「はあー今日も疲れたぞっと」

お疲れ社畜、休日万歳。社畜というのはもちろん俺のことである。魔法省に就職してからそれなりに日が経ち、上司の悪口を隠れて言えるくらいには仕事にも慣れてきた今日この頃である。それにしてもあのクソ上司め俺に仕事を押し付けて自分は花金だからってさっさと帰りやがって後で覚えてろよ!なんて脳内で呪詛を吐きながら家に続く階段を登っていく。ああ疲れた、いつにも増して脚が重い。さっさとシャワー浴びてさっさと寝よう、明日は休みだしゆっくり寝てられるぞ〜愛してるマイホーム、マイベッド。そんなくだらないことをぼんやり考えつつ、明日のダラダラ休日プランも立てながらポケットから鍵を取り出し、我が愛しのマイホームの鍵穴に差し込んだ、のだが。

「……ん?」

開けようとしたはずなのに開かない。もう一度鍵を回せばガチャリと鍵が開く音がする。
…ということは、鍵を回す前からドアが開いていたってことだ。おかしいな、もしかして俺鍵を閉めずに出てったのか?ちゃんと確認したと思ったんだけどな……。泥棒とか入られてないといいが。
鍵を閉め忘れるなんて相当疲れてんだな〜と頭をガシガシ掻きながら部屋の扉を開ける。そして今度こそ怪訝な表情をすることになった。

「……あれ」

………おかしい、部屋の明かりが点いている。家を出るときは消して出たはずなのに。
どういうことだ、と眉間に皺を寄せて玄関に突っ立っていたが、次の瞬間ばたんがたんと大きなけたたましい音が聞こえてきた。それに咄嗟に反応し強盗かと杖を出し呪文を唱えかけたものの、

「ナマエ!」
「う"っ?!」

そんな暇を与えずに凄まじい衝撃が俺を襲う。
ここには居ないはずの人物がクソでかい声で俺を呼んだと思ったら俺目掛けて突進してきて、次の瞬間ぎゅう、と力強く抱きしめられたと気付いたのはその襲撃の数秒後のことだ。突撃された衝撃で後ろに倒れずに何とか踏ん張ったものの、それでもくぐもった声が出てしまった。

「っニュート?!」

ここにはいないはずの人物とはそう、同居人兼恋人であるニュート・スキャマンダーなのだが。こいつは全く予想外である。まさか帰っているとは思わなかった、魔法動物の研究で1週間程家を空けると言って出て行ったばかりだから。ていうかおい、まだ1週間も経ってないぞ。

「どうしたんだよ、研究は大丈夫なのか?」

と言いつつも、恋人の居ない家はガランとしていて温もりが足りず寂しかったのは事実だから嬉しいけれど。いつも当たり前のようにいる存在がいなくなると、改めてその大切さを実感するというものだ。

「…ニュート?」
「…………」

名前を呼んでみるが、当の本人は俺を力強く抱きしめたまま返事をしない。

「なんだ、甘えたか?」

どうしたんだよなんて言いながら栗色のふわふわな髪を撫でたり、背中をさすったりして久しぶり(でもない)のニュートを味わっていると、

「ナマエ…」
「…え、なにお前酔ってるの?」

俺にひっついていたニュートがそこで初めて顔を上げる。数日ぶりに見る顔は真っ赤に染まり、ついでに言うならば目も座っておりさらに言えば酒臭かった。こんなに酔った姿を見るのは久しぶりだ。

「だ…大丈夫か?」
「ナマエ、僕」
「おう、」

吐いたりしないよな?大丈夫か?と心配している俺を他所に、不意にニュートのポツリと漏らされたか細い声に閉口する。

「僕……君がいないと駄目なんだ」
「………」
「たった数日だけなのに、君の姿が見えないのは、つらい」
「…ああ、俺も」

微笑んでそう返せば、ニュートは嬉しそうにふにゃりと顔を緩ませて俺の肩に顔を埋める。酔った姿をあまり見ない分いつにも増してかわいいなおい。動物がするように首筋にすり、と擦寄られる感触が擽ったくて柔らかく笑みを漏らした。

「すき、すきだよ、すき」
「ん、おお、」
「きみを、トランクの中にずっと閉じ込めていたい」
「…………。」

が、うわ言のように好き、と繰り返された後にうっそりと目を細められ発せられたその言葉に思わず黙る。え、何今の発言。ちょっとヤンデレっぽくなかったか。

「…どうしたの?」
「え、ああ…なんでもない」

…ちょっと怖い。でそう思いつつも、こいつとならトランクの中だけで過ごすのもいいかもしれないと思ってしまう俺も相当だ。そんな自分に一人苦笑しながら、俺はニュートに彼がいなかった分の甘いキスを贈ってやる。と、

「ナマエ……っ!」
「えっニュートっ?!んっ」

ガタガタと扉が音を立てる。どうやらニュートのストッパーを外してしまったらしい、手首をドアに縫い付けられたかと思うと勢いよく唇を塞がれた。

「っなあ、ちょっとまて、待てってっンむ、」
「んっナマエ、っもっと、」
「分かった分かった!分かったから部屋に行こう、な?」

求めてくれるのは嬉しいが、流石に玄関で盛るのはまずい。強請るニュートを何とか宥めて部屋へと連れて行こうと手を引く。「部屋に行こう」なんて誘うような言葉を使ったのは初めてで、まさかそんなことを言うことになるとは思わなくて些か恥ずかしかったけれど、この場合は宥める用途で言ったのでまだマシだ。

「お、わっ」
「っナマエ、」

廊下を抜け、リビングを抜け、部屋に入った途端強く引っ張られベッドに押し倒されたかと思うと馬乗りされる。この間約数秒だ、何という手際の良さだろうか。

「はは、今日のスキャマンダー先生は随分と積極的だな」

笑いながら手際の良さを茶化せばうん、なんて素直な返事が返ってきた。それが可愛くてニュートのシャツを引っ張って唇を塞げば、ニュートもそれに応えてくれる。そしてキスをしながらお互いの服を脱がして、なだれ込むように行為に移っていく。

「ナマエ、すき」
「ん。…俺も」

ちゅう、なんて可愛い音を立ててから囁かれる少し舌ったらずな言葉に、自然と笑みが零れた。



それからニュートに俺を好き勝手させた後に早く帰って来た理由を後から聞けば、研究が上手いこと捗り予定よりも早く終わったから、らしい。まあこの魔法動物オタクのことだから研究自体をほっぽり投げて帰ってきたとはあんまり思っていなかったのだが、まあさすがニュート・スキャマンダー先生だ、とてつもなく優秀である。そしてしばらくして、そんな優秀なニュートの魔法動物の研究の旅に同行することになるわけだが、それはまた別の話である。








20181218


[ 15/16 ]

[*prev] / back /[next#]