「…は、っう、ンンっ」

ゆるり、効果音にするならばそんな感じだった。様子を伺うように、確かめるようにゆっくりと腰を進められ挿れられる熱に、ひき結んだ口から声が漏れた。胎の中が焦ったく擦られるその感覚にさえ甘く反応してしまうのだから、俺も随分と変わったものだと熱に浮かされた頭の中でぼんやりと考える。

「ナマエ、大丈夫?」
「ん……」

ニュートが俺を心配する声にのろのろと頷いた。火照った頬をニュートの無骨な手が優しくなぞる。その感覚が擽ったい。セックスの時、とりわけ挿入した直後、ニュートは必ず俺にそう聞く。既に何回身体を重ねたのか数えきれないほどなのに、必ずだ。圧迫感はあれど、痛みを感じることなんて今では殆どないのに。そういう律儀というか、過保護というか、そんなところは相変わらずだなと思う。

「動いていい?」
「ああ、…っン」

俺の了承の言葉にニュートは柔らかく微笑む。正常位は好きだ。こうしてニュートの表情をちゃんと見れるから。触れようと手を伸ばせば、それに応えて身体を俺に被せてくれる。ニュートが身体を動かした拍子に中が擦れ、それで漏れ出た上ずった声が、キスによって塞がれた。

「んっあ、んう、ふっ…」

俺に軽いキスを贈ってから、覆いかぶさった姿勢のままニュートがゆるゆると腰を動かし始めた。探るようだった腰つきが、俺を気持ち良くさせようという確かな意図を持ったものに変わる。

「ンぅ、んっ、ん、っ」

中を突かれる度に自然と押し出される声が甘ったるくて嫌になる。ひき結んだ口から漏れる声でさえ甘ったるく感じるし、普段出さないようなトーンの高いそれが正直気持ち悪いとさえ思う。俺はそんな自分の声に辟易しているが、物好きなニュートは俺の喘ぎ声が好きらしい。我慢していると「声を聞かせて」と言われるくらいである。

「ナマエ」
「……っ!」

ああ、案の定だ。このニュートのどこか小さな子どもに言い聞かせるような口調の「ナマエ」は、「声を聞かせて」の意味である。それに口を固く縛っていやいやと首を振った。今までに声を聞かせてほしいとは言われているが、やっぱり恥ずかしい。俺だって男だ、こんな女みたいな高くて甘えるような声、聞かせたくない。そんな俺の駄々っ子のような拒否にニュートは腰の動きを止めた。そして困ったように、でもどこか愛おしそうに薄く笑って。

「…僕は、君の、こうして我慢してる時の声も好きだよ、」
「んっ、ぅあ、」
「ニフラーの鳴き声みたいで、かわいいから」
「っくぅ、ン!(どこがだよ!)」

するする、ニュートの骨張った手が下から上へと伝っていく。太腿から腰骨、腹から胸へ。尻に挿れられた熱いそれは動かされてないのに、肌を撫でられる感触にさえ身体がぞわぞわと震えそうになる。それから胸筋をまるでマッサージするかのように揉まれると、はぁ、と自分の意思とは関係なく甘い息が吐き出された。

「ニュート……っ、く、ぅンっ」

やめろと制止の言葉を言う前に、今までの前戯で赤く熟れ勃ち上がった乳首に軽く、一瞬だけ触れられた。掠ったように触れられただけなのに腰がひくりと揺れて、高い声が漏れ出てしまう。我慢しきれなかったその声にニュートはまた微笑んだ。

「ほら、似てる」
「似てねえよ…っ」
「ふ、どっちにしてもかわいいよ。でもね、君の我慢していないそのままの声の方が、もっとかわいいし、好きだ」
「ひ、っにゅ、ーと、」
「だから我慢しないで、お願い」

聞かせて。
ああ俺、ヤってる最中にされるニュートのお願い、だいきらいだ。

「ぁあっ!」

ズチュン、ローションと腸液の混ざったそんな水音がひときわ大きく俺の耳に届く。それと同時に突き抜けるような快感が俺の脳天を貫いた。ニュートが俺の性感帯目掛けてナカを突いたのだ。それは一回で終わることなく、ぱん、と肌のぶつかり合う音が連続する。

「あっやだぁっにゅ、とっンう"っ」
「なに?ちゃんと、言ってくれなきゃわからないよ、っ」
「っァあ、〜〜〜ッ!」

突然激しく強く突かれ、その衝撃に声を我慢するなんてことは頭から吹っ飛んでしまった。一際深く中を抉られ、胸も弄られては声を我慢するどころではない。シーツに縋る手に力を入れても、顔の半分を枕に押し付けても逃げられない。2箇所から同時に与えられる甘く激しい快感がびりびりと頭からつま先まで絶え間なく走り抜ける。

「あッ、ン"、っひぅう!ッばかっいっしょに、あうっするなぁっ…!」
「じゃあ、声、我慢しないでくれる?」
「なっ……!」

こいつ。なんて野郎だ。俺を揺さぶりながらさらりと言い放ったニュートに愕然としたが、彼は俺の唖然具合なんて気にする風でもない。俺だって中々に頑固な自信はあるがニュートはそれ以上だ。こうなるとこいつは絶対に聞く耳を持たない。

