これの続き


何が起こったのかイマイチ分かってないようだった。押し倒した後のニュートの表情は、それはもうぽかんとした間の抜けたものでとても面白かった。

「…………へ」
「おい、何がやっぱりだめなんだよ」
「ぁ…ナマエ、なんで、?」
「なんでって狸寝入りしてたからに決まってんだろ」
「は…、え?い、いつから?」
「最初から」
「…それってつまり」
「ああ、ぜんぶ聞いてた。俺はきれいだって?ありがとなニュート」
「……………」

ニュートの目が凄まじい勢いで泳ぎ始めた。ついでに言うとその顔は耳まで真っ赤でトマトみたいである。本当、人間と接する時動物に対するいつもの情熱と積極さはどこへなりを潜めているのだろう。

「…ニュート」

静かな声で名前を呼ぶ。俺が狸寝入りしていた時にニュートがしたように、彼のふわふわした前髪に触れて、彼の頬を親指で優しく撫でた。熱い。それにニュートはどこかもどかしそうに眉根を寄せて目を細める。その表情がとてもかわいくて、思わず唇を寄せそうになったけれど我慢した。もはや半分意地だ。ニュートが俺に「好きだ」と言ってくれるまでは、俺からは絶対にキスしない。絶対に告白させてやる。
そんな俺の思いを汲み取ったのかなんなのか、ニュートはきゅ、と口を結んで、彼の頬に触れている俺の手に自分の手を重ねた。俺を見ようとはしない伏し目がちのグリーンの瞳は、薄い涙の膜が張ってきらきらと光っている。俺の手に重ねた手は少し震えていて、なんだか愛おしくなった。

「何もだめじゃない」

俺は、お前がだめだと思ったこと、してほしいな。
緊張して声が震えそうになったけれど、余裕に見せるためにそれを必死に抑えた。我ながらこんな誘い文句を言うなんて、すごく恥ずかしい。心臓はバクバクいってるし、顔から火が出そうなくらい熱いし、きっとニュートと同じくらい緊張してる。幸いにもニュートには俺が余裕がないことはバレてないみたいだけど。そして俺の言葉は効果抜群だったらしい、息を飲んで、なんだか泣きそうな顔で俺を見た。

「……ナマエ、」

どこか掠れた声で俺の名前を呼んだニュートは、恐る恐るという感じで、俺の顔を優しく包む。顔は真っ赤で熱いくせに、彼の両手は白く冷たい。
俺の顔を優しく引き寄せるニュートに、俺はゆっくりと目を閉じる。ああ、ようやくだ。この時をどれだけ待ったことか。−−−そう思ったのに。

「っ!」
「えっおいニューっ…うお?!」

突然扉が開く音にバタバタとした靴の音、人の話し声にびびったニュートが俺の下で身を起こそうと暴れるもんだから一緒にソファから転げ落ちて、何の因果か今度はニュートが俺を押し倒す体勢になってしまって。

「…………」
「………ぁ……」

その距離はさっきよりも近くて、あと数ミリで唇がくっつきそうな距離で。

「……お前ら何してんの」

そしてその事実を脳内でゆっくりと咀嚼する前にそんなところを談話室に入って来た同級生にバッチリと見られてしまった。そいつは俺とニュートを交互に見て、その後止める暇もなく「ニュートがナマエを襲った!!」とデカイ声で寮の奴らに言いふらすもんだから、「ついにニュートが俺を襲った」というデマの噂がハッフルパフ中に広がって、まあ予想通りしばらくその噂は消えなかったのだ。おかげで俺とニュートが一緒にいるだけで毎日のようにからかわれるわひそひそ話をされるわ最悪である。さらに言うならば噂解消のためにニュートとしばらく距離を置かなければならなくなった上、彼は俺にアプローチをしてくれなくなったどころかますます挙動不審になってしまったので、結論から言うと、……………俺が彼と恋人同士になれる日は遠そうだ。



20161206


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