「よおナマエ」
「おわっ?!…っびっくりしたあ、ピエトロか」
いきなり気配もなく肩を叩かれたら誰だってびっくりするだろう。俺は毎回誰かしらにそれをやられているのだが(クリントとかクリントとかクリントとか)、今回は気配とか云々より速すぎて気づく間もなかったというべきだろうか。
「お前気配に鈍感すぎるだろ、そんなんじゃすぐ殺られるぞ」
「お、おお…」
なんだか上機嫌(に見える)のピエトロにとりあえず返事はしといたものの、訛りが強すぎて何言ってんのか半分も分かんねえ…殺られるのとこしか分からん。
ピエトロとはこの前道案内をしてもらってからちょくちょく話すようになった。気に入られたのだろうか、嬉しいことに俺を見かけるとよく話しかけてくれるのだ。アベンジャーズのメンバーとはまた違ったタイプの人で、なんというか、一言で言えば楽しい人である。それにこれは俺の予想だけど、今まで話したことのある人の中で多分一番年が近いから、なんとなく話しやすい。
「何してたんだ?」
「歩いてた」
「それは見れば分かる」
なんて軽い立ち話をしていたら、「ピエトロ?」と呼ぶ女の人の声が聞こえた。それにピエトロはぱっと反応して「ワンダ、」と名前を呼んだ。
声がした方に顔を向けると、茶髪のロングヘアの女の人がこちらに歩いてきた。どうやらこの女の人はワンダというらしい。
「いきなり走り出してどうしたの」
訓練途中だったのよ、とワンダはピエトロを咎めるように言った。どうやらこの人と一緒に訓練していたらしい。てか訓練ほっぽり出して来たのかピエトロ…。
「ワンダ、こいつだよ、この前話してた奴」
「え、俺?」
ピエトロのその言葉にワンダは俺を一瞥すると、ああ、と思い出したように呟いた。
「…ナマエ、だったかしら」
「そうそう」
ピエトロは俺のことをワンダに話していたらしい。ていうかこの二人の距離すごい近いな。恋人同士なのだろうか。
「ナマエにも紹介してやるよ、妹のワンダ」
「妹…、へっ、妹?!」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。恋人かとさっき思ったばかりだったのに!妹!!?「なんだよその反応」とピエトロが眉を寄せたが、それに俺は「何でもない」と必死に返した。
正直ピエトロに妹がいたというのが心底意外だった。ここ最近で一番驚いたかもしれない。というか妹なんだ…なんとなくピエトロの素振りを見るとワンダが姉っぽいのに……きっとシスコンなんだなピエトロ…とりあえず妹さんに挨拶しなければ。
「え、ーと、こ、こんにちは、ナマエです」
この初対面の人と会話するときどもってしまうのやめたい。めちゃくちゃコミュ障みたいじゃん俺……。いやコミュ障なんだけどさ…。
「こんにちは、私はワンダよ。兄から色々話は聞いていたわ」
俺のどもりを全く気にせず「よろしくね」と微笑を浮かべながらそう言ってくれたワンダに思わずちょっと見惚れた。だって美人なんだもん。兄妹そろって美人とかずるい。
「よ、ろしくお願いします」
ぺこりと俺はお辞儀をした。それが珍しかったのか、ワンダは不思議そうに俺を見た後、俺と同じようにお辞儀をした。なんだか嬉しい。
「日本の挨拶の仕方なんだってさ」
「こうやってお辞儀するの」とピエトロもぺこりとお辞儀をする。なかなか新鮮である。
「おいこら」
「いって!」
が、お辞儀をし終わった途端、ピエトロは彼の後ろにやってきたクリントに豪快に殴られた。ぺしーんと音がしそうな感じに。すげえ痛そう。
「っなにすんだよおっさん!」
殴られたところを手で押さえながらピエトロはクリントを思いっきり睨んだ。割と涙目なところを見るとやっぱり痛かったんだろうな。
「なにすんだだと?アホ、訓練中に勝手に抜け出すなクソガキ」
ピエトロに睨み返すクリントも中々怖い。ピエトロはおっさんて言ってるし、クリントもクリントでクソガキって言ってるあたり仲悪そう、ていうかメンチ切りあってる時点で仲悪いわ………怖すぎる…。ピエトロとワンダを訓練してる教官ってクリントだったんだな。どんな感じで訓練してるのだろうか、想像できない。
