを続けていると、さすがに彼も慣れてきたのだろう、
「クリーデンス」
「は、…はい、」
最初は少し戸惑いがちに俺のハグを受け入れてくれていたクリーデンスだったが、それも一週間も経てば俺の背中に手を回してくれるようになった。進歩だ。嬉しい。
こうしてクリーデンスとのハグ週間をしばらく続け、しばらくすると、
「ナマエさん…、」
「何?」
「あの、もう少し、このままでもいいですか」
「ん、いいよ」
ハグの時間が少し長くなった。これはクリーデンスからのお願いだ。ハグに身を硬くしていた最初の頃とは大違いである。この前グレイブスさんが俺とクリーデンスがハグしているのを見て長すぎないか?君たちも飽きないなと若干呆れていたが俺は気にしない。クリーデンスのささやかなお願いには極力応えてあげたい。それに、俺から始めといてなんだが彼とのハグは好きなのだ。だってなんか、クリーデンス良い匂いするし、背が高いからなのかハグ心地が良いし。
「ナマエさん、あの、」
「ん、」
そんなこんなで続けていたハグ週間だが、最終的にはクリーデンスからハグをお願いしてくるようになった。手を軽く広げて待っているとぎゅ、と抱きついてくる。かわいい子だ。俺がソファで寛いで本を読んでいる時だったり、寝る前だったり、後ろからハグされたりとまあ、ハグのシチュエーションも豊かになった。
こんな感じでハグが日常化しました。俺は毎日幸せです。
20170114