「ファラデー」

夜。サルーンの薄汚れたベッドで、不意に後ろから覆いかぶさってきたナマエが耳元で俺の名前を囁いた。ふわりと酒の匂いと部屋の少しのカビ臭さが鼻に付く。

「何だよ眠れないのか?添い寝でもしてやろうか」

酔っているナマエに冗談めかしてそう言ったのだが返事はなく、奴は代わりにはあ、と熱の籠もった息を漏らす。その手は俺の太腿や脇腹を所在なさげに這うようにうろついている。ああ、これは間違いないぞ、とても嫌な予感がする。数秒後に俺の耳元で囁くであろうナマエの次の一言は絶対に、アレだ。

「胸揉ませて」

やっぱりだ。

「お前なあ…」
「なあ、ファラデー、」

俺が呆れた声を漏らす傍ら、ナマエは甘い声でお願い、と懇願する。その声とは裏腹に、既に両手は服の上から遠慮なく俺の胸をさすっている。「お願い」と言っている意味が全くない。

「ついこないだは触らせてだけだったのに随分エスカレートしたな…、っ」
「うん、」

いや「うん」じゃねえよ。開き直りやがったこいつ。
ナマエが後ろから抱きついて俺の胸を弄っていたかと思ったら、器用に後ろからボタンを外し問答無用で俺のシャツの中に手を突っ込んで直に触ってきた。俺の背中に重なっている身体は熱いくせにその手は妙に冷たくて、肌に触れられた瞬間ぴくりと肩が震えてしまう。

「ふ、…乳首たってる、」
「そりゃあお前の手が変に冷たいからだよ」
「ん…ごめん」

次からはちゃんと温めてくる、なんて妙な気遣いを見せたナマエは、手の冷たさのせい(だと俺は言い張る)で勃っていた乳首を軽く摘んだ後、俺の胸をやわりと揉み始めた。

「ん、…きもちいい、」
「…そうかよ、そりゃ良かった」
「お前は?」
「あ?ッ、」

囁かれるその声と同時に胸を強く揉まれ、言葉が詰まってしまう。

「お前もきもちよくなれよ」
「おいナマエ、お前なんつー酔い方を…っあ、おい、バカ、」
「なぁ、きもちいいか」

耳を食まれ、胸を弄られ、「お前も気持ちよくなれよ」と同じことを言うくせに肝心なところは触れられず、ただひたすらに焦らされる。
身体の芯が熱い。散々こいつに変な弄り方をされ続けたせいで、今では胸で簡単に快感を拾うようになってしまった。乳首で感じる男って、なんだよそれ。最悪だ。出したくもない気持ち悪い声が出てしまうのを必死で我慢するが、強く引き結んだ口からどうしても漏れ出てしまう。

「ぁ、う、…っ」
「はは、ファラデー、かわいいな」
「う、るせえなっあ、ンン」

男には全く似つかわしくないその言葉に悪態を吐こうにも、ナマエによって唇を塞がれてしまいそれは叶わない。

「ンっ、ぅ、」
「ん、…俺、お前のせいで胸だけじゃなくて太腿にも目覚めそう」
「ッは、なんでだよ…っ」
「だってファラデーの太腿、むちむちでエロい。ていうかお前の全部がエロい。ずるい」
「意味わかんね、」

よく分からないことを呟きながらナマエは片方で胸を、もう片方で太腿を触り出す。その手が太腿の内側の、しかも際どいところばかりを撫で回すものだから俺としてはもどかしくてたまったもんじゃなかった。

「は、っ…、」

くそ、ダメだ、我慢できない。はあ、と自分でも分かるくらい熱っぽい息を吐いて、のろのろと前を寛げる。自分で勃ち上がりかけた自身を触ろうとしたが、寸前で腕を掴まれナマエに「だめ、」と熱の籠もった、けれど確かな声で制されてしまった。思わずなんで、と自分でも情けない声が漏れる。

「気持ちいいか、って俺、聞いただろ」
「な、……」

こいつ。どうやら俺が「気持ちいい」というまで扱かせてもくれないらしい。なんという奴だ。

「気持ちよくない?」
「っ、」

何言ってやがる、気持ちいいから勃ってるんだろうが。そうツッコみたかったが我慢した。素直に「気持ちいい」と言うのはなんだか癪だからだ。だが、俺にそう耳元で囁いてる間でも、ナマエの味わうように俺の身体を弄る手は止まらない。

「…っ(触らせてくれないなら、早く触ってくれ…!)」

こいつが俺にその一言を言わせたいというのを知っている。胸を触るのだけでは飽き足らず、人を恥ずかしがらせてねだらせたりとか、そういう羞恥系の類のものをさせるのも性癖らしい。全く、中々趣味の良い変態である。まあ、

「なあ、ファラデー」
「(くそ、勘弁しろよ、)」

奴にだめと言われて、結局素直に言うことを聞く俺も俺だが。

「あああったく!」
「んぶっ」

くるりと勢いよく身体を反転させてナマエの方を向く。胸倉を掴んで引き寄せ、勢いよくナマエの唇に自分のを押し付けてやった。ああ、なんて我慢がきかない男なんだろうな、俺は。

「…胸だけじゃ足りねえんだよ、もっと気持ち良くさせろ、馬鹿」

だが、カードや酒での勝負には勝てても、こういう時の、こういう表情をしてるこいつには、どうしても勝てない。つまり、すごく、エロいってことだ。

「ん」

俺の精一杯の答えにナマエは満足したらしい。ふにゃり、とかわいく笑ったくせに、俺に噛み付くような全然かわいくないキスをしてきた。

「ファラデー、」
「ン、…」

ナマエに腕を引っ張られ膝立ちの姿勢になると唇を塞がれた。舌を絡ませ合いながらナマエのズボンに触れ、盛り上がり熱くなった部分を一撫でしてからベルトのバックルに手を掛ける。俺の胸を撫でたナマエ手が身体の線をなぞるように下へと移動して、ゆっくりと前を寛がせただけのズボンを脱がせていく。カチャカチャと鳴る金属音と甘い水音が混じって、どうしようもなく興奮した。
お互いの下穿きを膝まで脱がせると、ナマエは俺の尻にに手を回して引き寄せ、ぴたりとお互いの自身同士をくっつけてくる。

