ニュート・スキャマンダーとはホグワーツからの付き合いだ。人見知りな彼と1年生の頃魔法動物のことで仲良くなってからというもの、ニュートとは良い友人だった、はずだった。

「お、おはようナマエ」
「おはようニュート、どうしたのこんな朝早く」
「僕は魔法動物学の勉強をと思って…。君は?」
「俺は別に…。なんか早く目が覚めちゃって。起きたら雪が降っててさ。初雪だし、雪がきれいだなあって思って、眺めてた」
「………」
「…?ニュート?」
「…きみのほうがきれいだ」
「え?」
「えっあっ、なんでもない!」

これが3年生の冬。心の声が漏れ出たかのようなニュートのその言葉に少なからず動揺した俺、そして顔を赤くして慌ただしく逃げ去っていったニュート。それからというもの、俺とニュートの友人という関係の中身が少し変わった。俺はその言葉の意味を悶々と考えて変にニュートを意識してしまうようになったし、授業中よく彼からの視線を感じるようになったのはその頃だ。そして、俺がニュートと会話をしようものなら彼は吃るわ耳が赤くなるわで、さらに目を合わせようとするとぱっと逸らされてしまうということに気づいてしまった。これはまあ、人見知りなニュートだから大体誰に対してもそうなのだが、特に俺に対してはそれが顕著だったのだ。今まではそんなことなかったのに。
そこから推測するのは簡単だった。いつからかは知らないが、ニュートは明らかに俺のことが好きなようだった。側から見ても分かりやすすぎるし、今までの行動からして、彼が俺のことを好きだと確信を持つには十分だった。本人はバレてないと思ってたのかもしれないが、時が経つにつれて、ニュートが俺を好きなことは俺たちの友人知人の周知の事実になっていったし、そして何故か応援されていた。これは後で知った話だが、一時期ハッフルパフの女子の間では「ニュート・スキャマンダーの恋を見守る会」なるものができていたらしい、そのくらい彼の恋路は皆に応援、というか見守られていたみたいだ。その頃の俺はというと、ニュートを気にしているうちにいつの間にか彼を好きになってしまったようで。そして中々アプローチをかけて来ない彼にひたすらやきもきしていた。

「…ナマエ?」
「………」

夜、ニュートと談話室で待ち合わせをしていたときに狸寝入りをしたことがある。その場には2人以外誰もいなくて、好きな相手が目の前で無防備に寝ていたらどうするのか。狸寝入りをしたのは、そんなほんの少しの興味本位からだった。

「…寝てるの?」

ニュートの問いには勿論答えない。本当に寝てると思ったんだろう、靴の音が遠ざかっていく。一瞬こいつまさか俺を放置して自分の部屋に戻るつもりかと思ったのだが、それは違った。大きな音をたてないようにと気を配って戻って来たニュートは、俺にそっとブランケットをかけたのだ。なんて優しいやつ。その行動に俺は少なからずキュンとした。
それから何を思ったのか、少しの間動かなかったニュートだが、ふと思い立ったように靴の音が近づいて、ニュートが恐る恐る、ゆっくりとソファで寝ている俺の隣に座るのを感じた。

「…………」

何かしてこないのだろうかと少し期待したのだけれど、ニュートは俺の隣に座ったままずっと何もしてこない。思えばこいつ、人間関係に関しては極度のヘタレだった。何しろニュートが俺のことを好きだと知ってからもう1年は経っている。何かしら進展があっても良いはずだし、俺も何かアプローチされないかとそれなりに隙を作ってみたりしたのに何もないのだ。これは期待しただけ損だったかもしれない。心の中でため息を吐いて、狸寝入りを止めようとした瞬間、

「………っ」

ニュートの指が俺の頬に触れた。

「…ナマエ」

俺の名前を小さく呟いて、ニュートの指は至極優しく俺の頬を撫でる。

「君はきれいだ」

不意に呟かれたその言葉にどくりと心臓が鳴った。1年前と同じ言葉。耳が熱くなる。だめだ、熱くなったら、ニュートに起きてるとバレてしまう。
幸いにも気付かれることなく、ニュートは俺の髪をするりと撫でた。そしてふわりとしたニュートの前髪が肌にかかる。少し荒い息遣いが聞こえて、ごくりと喉が鳴る音がした。

あ、これはキスされる、そう思ったのに、

「……やっぱりだめだ、」

押し殺したような声と共に、彼の体温が離れていった。

ニュートのあまりのヘタレさに我慢できなくなって俺が彼を押し倒すのは、その10秒後である。



20161125

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