テレビ番組の収録の合間、休憩をもらったので飲み物でも買おうと廊下に出た。
メンバー何人かに頼まれた分も買って、数本のペットボトルを抱えて楽屋に戻ろうとした時、不意に聞こえてきた会話に足を止めた。
 

 
「まさか断られると思ってなかったわ」

「メンバーが出てるドッキリ番組には出るくせに、一人だと出ないのかよって感じだよな」

「女一人だからって、調子乗ってんじゃねぇの?」
 


廊下の角から覗き見ると、そこにはスタッフと思われる男が二人立ち話をしていた。
 
メンバー、そして女一人。
おそらくその単語がなかったらあまり気にしなかっただろうが、身近に心当たりがありすぎて、思わず聞き耳を立てる。
 
 

「デビューして数年の分際で番組断るとか、普通ある?」

「ないない。紅一点だから注目されてるだけだって気付けよな。お高く止まってんじゃねぇよって感じ」
 
 

その言葉に、ふつふつと怒りが沸き上がるのを感じた。

間違いなく、コイツらは真衣のことを言っている。
話の内容的に真衣がコイツらの番組出演を断ったらしいが、彼女が俺たちに相談もなく、理由なしにそんなことをするはずがない。

今ここで詰め寄って話を聞こうかとも思ったが、正直冷静でいられる自信もなくて。
かえって話がややこしくなり、それでまた真衣に非難が集中する可能性もあると考えた俺は、とりあえず楽屋に戻ることにした。
 
 

「おー、おかえり照。水ありが……、ちょちょちょ、照!?」
 
 

楽屋に入れば佐久間が声をかけてきて、かと思ったら俺を見て慌て始めた。
 
 

「水!水めっちゃこぼれてる!!」

「えっ、ちょっと照兄どうしたん!?」
 
 

言われて手元に視線をやれば、無意識に力を入れてしまっていたらしく、ペットボトルを握り潰していた。

ぼたぼたと水がこぼれて自身の手が濡れているが、そんなことにも気付かないほど俺は怒っていたらしい。
 

 
「照、大丈夫?」

 
 
真衣が心配そうに近付いてきて、俺の手を拭いてくれる。

他のメンバーも床を拭いてくれていて、申し訳ない気持ちになると同時に、真衣の顔を見ていると先ほどのスタッフの会話が思い返されて、胸の辺りがムカムカした。
 
 

「…………ごめん。さっきちょっと、嫌なもん見て。それで腹立った」
 
 

そう呟けば、真衣が少し眉を寄せて、俺の手を握ってくれた。

握られた箇所からじんわりと温かくなる感覚がして、先ほどまでの怒りが少しずつ引いていくような気がした。
 

 
「…………あの、さ。……真衣、なんか番組断ったの?」
 
 

俺の手を握る真衣の手が、ぴく、と小さく動くのを感じた。

この反応からすると、断ったのは間違いなさそうだ。
だがその理由は、スタッフにあそこまで言われるほどのものなのだろうか。
真衣に限ってそんなことはないと思うが、シンプルに気になる。

他のメンバーも俺の質問が気になるらしく、全員が俺と、そして真衣を見つめていた。
 

 
「………ごめんね。みんなには言った方がよかったね」
 

 
申し訳なさそうに真衣がぽつりと呟いて、俺は少し後悔した。

ああ、そんな顔をさせたかったわけじゃないのに。

真衣は少し俯いて俺の手を触りながら、こう続けた。
 
 

「………ドッキリ番組のね、話が来てたの。あ、こーじとは違う番組ね。私が仕掛け人で、メンバー全員にドッキリをするっていう」
 
 

ドッキリ番組。

確か先ほどのスタッフも、「メンバーが出るドッキリ番組には出るのに」とか、言っていたな。
 
 

「その……、ドッキリの内容が、ね?…………私、どうしてもやりたくなくて」
 
 

真衣が、俺の手を離した。
 
 

「……ごめんね。みんなも出られる、チャンスだったのに」
 
 

そう言って顔を上げた真衣の顔は、なぜか泣きそうで。
 
 

「…………その内容、聞いてもいい?」
 
 

一度離された真衣の手を取って、今度はこちらから握りしめた。

大丈夫、安心して。

そんな想いを込めて、両手でぎゅっとその小さな手を包み込んだ。
 

 
「…………………………脱退、」
 
 

ぽつりと、彼女は呟いた。
 

 
「……………私が……、Snow Man、を………脱退する…って、いう、ドッキリ」
 
 

『真衣がSnowManを脱退するドッキリ』。

 
ガツン、と、頭を殴られたような感覚がした。

はっきり言葉にしたくないのだろう、本当に小さな声で言ったその内容は、静まり返った部屋では大きすぎるほどで。

誰かが、息を呑む音が聞こえた。

と同時に、襲ってきたのはやはり後悔で。

一番言いたくないであろう言葉を、嘘でも言わせてしまった。
彼女が俺たちに話さなかったんじゃなく、話したくなかったんだ。
そんな言葉、口にすることすら嫌だったから。
 
 

「っ真衣姉〜〜〜!!!」
 
 

言わせてごめん。

そう言おうとした時、重くなってしまった空気を壊すように真衣に飛びついて来たのは、泣きそうな顔をした康二だった。
 
 

「嫌やんな!そんなんドッキリでも嫌やんな!断ってくれてありがとう…!」

「っそうだよ!嘘でもそんなこと、おれだって言いたくないし、言われたくない!」
 

 
康二に続けてラウールもそう言って、康二ごと真衣を抱きしめる。
さっきまでの空気はどこへやら、この二人のおかけで、いつものSnow Manの空気感が戻ってきたのを感じた。
 
 
「…で、照。さっき嫌なもん見たって言ってたよな。それって真衣に関係あること?」

「もしかしてだけど、真衣が番組断ったからって文句言ってるスタッフでも見た?」
 

 
ふっかの後に阿部が言う。

二人とも全く目が笑っていない。
そして、阿部の察しが良すぎて、怖い。
 
 

「二人とも、そろそろ離れないと真衣が潰れちゃうよ」

「俺にも真衣ぎゅーさせろー!」

「岩本くんも、いつまで手握ってるの?代わって」
 

 
舘さんが真衣の心配をしてるのは分かるけど、佐久間は真衣に抱きつきたいだけだし、目黒はただ俺が羨ましくて代わりたいだけじゃねーか。
 
 

「そっちはふっかたちに任せるわ。俺らはその間、真衣といちゃいちゃしてるんで、ごゆっくり」
 
 

翔太がそんなことを言うから、ごゆっくりなんかしてやるか、という思いを込めてふっかと阿部を見る。

すると二人とも俺の気持ちが伝わったのかこくりと頷いてくれたから、嫌だったけど真衣の手を離して、それを目黒に握らせた。
 
 

「俺らのお姫様悲しませた罪は重いってこと、思い知らせてやんねーとな」
 

 
居残りメンバーにもみくちゃにされて困ったように笑う真衣を見てから、俺たちは楽屋を出る。

そうだよ、真衣はそうやって、俺たちのそばで笑っていればいいんだ。
真衣から笑顔を奪う連中は、俺たちが排除してあげるから。
 

………なんて、な。



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