俺は今、ビリーの胸をめちゃくちゃ触っている。

「(どうしてこうなった)」

こうなったのはファラデーが原因だと思いつつも、俺の性癖に引かずに触らせてくれているビリーも謎だ。一体なんでだ。と思いつつ甘んじてその状況を受け入れる俺。そしてまあなんということだろう、ビリーの胸はすべすべで正直めちゃくちゃ触り心地が良い。今までファラデーの胸筋しか知らなかったというのもあって、その感動は尚更大きい。
ビリーの目は心なしかいつもの鋭い目がとろんとなって、柔らかくなっている、気がする。わざわざ俺の部屋に来て胸を触らせるというのが謎だが、俺に「触れ」なんて言ったのは間違いなく酔っ払ってからの勢いってやつだろう。次の日お互い気まずくて目を合わせられないやつだな…とか思いつつ手に触れるそのしっとりとした肌の感触が堪らなくて、そんなこと後で考えればいいやとか思ってしまう。我ながらなんて単純な奴。

「ん」
「あ、ごめん」

そういうわけでビリーの胸を撫でたりつついたりさすったりしていたらどうやら弱いところに触れてしまったようだ、ビリーが小さく声を漏らした。あーちょっと待ってさっきのエロかった!!だめだめ我慢!!!
自分の邪な感情が過ってしまって思わずビリーの胸から手を離す。それを見てビリーは少し眉根を寄せて、がしりと胸から離したばかりの俺の手首を掴んだ。

「え、ぁ、ごめ、ビリー、っ」

俺の邪な感情が読まれたのだろうか、やべえへし折られると一瞬恐怖を感じたが、それは杞憂に終わった。ビリーはぺたり、と自分の胸に俺の手を押し付ける。

「ちゃんと触れ」
「…あの、」
「触れよ」

戸惑う俺にじとりと有無を言わさない視線を向ける。ひえ、こわい。
言われるがまま俺はビリーの胸を触る。ビリーはというと、しばらくされるがままになっていたが、不意にその手が俺の顔に伸びた。

「?ビリー?」
「手持ち無沙汰だ」

そう言って彼は俺の身体のあちこちを触り出す。まあ確かに触られるだけじゃ手持ち無沙汰だろうが…、俺を触るその手つきは存外優しくて心地良くて、少しどきりとする。
そうしてしばらく、お互いの身体を触り合う(といっても俺は胸しか触ってないが)。その間は無言で、たまにビリーは俺のことをじっと見つめていた。そして俺はというと、ひとしきり彼の胸筋を堪能し終わったので、その胸筋から手を離した。

「………ありがとう、ビリー」
「…もういいのか」
「……ん、大丈夫。ありがと」

…正直もうちょっと触っていたかったが、ビリーの真っ黒な瞳に見つめられたまま触るのは流石に少し居心地が悪くてそれは言えなかった。

「…これで借りは返した」
「え」

ビリーのその言葉に首を傾げる。借り?こいつに何か貸していたものがあったか?そんな俺を見て彼は続けた。

「あの時の酒代と、宿代だ」
「あの時、…って、まさか、」

酒代と宿代。そう聞いて思い出したのは、俺がビリーと会った時のことだ。
脳裏に蘇るのは数年前、まだファラデーと出会う前の、ある町のある酒場でだらだらと酒を煽っていた時である。
ある男が酒場に入ってきて酒を注文した。が、酒場の主人は「東洋人に飲ませる酒はない」とデカイ声で断ったのだ。その言葉を聞いてちらりと入って来た男の顔を盗み見たが、なるほど、確かに東洋人だった。ここからじゃその男の表情は見えなかったが、酒場の主人は何も言わないその男に「何か文句があるのか?」と返したあたりそういう感じの表情をしていたらしい。そこから空気が怪しくなり始めた。男の態度が気に入らなかったのか、酒場の主人は酒を断っただけでなく、更には追い出そうとしたのだ。その場にいた男共も席を立ち、その東洋人を囲んでいく。空気が一気に張り詰め、今にも撃ち合いが始まりそうだった。
俺はと言えば、何もそこまで頑なに拒まなくてもいいだろうと意を唱えようとして、ホルスターに手をかけながら立ち上がった、のだが。
次の瞬間鈍い音がして、男を囲んでいた1人が倒れた。
その東洋人がそれをやったのだと理解した直後、俺が手を出す暇もなく殴り合いが始まり、相手に銃を使わせる暇も与えずにあっという間に周りにいた男たちが倒れていく。
そしてその場に残ったのは、ホルスターに手をかけたままその場に固まった俺と、痛みで呻き声を上げたり、もしくは気絶で倒れた男たちの中心に立っている、東洋人だけで。

「………(すげえ、)」

目にも見えないその早業に素直に感嘆したのを覚えている。今でもその鮮烈な光景は脳裏に焼き付いているからな。自分でもテンションが上がっていたというのは分かっていた。だから若干興奮気味でこちらに背を向けていたそいつに話しかけたのだ。

