「Trick or Treat!」
「え?えーと…………、」
「君だよナマエ、君しかいないだろ!」
「えっ俺!…ええと、…すみません、お菓子今持ってなくて」
「そうかそうか、では君にはイタズラしてあげよう」
「え、あの………スタークさん……?」
今日はどうやらハロウィンらしい。なんだかんだ忙しくて最近イベントに疎くなっているみたいで全然知らなかった。シールドもこういう行事やるんだな、あちこちでトリックオアトリートの言葉が飛び交っている。仮装してる人もたくさんいるから、シールドでは大々的なイベントなんだろう。
で、そんなことを知る由もない俺はお菓子なんて持ってきているわけもなく。朝一でスタークさんに捕まりトリックオアトリートと満面の笑みで言われ、イタズラされてしまったわけで。
「スタークさん、なんですかこれ……」
「何って犬耳だ。うんよく似合ってるなナマエ。直々に私が作ったんだ、今日1日ずっと着けてろよ、それ」
「はあ………」
笑顔のスタークさんから渡された犬耳が似合ってると言われてこれは喜ぶべきなのだろうか、微妙な心境だ。そしてスタークさんに「記念撮影だ」と言われて写真を撮られた。しかも連写なんだけど。これ俺よりも女の人が付けたほうが似合うだろ絶対。ワンダとかナターシャとかさ。
「その拗ねている表情も中々良いねナマエ。じゃあ僕は行くよ」
「え、スタークさ、」
「Happy Halloween!」という言葉を残してスタークさんは颯爽と去っていった。相変わらず忙しい人だ。
…とりあえず、
「………お菓子買わなきゃ」
このままではイタズラされてばかりになってしまう。
「おはようございます、バナー博士」
「やあナマエ、おは………よう」
廊下でバナー博士とすれ違ったので挨拶をしたら、びっくりしたようにまず俺の付けている犬耳を凝視した。まあそりゃそうだよな。
「どうしたんだい、その耳」
「朝スタークさんにトリックオアトリートって言われて…」
そう説明したところで、バナー博士はなるほど、というように頷いた。
「僕も朝すれ違ったんだけど、朝から上機嫌だったのはそのせいなんだね」
「へえ…」
上機嫌だったのか。やっぱりスタークさんの考えていることはよくわからない。
「ナマエはそれ、今日1日ずっと付けてるのかい?」
「はい、多分……」
そう返事をしたら、バナー博士は「律儀だね君は」的なことを言って苦笑いした。スタークさんも中々強引だと思うが、俺もお菓子を持ってなかったからしょうがない。それにスタークさんに外してるところを見られたら何か言われそうだし。要はめんどくさいのだ。
「今日1日だけだから、まあ、いいかなって」
「そうだな、せっかくのイベントだしね。でも似合ってるよナマエ」
「え、そうですか?」
まさかバナー博士にそんなことを言われるとは思わなかった。意外だ。
「気を悪くしたならごめんね。でも本当に似合ってるよ、ナマエ」
「なんだか触りたくなるし、」と言いながらバナー博士は犬耳を撫でる。まあ確かに、自分で触ってみると中々手触りが良い。とりあえず「ありがとうございます」とお礼を言っておいた。
「どういたしまして。そうだ、今日はハロウィンだから、…」
「今これしかなくてごめんね」と博士はごそごそポケットを漁って飴をくれた。
「ありがとうございます!じゃあ俺もこれあげますね!」
お返しに俺もさっき買ったばかりのクッキーをあげた。どうせなら日本のお菓子あげたかったけど、売ってなかったから断念した。今度探してみんなにあげよう。
「ありがとうナマエ。Happy Halloween」
バナー博士は柔らかく笑って、俺の頭を撫でてから歩いていった。癒しだ。
「あら」
「……お前どうしたその耳」
開口一番クリントとナターシャ2人にそう言われた。クリントがなんだかすごい表情をしてる。お前なんつー格好してんだみたいな。馬鹿にしてるのかその表情は。
「スタークさんが、」
とそこまで言ったところで「なるほど」とクリントとナターシャの声がハモった。息ぴったりでさすがである。
「シールドのハロウィンって毎年やってるの?」
「ん、ああ………そうだな、俺は参加したことないけど」
俺の質問にやや上の空な感じに答えながらクリントは俺の頭を、というか犬耳を触る。なんなんだ、みんなそんなに犬耳が好きなのか。
「…あの、クリント?」
「ああ、似合ってるぜナマエ」
待って、俺何も言ってないけど。真顔で犬耳をいじるクリントがなんだか面白い。
「ナマエのその付けてる犬耳、髪色に合ってて似合ってるわよ。質感も良いし本物みたい。さすがスタークね」
付け加えて「スタークにしては良い仕事したわね、」なんて言うナターシャの言葉にスタークさんへの悪意を感じる。というかスタークさんそんなとこで頑張らなくても……。
「クリントも気に入ったみたいね」
「え、ってなに写真撮ってるんだよクリント」
「スタークにしては良い仕事したな」
2人して同じこと言ってる。だからスタークさんといいクリントといいなんで連写なの。
「後で写真送って」
「ああ」
連写されたけどトリックオアトリートって言ったらお菓子ちゃんともらったから良しとすることにした。
「ピエトロ、トリックオアトリート!」
「あ?ってナマエ……………………」
前を歩いていた思いっきり仮装しているマキシモフ兄妹を見つけたので声を掛けてみた。振り返ったピエトロは俺を見て固まって、ワンダはぱあっと笑顔になる。対照的な反応だ。
「わあ、かわいいわナマエ!どうしたのそれ!」
俺からすればかわいいかわいい、と連呼するワンダのほうがかわいいんだけど。
「スタークさんが」
「付けろって、」そう続けたところで2人は何故か「Good job!!!!」って言いながらガッツポーズをした。なんでだろう、この2人確かスタークさんのこと嫌いじゃなかったっけか?