「相変わらずでけーなお前の」
「そりゃどーも。ナマエのだって中々立派だろ」
「なるほど、俺の息子をお前のケツに早く突っ込んで掻き回して欲しいって?」
「どうしたらそう言う解釈になんだよこの阿呆」

くだらない会話をしながらナマエは腰を動かして俺の息子に自身の勃ち上がったそれを擦りつけてくる。くそ、熱い。気持ちいいし視界に映る光景がエロい。やらしい。自然と腰が動いてしまう。

「はは、これじゃあオイルいらないな、我慢汁だらだらじゃん」
「っお前が散々焦らすからだろうが」
「焦らしてない」
「焦らしてたろ」
「俺はファラデーの口から気持ちいいって言葉が聞きたかったの」
「そうかよ、っン、」

俺の返答を待たずに首筋に唇を寄せたナマエは、片方は俺の胸を弄り、もう片方の手で自身を包んで一緒に扱き始める。お互いの興奮したそれが擦れ合って、主に俺の我慢汁のせいでぐちゅぐちゅといやらしい音がして、視覚的にも聴覚的にも熱を煽るには十分だった。ナマエが俺の身体にあちこちキスを落としている中、俺は奴の身体の線をするりとなぞる。俺ほどじゃないが、こいつの腹筋は締まってる割に尻にはいい塩梅に肉が付いていて、それなりにいい身体をしているのだ。そうしてナマエの尻を揉んでいると、ごり、と自身の弱いところを攻められてびくりと腰が揺れた。びりりと脳天に快楽が響く。

「!あっ、バカ、ぅ、あ……っ」
「ファラデー先っぽぐりぐりされるの好きだろ。あと裏筋なぞられるの」
「っるせ、え、!っあ、うんン…っ!」

自身の弱いところを的確に愛撫され、罵倒の言葉は途中で情けない形のない声に変わってしまう。ナマエの身体を弄っていた俺の手は、最早添えるだけのものになっていた。こいつの手で扱かれるのはどうしてこんなに気持ちいいのか。イきそうだ、

「っひ!」

だが、ナマエが不意に乳首をぺろりと舐め、自身を扱かれた時のものとは違う、途端に甘い痺れがぞくぞくと背筋を駆け抜けた。俺の反応に気を良くしたナマエが、調子に乗って胸も弄り始めるものだから堪らない。力が抜け、いつの間にかナマエの膝に乗り上げる形になり、奴の顔が俺の胸あたりに来る体勢になっていた。

「ってめ、同時にすんな…!っあ、」
「ん、だって、同時にした方が気持ちいだろ」

クソ。本当に不本意であるが事実である。
自分の唇を舐めたナマエの、濡れた唇と赤い舌がちらりと覗いて、それがどうしようもなく魅惑的だった。

「なあ、口でしてもいい」

胸を揉みしだいていた手を止め、有無を言わさないかのような口調で、上目遣いでそう聞かれる。普段のナマエからは見ることのできない、獣のような表情にぞくぞくした。じわりじわりと胸に与えられていた快感が身体を巡って脳を犯していく。俺の本心を知っている上でそう聞くのだ。そして態々言わせようとする。ああ本当に、悪趣味な野郎だ。

「、っ勝手に、しろ…!っふあ、あッ……!」

そう言った途端、ナマエがじゅう、と乳首に吸い付いた。舌で転がされ、時折甘噛みされ、痺れるような甘い快感が下腹部に響く。

「、っく、ぁ、うン……ッ!」
「声我慢しなくてもいいのに」

こんな女みたいな感じ入ったような声気持ち悪すぎて出せるか。必死に口を噛みしめた俺を見て残念、とナマエは片方の乳首を口で、もう片方を手で弄りながら呟いた。胸だけじゃなく自身も激しく扱かれて、押し寄せる快感が自身を絶頂に追い込んでいく。

「っひ、ぁ、あっナマエっ…!やめ、」
「イきそう?」
「ふっ、だめ、ア、だめだ、もう……っ!」
「ん…イっていいよ」
「イっ……んうぅ、ッ……!」

ぐり、と先端を刺激され、乳首を強く吸われ、腰がびくびくと震えると同時にナマエの頭を抱きしめた。

「は、……っ」

手に出された俺の白いそれを見て、ナマエはふ、と目を細めて笑った。射精後の倦怠感と、じんわりと胸に残る快感の余韻がない交ぜになって変な気分だ。イってスッキリしたはずなのにまだ胸がむずむずする。それを紛らわそうとぼすりとベッドに倒れた。

「いっぱい出たな」
「うるせえ……ふざけやがって……」
「ファラデーがかわいくてつい」
「ついねえ…、」

ごめんね、とナマエははあ、と息を漏らす俺に唇を寄せる。

「大分胸で感じるようになったよな。そろそろ胸だけでもイけるようになるんじゃないか ?」
「………」
「そうなるまで俺が開発してやるよ。ていうか俺まだイってないし、まだ付き合ってくれるよな?ファラデー」
「………は、はは…(ヤバイ)」

ぽやぽやと酒と興奮で火照った顔で俺の胸をさすりながらえげつない事を言い放ったナマエに、イった後の俺は力の入らない、渇いた笑いしか返せなかった。








20171111

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