「(ああクソっ……!)」

後ろをめちゃくちゃに突かれているせいでちんこがムズムズする。ここのところいつもそうだ、後ろを突かれるのは気持ち良いがイく程ではないし、突かれた時の快感は射精した時のとは違うそれで、正直もどかしくて焦れったい。寧ろ、感じたことのない気持ち良さに自分の身に何が起きているのか分からなくて少し怖いとさえ感じる。だから早く何処かに行ってほしかった。きっと一回射精してしまえばスッキリするはずだ、そうであってほしい。回らない頭でそう結論付け、ニュートから与えられる甘いもどかしい快感から逃れたい一心で下腹部に手を伸ばした、が。

「あっ……!?ニュートぉ!」
「だめ。」
「ふざけんなぁ!」

気付いたニュートが問答無用で触ろうとした手を絡め取り、シーツに縫い付けられてしまった。俺の悲痛な叫び声が部屋に響く。なにがだめだふざけんな!!こいつ最低だ!人の心がない!!ああもういやだ、ちんこも触らせてくれないなんてもう無理泣きそう。ていうか涙出てきた。さいあくである。

「うっひぅっにゅ、とぉ…っおねが、」
「うん、気持ちいいでしょ?」
「きもち、いっひっぐ、きもちいからぁ…っ!」

ぐずぐずと泣きながらの俺の「お願い」にニュートは答えてはくれなかった。逆に問いかけられた言葉に何も考えず必死にこくこくと頷けば、ニュートはうっそりと微笑って、俺にキスの雨を降らせてくる。

「声を我慢しないほうがもっと気持ちいいよ」
「ぁ……、っ、あ、」

目尻からこぼれ落ちる涙を自分の指に伝せながら、ニュートがそっと、まるで小さな秘密を教えるように囁く。絡め合った手にきゅ、と力が入った。
とろとろに蕩けきった脳内でニュートの言葉を反芻する。そうか、声を我慢しない方がもっと気持ちいいのか。気持ちいいのは好きだ。ニュートと気持ち良くなりたい、けど今の気持ちよさは嫌だ。でも気持ち良くなりたい。もっと気持ち良くなるにはどうすればいい?
ああくそ、頭が熱くてどうにかなりそうだ。無理、駄目、耐えられない、分からない、いっぱいいっぱいで何も考えられない。頭の中がまとまらないまま、気づけばはくはくと息を吐き出しながら口を開いていた。

「あっ、あ、っんぁ、わ、かった、わかったからぁ」
「ン、本当?」
「ほんと、あっン"ぅっほんと、だからぁっ!こえっあぁっがまんしないからっまって、ぁう、おねがっとめてぇっ」

今はただこの甘いもどかしい気持ち良さから逃れたい、そんな思いでした俺の必死な懇願を聞いて、そこでニュートはようやく動くのを止めてくれた。

「はっ……は、ぁ、…っふ、ふざけんなおまえ……」
「声を我慢してる方が辛いでしょ」

俺が分かったって言うまで腰振るのやめてくれないのマジでこいつ容赦ない。ドSだ。胸を大きく上下させ、息絶え絶えに半ば力の無い声で悪態をつけば、ニュートは我慢したら君の唇に傷が付くし、僕も君の可愛い声を聞けない、なんて俺の唇を指でなぞりながら平然と答える。

「だからってこんな強硬手段に出なくたっていいだろ…」
「これぐらいしないと君は聞いてくれないじゃないか」

もう何度目だと思ってるの?と若干呆れ顔のニュートには無視を決め込む。まあ、確かに声を我慢しないでとこれまでに何回も言われているのは事実だ。そしてその度に起こるしょうもない戦いの末毎回毎回俺が折れているのだが、こんな無慈悲なことをされたのは初めてである。これ以降ももし同じことをされるんだったら俺の身がもたないし、どうせ声を出させられるのであれは羞恥心を殺してもう最初から声を我慢しない方が良い気がしてきた。

「……分かったよ」
「うん」

渋々頷いてやったらニュートは頬を緩めて満足げに頷いた。あからさまにニヤニヤすんな。可愛いけどムカつく。

「ニュート、ついでに言いたいことがあるんだけど」
「ん、何?」
「あのさ、…むね、さわるの、やめてくんない」

極力平静を装ってニュートにそう頼めば、彼は一瞬目をぱちくりとさせ。

「……どうして?」
「どうしてって……いやだから」
「気持ち良くない?」
「いや、気持ち良くないってことは、ないけど」
「………」

俺の返答にニュートは無言になる。え、何この沈黙。怖いんだけど。

「嘘だ、気持ちいいだろ」
「は?っあ、」

身構えていたらその言葉と共に身体をぐいと引っ張られたかと思うと対面座位の姿勢にされる。正常位の時よりもニュートの固いそれが深く挿さる体位に自然と声が漏れ出てしまう。

