ナマエが怪我をした。

「ぉうわっ?!あいたあ!」
「ナマエ?!大丈夫?!」

びっくりしたんだ、どこかで遅めのランチでも食べようかと2人で歩いていて、いきなりナマエが何もないところでよろけて僕の肩を掴んだのでどうしたのかと思ったら、どうやら足を捻ったらしい。彼の足元に変な段差があったから、それで捻ったのだろうか、ナマエはしゃがんで左足首をさすっていた。

「ご、ごめん、大丈夫…」
「本当に?思いっきり派手によろけてたけど、」

とりあえずナマエと一緒に道の端に寄って、そして僕もナマエに合わせてしゃがんだ。ナマエは変なところで足を捻ったのが恥ずかしかったのか、耳が赤く染まっている。そして僕を見て、恥ずかしそうに笑った。うーん、かわいいなあ。僕より年上とは思えない。

「足平気?」
「大丈夫、心配しないで平気だから、」

そう言いながらナマエは立ち上がる。ナマエの身体を支えながら彼の顔を覗き込むと、やっぱり痛むのか、足を前に踏み出した時顔が少し強張った。

「…ナマエ、」
「ん?え、っわ!」

下手したら歩いてるうちに怪我が悪化するかもしれない。そう思ってナマエの背中に手を当て、膝裏をすくって抱え上げた。女の子が憧れている(らしい)所謂お姫様抱っこというやつだ。ある程度の重さを覚悟して持ち上げたのに、思ったよりもナマエが軽くてすこしびっくりした。何が起こったのかイマイチ理解できていないナマエがぱちりと目を瞬きさせて僕を見る。少しの沈黙の後、お互いの顔の距離が近いことにようやく今の状況を理解したのか、見る間にナマエの顔がりんごみたいに赤くなっていった。

「ちょっ何してんだよピーター?!」

近くに確かアベンジャーズタワーがあったはず。ナマエはそこで働いてるから、きっと診てくれるだろう。日本語でなにやら喚きながらジタバタして暴れるナマエをまあまあと適当にいなして歩き始める。通行人がちらちらと僕らを見るが気にしない。

「やっやめろって!人が見てるから、」
「騒ぐと余計見られるよ。一応診てもらおう、ナマエひょろいから心配だし。アベンジャーズタワーならここのすぐ近くだろ?」
「そうだけど…いやでもいいって!こんなの湿布貼っとけば治…ってピーター?!人の話聞いて!?」

しばらく騒いでたナマエだけど、最終的に諦めたのか日本語でなにやら悪態をついて僕の首に腕を回した。終始顔が真っ赤だった。かわいいなあ。



何もないところで足を捻って捻挫した。

「で、スパイダーボーイにお姫様抱っこされてここまで来たわけか」
「……………」

そう言いながら笑いをこらえているスタークさんを寝台の上から無言で睨んだ。クリントなんて笑いすぎて腹が痛いのか身体を震えさせて腹を抑えている。スティーブとピーターは「大丈夫?」なんて俺を心配してくれたので少し心を救われたが、その後のナターシャの「貴方本当に貧弱なのね」の一言が俺にトドメを刺した。そんなこと俺が一番分かってるよ!!!!

「うう………」

恥ずかしすぎて思わず両手で顔を覆った。運動音痴もここまでくると悲惨すぎて涙も出ない。ピーターに世に言うお姫様抱っこされ、そのままの状態でアベンジャーズタワーまで運ばれた上、どこから俺が怪我をしたことを聞きつけたのかスタークさんたちがわざわざ医務室にいた俺のところにぞろぞろと来て揶揄いにくるものだから恥ずかしすぎて死にたい。聞けばどうやら任務のためのミーティングで集まっていたらしく、それがちょうど終わった時に俺が怪我で担ぎ込まれて(お姫様抱っこされて)きたようで。それにしてもタイミング良すぎだろ…。

「前もこんなことあったわよね、ナマエがお姫様抱っこされるの」
「ああ、パーティでナマエが酔い潰れた時とか?あの時はソーだったな」
「そういえば、ナマエピエトロにもお姫様抱っこされてたよね」
「ねえナマエ軽すぎない?もうちょっとちゃんと食べた方がいいよ?」

スタークさんたちが俺がお姫様抱っこされたことについてなにやら話している中、ピーターが心配そうな表情でそんな感じのことを言ってくれたが、全く同じことを以前ピエトロにも言われたのがなんとも悲しい。ちゃんと食べてるんだけどなあ…。とため息を吐きながらしっかりとテーピングされ、氷嚢で冷やされている左足首を見た。捻挫の程度はそんなに酷くはないみたいだが、しばらく安静にした方が良いと医者に言われた。逆になにもないところで捻っただけなのにこんなになってしまうのが自分の身体の貧弱さが証明されたみたいで悲しい。