「ごめんなさい、ピエトロったらナマエ見かけた途端走って行っちゃって」
「はあ?ナマエ?」
ワンダのその言葉にクリントは俺に気づいて俺を見る。とりあえず「Hi,」と挨拶したら、なにを思ったのかクリントは俺を見て意地の悪い笑みを浮かべた。
「ああ、なるほどお前か」
Because of youって言われた。俺のせいかよ!?いやまあ俺のせいか……俺を見た途端走って行っちゃったんだもんな…。
「ご、ごめん」
「あなたは悪くないのよナマエ、全部ピエトロが悪いの」
「気にしないで、」とうなだれる俺の肩にそっと手を置いてくれるワンダ優しい。その横でピエトロは「おいワンダ」と突っ込みを入れてたけど俺は気にしないぞ。その後クリントは笑って「冗談だよ冗談、」と俺の頭を乱雑に撫でた。悪い冗談だ全く。毎回クリントに頭を撫でられるたびに髪がぼさぼさになるのでなんとかしてほしい。
「こいつは冗談が通じないやつだからな。ま、そこが面白くてかわいいとこだが」
「かわいいってなんだよ……」
思わず日本語が漏れた。クリントがなんだか優しい目で見つめてくるのでなんだか照れる。外国の人と見つめ合うのは苦手なんだ。ので、目をそらした。
「…………」
「なに不満げな顔してんだクソガキ」
「してねえ」
「してるわよ」
「してないって!」
その後クリントが不満げな顔をしていたらしいピエトロをイジり始めて面白かった。クリントは相変わらず意地の悪い顔して、ワンダもクリントに便乗してイジるものだからピエトロが完全に不貞腐れていた。俺はというとその様を外から見てて仲良いなあと思いながら見てました。最初は仲悪そうと思ったけど、実は仲良いのかもしれない、クリントとピエトロ。
「そういえばナマエはどこに行こうとしてたの?」
「俺?」
いつの間にかクリントとピエトロの口喧嘩と化していたらしい、ピエトロをイジるのをやめたワンダは傍観してた俺にそう聞いてきた。
「どこかに向かうところじゃなかったの?」
「え、……あ」
そうだ、すっかり忘れてた。
「あの、俺」
あともう少しで殴り合いになりそうな2人に恐る恐る声をかける。だから怖すぎるって。
「、どうしたナマエ」
「俺、そろそろ行かなきゃいけないんだ、用事があって…ごめん」
そう言って謝ると、クリントは「ああ、」と納得するように頷いた。
「いつもの英会話教室か?」
「そう」
「このクソガキが邪魔して悪かったな。早く行ってこい」
「あ、ありがとう」
クリントのその言葉にピエトロが文句を言っていたがとりあえずお礼を言っておいた。
「ええと、じゃあ、ワンダとピエトロに会えてよかったよ、ありがとう」
「こちらこそありがとう、私もナマエと話せて嬉しかったわ」
俺の言葉にワンダはにこりと笑って「またお話しましょう」と言ってくれた。ワンダ優しすぎる。かわいい。
「…またな」
ピエトロもぶっきらぼうに挨拶してくれた。それがなんとなくかわいくて笑ったら睨まれた。怖い。
「おい俺は?」
「もちろんクリントとも話せて良かったよ、訓練頑張って」
「それはどうも」
じゃあまた、と手を振れば3人とも軽く手を振ってくれた。
「で、嬉しかった………っていう話」
「へえ、そんなことが…にしても、ナマエも大分話せるようになったね」
「ほんとに?スティーブのおかげだよ、ありがとう」
「僕もナマエのおかげで助かってるよ、ありがとう」
「どういたしまして」
「……ナマエってかわいいわね」
「だろ」
「英会話教室ってなんだよ」
「キャップに英語教えてもらってんだよ、ただ話してるだけだけどな」
「…………」
「…また不満げな顔してるわよピエトロ」
「してないって」
「ナマエは大変だぞ、俺はよく知らないがライバルが大勢いるらしいしあいつ自身も鈍臭いからな」
「は?!だからそういうんじゃ」
「はいはい訓練再開するぞ〜」
「おい!!」
20150731