「っいきなりなにを、」
「ナマエ、胸を弄られる度に声をいつもより我慢してるし」
「ニュート、ぁ、ひう」

胸を柔らかく揉まれ、まるで期待するように身体がひくりと反応する。男なのだから俺の胸なんて真っ平らで、膨らみなんて胸筋分だけで殆どないはずなのに、本来触れられて気持ち良くなる場所ではないのに、

「こうすれば腰が揺れる」
「おいっぁ、ンん」

乳輪をなぞられ、摘まれたり擦られる度に、ニュートの言う通りねだるように腰が揺れてしまう。

「それに、」
「ぁ、やだッあぁ!」

更に言葉を続けようとするニュートに嫌な予感がして制止をしたが聞いてくれず。口に含まれ舐められた途端、一際大きく腰が跳ねた。いやだ、これ以上触られたくない。身体を縮こませる俺を抱きしめて、ニュートが耳元で囁く。

「…胸を触る方が中が締まる」
「っし、知らな…ッあ、あう」
「君は知らなくても僕は知ってるよ。君の身体が気持ちいいって教えてくれる」

ナマエだって本当は分かってるだろ?。そんなことを言われて思い切り睨んでやったが殆ど効果はない。どうして認めようとしないの?とでも言いたげだが俺にだって男の矜持があるのだ。乳首触られて感じるなんて、男なのに最悪だ。

「…この、っ研究熱心な動物オタクめ…………」
「舐められるのが一番好きなのも知ってる」
「うるさい…………」

ていうかヤってる時も観察されてるのかよ俺は。大した観察力だなおい!!なんとなく腹が立ったので皮肉を込めてそう言ってやったら真顔でそう返された。ああむかつく!本当なところが尚更ムカつく!!それがこいつにバレてるのも恥ずかしいし!反撃するつもりだったのに見事に返り討ちされた。顔を覆ってはああ、と大きなため息を吐くが熱くなった顔は冷めてはくれない。そんな俺を見て何を思ったのか、ニュートは徐にナマエ、と俺の名前を呼んだ。その声は少し元気がない。

「…本当に嫌なら、もう触らないよ」
「…………」
「君に気持ち良くなってほしいけど、…それよりも、僕との行為で嫌な思いはしてほしくないから」
「……」
「…さっき、強引にしちゃってごめん。僕は…、その、君の声は聞かせてほしいけど、でも本当に嫌なら」
「ああもう、黙れ」

顔を覆っている手を退けてその手で何やらふざけた事をのたまうニュートの口を塞ぐ。変わらず不安そうに俺を見つめるニュートに、俺はまた溜息を漏らした。

「………ナマエ?」
「…別に、嫌なんじゃない」

黙っていればこいつは俺が本当に嫌だと思っているのだろうか?まあ、そう思ったから今みたいなことを言ったのだろうが。確かに声を我慢せずに出すのは恥ずかしいし、胸だってできるならあまり触らないでほしいとは思ってはいるが、本当に嫌なわけではない。

「ただ、…前までは胸なんて触られてもなんともなかったのに、今は気持ち良すぎて…少し怖い」

これが本音だった。ぼそりと呟くと、ニュートは眉をきゅ、と寄せて俺の頬を撫でる。

「……ごめん、ナマエに、…少しでも気持ち良くなってほしくて」
「謝るなよ。分かってる、」

お前がそう思ってくれてて、嬉しい。ニュートの顔を引き寄せて触れるだけのキスをすれば、彼はそれに応えてくれる。
男同士のセックスだ、触り合ったり扱き合いならともかく、アナルセックスで気持ち良くなるなんてことは期待していなかった。ケツの穴は本来そういう用途で使われるものじゃないから。それこそ最初は圧迫感と違和感ばかりで、お世辞でも気持ちいいなんて呼べたものではなかった。ちんこだって萎え萎えだったし。それでも俺は満足していた。後ろを使った行為をしたいと言い出したのは俺からだし、何より好きな人と繋がれるのだから、これ以上幸せなことはない。だがニュートはそれを良しとしなかった。さっきニュートが言った「君に気持ち良くなってほしくて」は奴の口癖だ。そうして俺が気持ち良くなれるよう、ニュートは俺の身体を丁寧に作り変えた。行為の度に胸を弄り、後ろを入念すぎるほど解して、前立腺とやらで快感を得られるように開発した。それが功を奏し今ではどうだ、触れられる度に声が震え、突かれる度に腰がおののく。こんなにも気持ちいい。

「ニュート、」

名前を呼んでニュートを押し倒す。胸を押され、されるがままにシーツに倒れ込んだニュートに跨った状態のまま、挑発的な笑みを浮かべる。

「お前が俺をこんな風にしたんだ、責任取れよ」
「…うん」

結局、こいつにどんなことをされたって嫌なことはないし、気持ちいいのだ。腰をゆるゆると動かしながら奴の唇を塞げば、俺の中のニュートの熱が質量を増した感覚にほくそ笑んだ。






20190115

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