「帰る………」

一応治療してもらったし、湿布ももらったから大丈夫だろう。何よりここにいたら永遠に怪我のことでイジられ続ける気がする。そう思って靴下を履いて、寝台に投げていた足を下ろした。捻挫している左足に体重をかけないように片足で立って、脱いでいたスニーカーにゆっくりと足を入れる。

「ナマエ、大丈夫か?その足じゃ帰るのが大変だろ、家まで送らせるぞ」

帰ろうとする俺を見てスタークさんがそう言った。散々俺のことを笑っていたクセにこういうところは優しいのだから、スタークさんには参ってしまう。ほんとうにずるい。でも、わざわざ捻挫ごときでスタークさんの部下さんに送ってもらうのは申し訳ないので、そこは丁重にお断りをしておいた。

「あ、じゃあ僕が送るよ!今日1日一緒だったし」

ピーターが笑顔でそう言ってくれたが、もしかしてまたお姫様抱っこされるのだろうか。その状態で帰るのは絶対に嫌だ。そう思ってるのが顔に出てたのか、ピーターは慌てて「お姫様抱っこはしないよ!」と付け足した。その直後、スタークさんが思い出したように「ああそうだピーター、君のスーツを試作してみたから見てほしいんだが」と言うので、瞬間ピーターの顔がぱっと嬉しそうに輝く。そりゃあのスタークさんにスパイダーマンのスーツを作ってもらえたなら嬉しいよな。

「本当ですかスタークさん!あ、…でも僕、」

俺だったらスーツを一緒に見る一択だが、「ナマエを送っていくので、」とピーターは続けた。けど俺を送るのとスタークさんと自分のスーツの試作品をチェックするのというのでは明らかに彼にとっての優先事項は後者なので、俺は「ピーター、」と声をかける。

「俺は大丈夫だからさ。ピーターはスーツを見てきなよ」
「う、………………」

俺の言葉にピーターはしばらく悩んだ後、「ごめん…」と本当に申し訳なさそうに謝られた。それに「気にしないで」と返して、彼の頭を撫でたら「撫でなくていいよ」とちょっと怒られた。

「悪いなナマエ、俺とナターシャはこれから任務だから家には送ってやれない」
「ごめんねナマエ」

今度はクリントとナターシャにそう言われた。「帰り道気をつけろよ」とクリントが俺の頭をわしゃわしゃと撫でる。彼が俺の頭を乱雑に撫でるのはいつものことなのでもう慣れてしまった。………というか、

「俺1人で平気だって言ってるのに…」

さっきからみんなに俺を送るだの送れなくてごめんだの言われているが、わざわざ家まで送ってくれなくても俺は1人で全然大丈夫だしそもそも送ってくれとは一言も頼んでないのだが。前々から、会った時からこの人たちは本当になんというか、色々心配しすぎだと思う。大丈夫だって言ってるのに…。

「お前は危なっかしいからな」
「(そんなことないと思うけどな………)」
「あら、でもスティーブがナマエを送ってくれるから平気でしょ?」
「ああ、僕がナマエを送るよ。家も近いしね」
「なら平気か」
「………えっ」


ナターシャがさも当然のように言うし、スティーブやクリントも当然のように受け答えしてたから気づくのが数秒遅れた。待っていつスティーブが俺を送ってくれる感じになったの!確かに俺とスティーブの家めちゃくちゃ近いけど!言うなれば同じアパートに住んでるし!いやでもいつの間にそういう流れになったんだ?!

「いや、俺は………、」
「?」

1人で帰れる、と言おうとしたのだが、スティーブがこう、有無を言わさないような笑顔だったので(気のせいかもしれないが)、頷くしかなかった。まあ、どっちにしろスティーブも今から帰るのなら帰り道はアパートまで一緒なわけだし、今までの流れからしてなんか俺に拒否権はなさそうだし…いいか。

「…じゃあ、よろしく、お願いします」
「もちろん。荷物は?僕が持つよ」

言いながらスティーブは寝台の上にあった俺のリュックを持ってくれた。リュックぐらい背負えるんだけどなあ、と思ったが、もうなんか色々めんどくさいのでスティーブの優しさに甘えることにした。

「じゃあ、僕とナマエは一足先に帰るよ」
「ナマエ!気をつけてね!」
「あ、ありがとうピーター」

ピーターにそう返して、みんなに軽く挨拶をしてからスティーブと部屋を出る。スティーブは足を引きずる俺に合わせてゆっくりと歩いてくれた。ううん申し訳ない…。

「っていうか、俺足捻挫しただけなのに…」

過保護すぎだろ……。と軽くびっこを引きながら心の底から思ったことが口に出てしまったが、日本語だったからスティーブには分からなかったらしい。良かった。
その後送ってくれたお礼にと、スティーブとおやつを食べていたら、ピーターから興奮した文面(絵文字がたくさん送られてきた)と共に、スタークさんが作ったスパイダーマンのスーツの試作品の写真が送られてきたので、それを見てスティーブと一緒に和んだ。こういうところはやっぱりかわいいなあ。



20160630

ピーターにお姫様抱っこされる



prev | back | next