「なあ、見てたぜさっきの!すごいなお前!10人以上いただろ、一気に倒すなんて…、」
「…………」

とそこまで続けたところでぎ、と刺すような鋭い視線が向けられた。それに一瞬怯んで、ぱっと両手を上げて降参のポーズを取る。

「ああ、いきなりごめん、俺はナマエ。な、ここじゃアレだし、別のとこで良かったら飲まないか?いいもの見せてもらったし俺奢るよ!ここより酒の味も主人の態度も良いところ知ってるんだ」
「……」

俺の言葉に少し面食らっていたような男だが、やがて頷いて、ああ、と了承の言葉をくれた。それに自然と笑みが浮かぶ。

「よし、じゃあ行こうぜ!…あ、お前、えーと、」

名前を呼ぼうとしたが、目の前の男の名前を知らない。なんて呼べばいいのか分からず言い淀んでいると、

「………ビリー・ロックス」

そう言って手を差し出してくれたビリーに、破顔してその手を握る。

「ん、行こうぜビリー!」

そしてその後別の酒場で飲んだらまあ見事に意気投合して、その後寝床を確保しようとして宿に行ったらベッド1つの部屋1つしか空いてないと言われ、仕方なく一緒のベッドで寝たのだ。まあ、一緒に寝たのはお互い酔っていたしその勢いもあったと思うが。そして1枚のシーツを2人で被って眠りにつき、朝起きたらビリーは消えていた。彼とはそれきりだったのだ。
ビリーの言う酒代と宿代というのは、…恐らく、そのことだと思うのだが。

「アレか?!そんなの気にすんなよ!俺が好きでやったことだし、何年も前なのに借りなんて…!それにこんなの、」

俺がお前に無理強いしてるみたいじゃないか、とぼそりと呟いた。が、ビリーはゆるりとかぶりを振る。

「無理強いじゃない。俺が好きでやったことだ」
「う、…でもファラデーから聞いたんだろ?ごめんな、こんな、気持ち悪いことさせ、」
「しつこい」
「わっちょ、んむ」

不機嫌そうな声音で俺の言葉は遮られ、頬がその長い指で挟まれる。いつもしている黒のグローブは、今はしていない。

「言っただろう、俺も好きでやったんだ」

むすりとした表情でそう言い放った。数年前の借りを返すなんて義理堅い奴だと感心しつつ黙っていると、不意にふ、と薄く笑ったビリーは俺に顔を近付ける。鼻と鼻がくっつきそうなほどの距離でかっこいい笑みを浮かべられて、どきりとした。

「…あんた、バカだな」
「は?」
「バカでお人好しだ」

耳元でそう囁かれたと思ったら、俺の肩をポンと叩いて、おやすみと言って部屋から出て行った。

「…どういう、」

ことだ、そうぽつりと呟いた言葉は、誰にも聞かれることもなく消えていった。




それから次の日。ビリーに何か言われるだろうかと身構えていたのだが、彼は何事もなかったかのように俺に接してきたので、昨日の出来事は夢だったのではと半信半疑である。ちなみにファラデーにはきっちりとお灸を据えておいた。あいつ本当に余計なこと言いやがって。ビリーの胸を触れたのはいいが、極力バレたくない俺の性癖を知る人物が1人増えてしまった。まあ、ビリーはファラデーのように他人に言いふらすような人間じゃないと思うから、大丈夫だと思いたい。

「あーしんどい…」

ローズ・クリークを救い、守るための作業は連日続いて、今日もそれは変わらない。炎天下の中長時間作業を続けていたせいか、くらりと目眩がしてしまったので途中で抜けて、日陰に腰掛けて水分を取ることにした。汗を拭ってしばらく休憩しようとぼうっと景色を見ていると、教会の近くで作業をしているビリーと目が合ってしまった。いつも思うがこいつのシャツ一枚姿はエロいと思う。シャツ透けねえかな〜と我ながらエロガキみたいなことを考えていたらビリーが作業を中断してこっちまでやって来てくれた。労いの言葉でもかけてくれるのだろうかと思ったら、

「大丈夫か?後で胸触るか」
「え」

夢じゃなかった。
突然のその申し出にびっくりして思わずビリーをじっと見つめてしまう。彼の表情はいたって真面目だった。労いの言葉というか、なんというかストレートすぎる…。が、俺にとってはとても嬉しい申し出だった。

「………ぁー…ええと、…………触ります……」

連日の作業で疲れている所にまさか、ビリーからそんなことを言ってくれるとは。嬉しくてにやにやとだらしのない顔をしてしまう。そして俺の締まりのない顔を見たビリーは、意地悪そうに口角を上げた。

「すけべ」
「お前が触るかって聞いたんだろ?!」

そんなわけで時々こうしてからかわれるようになった。嬉しいような悲しいような微妙な心境であるが、なんだかんだ後で揉ませてくれるのでとりあえず幸せである。




20170414

[ 8/8 ]

[*prev] /back/ [next#]