別れ間際


「帰るといっても、どうやって?ここは海の上どころか海岸ですらないのに」
「これは国家機密なのですが、鬼倭は長距離転送を行える稀有な魔法道具を所持しています。一度の転送で運べるのは数人程度に留まりますが、この横笛を吹けば“門番”がそれを用いて迎えに来てくださるという段取りです」
「ほう、魔法道具ですか」
「近年の法改定により、出入国の際には必ずこの転送を介さねばなりません。これにより国外に現在の島の位置がばれることもなくなるし、当人はあっという間に大陸の内側へ移動できる。まことに便利な代物ですよ」

迷宮『アミー』の宝物庫から持ち帰ったもの、つまり戦利品だ。
シンドリアに行くため国を出る時にも使ったから安全性は保証できる。

「国家機密をそう易々と明かしてよいのですか?」
「よくありませぬ」
「はい?」
「なので、秘密にしておいてくださいな。他言無用です。でないと此方、鬼倭王様に怒られてしまいますから」
「あなたねえ」


「その転送魔法で、俺を貴国へ連れて行くのは難しいですよね」
「えっ!?」
「いえ、気にしないでください。少しでも助力をと思ったのですが、鬼倭王国が我々と既に国交を絶っていることはよく理解しています。俺ほどの立場の人間が書簡もなく突然乗り込むなど、失礼極まる……」


「赤琉殿。来るべき時、俺のところへ戻ってきてください」
「そんな約束、果たせるかどうか……」
「いいや、シンドリアで俺たちが関わり合い、繋がりを持ったことをシンドバッド王は喜んで利用するはずです。鬼倭王国が真に七海連合に加盟しているというのなら、隣国の島国にも何かしら助力を求めるはず。あなた自身がそう言ったんでしょう」
「それは、まあ……そうかもしれませぬが」
「少なくとも俺がこれから興す国は鬼倭王国と敵対するつもりは今は全くありません。むしろ後ろ盾になっていただきたいくらいです。シンドリアと同じように」


「このことをそのまま貴国の王にお伝え頂いても構いません。あなたのことは信頼しています。いざという時、あなた方が力を貸してくれることを期待しています」

「とはいえ、まずは自国の力だけで目的を果たしたいというのが本音です。少ない可能性ですが、手段を選ばなければ七海連合の力を借りずとも解決に向かうかもしれない……その手が無いわけではない。まあ、あれに力を乞うのはそれこそ苦肉の策ではありますが」
「?」
「いえ、気にしないで。独り言ですから」



「これを身につけていてください」
「なんですか?大層な腕飾りですこと。でも正直嫌いじゃないかも……」
「これで赤琉殿は俺の人質になりました」
「……ん?」
「せっかく得た協力者をみすみす逃したくないので……これは俺のわがままです。必要な時に呼びかけられるように、身につけていてください。煩わしいと思ったら捨てても結構です。これから国に帰るのに、怪しげな術をかけられた草を身にまとっていては不都合もあるでしょう」


「それでは。ご無事で」
「こちらのセリフです。皇子さま、どうか身の安全には気をつけてお過ごしくださいな」





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