かえりたくない


『パルデアって暑いの?寒いの?』
「そりゃ、アローラに比べたら寒いやろ。寒すぎて凍えるわ」
『わかった!ならダウンにマフラーにカイロに手袋に……』
「待て待て待て。そこまでやないから。雪山にでも行くんか?」

 幼なじみが……パルデアに来るッ!

 そうと決まった瞬間、頭の中でカーニバルが始まった。今が始業前ギリギリであるということとか、朝一でトップに呼び出されていることとか、そんなん知らん。知らんわ。今はとにかくこの喜びを最大限に味わわせてほしい。
「く〜〜〜……っ」
 早起きしてものすごく眠いところに突然かかってきた電話一本だけで、こんなにも心躍る一日が始まろうとは。通りかかったアオキさんに不審者を見るような視線を向けられた気がするが、
 電話の相手は幼い頃をジョウトで過ごした一番の仲良しであり、紛れもない親友。共に色々な場所を旅した仲だったけど、なりゆきで片方はパルデアに、片方はアローラに住み着くようになった。
 喧嘩別れとか、ではない。お互い落ち着く場所がそこだったというだけで。交友関係は当たり前のように今も続いている。今もこうしてしょっちゅう電話をして、近況を話し合ったり笑いあったり。
 しかし、距離が遠いこともあって、なかなか会いに行けるタイミングがない。パルデアでトップに見初められ、なんやおもろそうという理由だけで四天王という座についてしまったがために、なかなかこの地を離れることができないでいた。

 そんな時、願ってもみない提案が。リーグの職員たちを交えた忘年会、宝食堂でわいわいと酒組みを交わしていた時に、一本の電話が。表示を見れば愛しの彼女の名前が表示されているから、速攻で席を外して表に出てきた。
「どしたん、急に」
『なんでもないよ。なんかね、チリちゃんに会いたくなっちゃって』
 可愛いことを言う幼馴染に、心臓がドキドキして止まない。これは





「アローラ!久しぶり!わあ、チリちゃんってば一段と……わ、わ、なになに?」
 顔を見た途端、それまでそっと心の中に封印していた愛おしい気持ちが盛大に溢れ出し、人目も気にせず抱きしめた。
「……〜っ、もう、会いたかった。ずっと会いたくてたまらんかった」
「あはは、チリちゃん、空港でよく見かける人みたい」
「空港みたいなもんやろ、ここは」



「アローラはいいところだよ。私、アローラが好き」

 言葉では明るいふうに言っているのに、



「どうしよう、私帰りたくない。チリちゃんの顔見るだけでこんなに、こんなにさ、心がぐしゃってなるなんて、おかしいよこんなの!なにか、催眠術でもかけたんでしょ。ぜったい、ぜったい、そうだよ!」


「……んー、かわいい。かわいいな。目ェぐるぐるにして。もっと聞かせてくれん?そういうの」
「……っ、あ、なに、」




「チリちゃんだって、あんたのこと一ミリも帰したくないんやけど。ええの?どうなったって知らんで」
「ま、っ、……待ってっ……」
「わかった。ほんならこうしよ」


「チリちゃん、今日で幼馴染辞めたるわ」


「この薬指、チリちゃんに頂戴。アローラなんかに帰さんで」




かえりたくないtop