「ところで、ピエトロとワンダも仮装してるんだな」
「ええ。と言っても簡単にだけどね」
と言いつつワンダもピエトロもガッツリ気合い入れて仮装してるように見えるけども…。これが簡単ならガチの仮装とはなんなんだろうか。怖い。
「ワンダは魔女で、…ピエトロは狼男?」
「そう。私が選んだのよ、中々良いチョイスでしょ?」
「うん、2人とも似合ってる」
ワンダはスカーレットウィッチだけに魔女なのだろうか。魔女の帽子がかわいい。狼男の着ぐるみを着ているピエトロもなかなかに似合ってる。ていうか、俺じゃなくむしろピエトロが犬耳を付けた方が似合うのでは。と思わずじっと見つめてたら目が合ったんだけど目をそらされてしまった。なぜだ。
「…さっきからどうしたのよピエトロ、黙り込んじゃって」
「や、別になんでもない………」
着ぐるみを着たままのもふもふした手でピエトロが口元を覆う。
「彼照れてるのよ。気にしないで」
「照れてない」
どう見ても照れてる。顔赤いし。
「ピエトロと俺、同じだな。ピエトロも耳付けてるし。俺よりもピエトロのほうが似合ってるよ」
「え、っああ、俺はナマエの方が似合ってると思うぜ、」
You are lovelyって言われた。lovelyって俺のどこがラブリーなんだよ………。と思いつつも、ワンダに笑顔で「みんなでセルフィーしましょ!」って言われたので喜んでセルフィーした。あとお菓子を交換した。やったね。
「ソー!トリックオアトリート!」
「おおナマエか!そんな耳を生やしてどうしたんだ?」
「今日はハロウィンだからだよ」
にこにこ笑顔のソーにそう言ったら、「ハロウィン?」と疑問系で返ってきた。あ、これハロウィン知らないやつだ。
「ところでトリックオアトリートとはなんだ?今日はいつもと違う格好をしてる者がたくさん見受けられるが、そのトリックオアトリートが関係してるのか?」
「え、えーと、」
1からハロウィンのことを説明した。
「分かった?」
俺の拙い英語力で説明しきれたかどうかは分からないけど、ソーは爽やかな笑顔で「分かった」と言ってくれた。ほんとかな。
「要は相手がお菓子を持っていなければイタズラができるというわけか!」
「うーん、まあ、そんな感じ」
「そうか、ではナマエ、」
何故かソーはそこで改まって、真顔で「トリックオアトリート」と言った。それがなんだか面白くて少し笑ってしまった。
「?何故笑ってるんだ?」
「いや、なんでもない」
ソーがトリックオアトリートと言ってくれたので飴をあげた。俺のあげた飴をすぐに開けて口に放り入れたソーは「なるほど、」とつぶやく。
「ハロウィンとはこういう行事なのだな…だが済まないナマエ、俺は今日菓子を持ってなくてな。これで許してくれ」
「へ」
そう言ってソーは俺の頬を優しく撫でてから、軽いキスを落とした。
「そ、」
「ん?どうしたナマエ」
いや待ってソー、俺が悪いのは分かってるけど、そういうことじゃない!
「あ、スティーブ」
シールドのハロウィンイベントも夜を迎えていよいよ本番なのか、周りの熱気がとてもすごい。正直人が大勢いるところは苦手なので、人気のない場所を探してうろうろしていたら、キャップのスーツを着たスティーブとばったり会った。任務帰りだろうか。
「やあナマエ、どうしたのその耳」
「今日はハロウィンだからさ」
「ああ、そうか、ハロウィンか。どうりで仮装してる人が多いわけだ」
柔らかい笑顔で俺の頭を撫でながら「よく似合ってるね」と言うスティーブがイケメンすぎて俺もうつらいし照れる。この人はいつもかっこいいが、今日はキャプテンアメリカのスーツを着てるからかいつもの3割り増しでかっこいい。
「スティーブ、トリックオアトリート」
任務帰りだからきっと持ってないだろう、そう思ってお菓子を要求したら案の定スティーブは持ってなかったみたいだ。「ごめんね」と謝られた。まあでもしょうがない、代わりに俺があげよう、疲れた時には甘いものっていうし。いくらスーパーソルジャーだといってもずっと仕事続きじゃあ疲れるよな。
「ナマエ、イタズラしてくれるんだろう?」
「え」
と思ってポケットから飴を取り出そうとしていたら、不意にスティーブがそう言った。え、待て、イタズラだと?
「………イタズラ」
「ああ。だって僕はお菓子持ってないから。」
「……………」
その発想はなかった。
だってアベンジャーズのメンバーにイタズラってどう考えてもやばいだろ。じゃあなんでトリックオアトリートなんて言ったんだって話だが。俺が馬鹿なだけだある。
「………ナマエ?」
「…えーと、」
「…考えてなかった?」
「…うん」
「はは、ナマエらしいね」
笑われた。
「いや、だって…うーん」
だめだどうしても思いつかない。むり。とりあえずスティーブに飴をあげた。
「スティーブ、最近忙しそうだから…疲れたときには甘いものがいいと思って」
「ありがとう、嬉しいよナマエ」
「どういたしまして」
「…僕は君にイタズラしてほしかったけどなあ」
「え、?」
最後に言ったスティーブの言葉が聞き取れなくて聞き返したけど、「なんでもない」と言われてしまった。最後のスティーブの一言が気になったけど、そのあとスティーブと写真を撮って、今日のハロウィンはとても平和に終わった。もし来年もここにいれるなら、もっと英語を上達させて、もっもみんなと楽しめたらいいな。
20151102