愛のパラドックス 前編

メインストーリー第6話/宝島編(z=99以降)





気帆船ペルセウスが遂に完成。
科学王国は石化の謎を解く”世界冒険チーム”と、本土に残る”人類発展チーム”の二手に分かれることとなる。船に乗るメンバーは船長である龍水によって選抜されるのだが、その発表された中に名前の名前もあった。この世界で唯一医療知識を持ち、尚且つ女優経験を活かした様々な知識を持っている。こうして全メンバーが発表され、千空の父親が不時着した島――”宇宙船ソユーズ”という宝箱を手に入れる為出航した。

宝島へと到着して早々、偵察隊として名前は千空達と共に島の偵察へと向かうこととなる。名前が選ばれたのは主にゲンとのコンビで島民との交渉担当、他にも怪我をした際の応急処置係だった。だが島を出て早々に船と連絡が取れなくなってしまい高台へ行って望遠鏡で確認したところ船の仲間が全員石化してしまうという事態が発生する。その謎を解き皆を石化から救う為に島の住人であるアマリリスという少女と出会い、彼女もまた石化を止めたいという同じ目標を持っていた。その石化の謎を探る方法として、石化装置を手中に収めるこの島の頭首に嫁ぐための選抜で潜入する必要がある。その”カワイイ子選抜”にコハクと名前も参加することとなり、名前は良いがコハクの大改造が必要となるのだった。その為にまず敵につかまっている船から”研究所ラボ”を手に入れなければいけない。

「うむその通り!私とラボは恋人同士でな!」
「あ"ー」

ブッチュ〜〜〜〜
森影から船を監視していた時に敵陣の少女に見つかり、コハクと一戦交えるもあまりの強さに制圧が困難となる。咄嗟にコハクが大きな声で「絶対にラボが欲しい!」と叫び、なんとか船の生き残りが居る事に賭けて敵陣に分からない言葉で伝えた。その時にゲンの口合わせで千空をラボという名に仕立て上げ、コハクと千空が彼氏彼女なのだとホラを吹く。それを真実に見せかけるためにコハクは勢いよく、千空の唇に口づけをした。若干唇の上に外れてはいたが、角度から敵の少女には本当にしているように見えただろう。その時の千空の顔は怖ろしく死んでいた。

「名前ちゃん名前ちゃん、ちょっといいかな?」
「え、どうしたのゲンくん?」

石化から生き残った銀狼とスイカによってなんとか研究所を奪還することに成功した千空達は、さっそく”コハク美少女大改造計画”の為に美容化学実験を開始した。そんな中、ゲンが隙を見て名前を皆から少し離れたところに手招きして呼んだ。

「さっきはゴメンね、咄嗟とは言えあんな嘘言って…」
「………え?なんのこと?」
「え?って、いやいやホラ、千空ちゃんとコハクちゃんを恋人にしちゃって…しかもまさかあそこまでするとは…」
「あーあのこと!…………え、なんで私に謝るの??」
「え?ええっ?名前ちゃん、ジーマーで言ってる?」
「え、ええ?」

ゲンは嘘だとしても自分の言ったでまかせのせいで千空とコハクがキスをしてしまったことに対して謝るのだが、肝心の謝られた本人は心底不思議な顔でゲンへと首をかしげる。確かに名前と千空が恋仲だというのをハッキリと聞いたこともなければ、付き合ってるの?と聞いてもお互い首を振る。それでもメンタリストのゲンとしては、2人がただの幼馴染ではない関係だとほぼ確信が取れていた。お互いがそうでないと言うなら正直ゲンが謝る必要はなかったのだが、そこはお節介焼きとして突っ込んでみたくなるもので、若干カマかけとして聞いてもみたのだ。

「千空ちゃんが他の子とキスして、なんとも思わないの?」
「え、だって千空とコハクちゃんは目的の為にそう演じなきゃいけなかったんでしょ?特になにも思わないけど…」
「あ〜〜〜…なるほど、そうだよね…うんうん、ゴメンね俺ってば余計な心配しちゃって…アハハ」
「うん?」

台詞としては名前の返しはゲンの想定していたパターンの中に入っていた。ただ違ったのは、それが確実に本心だったことだ。そしてゲンは納得する、そういえば名前は日本が誇る名女優でこれまでに数々の異性とキスシーンを熟してきた女なのだ。数々っていうのは年齢的にそこまで経験してないと思うので盛りすぎたが、彼女はキスシーンだろうと何だろうと演技の為なら何でもするのだった。そして石化後に特に行動を共にしてきたゲンは彼女の異常っぷりに毎回驚かされる点が多く、自分の知ってる人間の心理と彼女があまりに違いすぎていて未だに分からない点が多い。

「シャンプーにコンディショナーに香水!口紅まで!うわあ!いいなーいいなー!」
「おー、お前も使えよ、化粧品なんか今回限りで余りまくるからなぁ」
「あー…いや、私はいいや」

千空先生の科学実験スペースへと戻れば、アマリリスの持ってきた材料と化学薬品で様々な美容品を作り上げていた。ファンデーションやラメまであり、一気に現代へと引き戻された気分になる。名前にとってもメイク道具は商売道具の一つでもあるので目を輝かせるが、何故か彼女はそれを断った。

「どうしてなんだよ?名前は何もしなくても綺麗だけど、したらもっと綺麗になるんだよ?」
「うん、でも目的は潜入でしょ?もしコハクちゃんが村の住人ではなく侵入者だと気づかれた時、同じ匂いをさせていたら私まで怪しまれちゃうでしょ?私は今回は村人Aのちょっと可愛い普通の女の子設定で行くから、なるべく芋臭くいきたいんだよね」
「さすが名前ちゃん、今回の潜入はジーマーで名前ちゃんの十八番だねぇ」
「だからアマリリス、村について色々教えてもらってもいい?」
「え、ええ!任せて!」

既に名前の中には役の設定が出来上がっており、その役作りは徹底的だった。何度か彼女の演者としての力はこれまでにも見てはきたが、今回は特にその演技力にかかっているので彼女の腕の見せ所である。
こうして科学の力で大改造されたコハクは見違えるほど美少女になった。見た目だけは。そして他にも潜入できるのであれば多い方がいいということで、不気味な笑みを見せてアマリリスは男子全員に化粧道具を振りかざす。

「千空が女の子になった!!そして普通に可愛い!腹立つ!!」
「うるせーな、つかあんま見んな」
「おっぱいなに入れてるの?」
「メロンパン」
「んなアホな」

アマリリスの化粧魔術によって出来上がった千空ちゃんにゲンちゃんにソユーズちゃんだったが、さすがに厳しいと判断されて潜入は断念となる。だが男性陣の中で唯一イケそうだとなった銀狼にメイクアップをすると、それはもうコハクに負けないくらいの美少女へと変身した。

「でも気を付けてね、特にイバラとモズって男は平気でカラダ触ってきたりするから…」
「コハクちゃんは大丈夫そうだけど、名前ちゃんはちょっと心配だね、本当気を付けてね?銀狼ちゃんは目覚めさせないように頑張って」
「ボクだけなんか心配が変な方向いってない!?目覚めさせるってなに!?」

なんとか明日の”カワイイ子選抜”に行くメンバーが決まり、アマリリスは名前に聞かれた情報を全て答えた。そして選抜組の女子達(一人は男の娘)はアマリリスと共に今晩は村で寝泊まりすることとなり、アマリリスが最後にそう助言して4人はそのまま船で洞窟を離れる。コハクはかなりの戦闘力があるので最悪の事態は免れそうだが、名前に関してはある程度の戦闘はできるがパワーではかなり劣るものがあるので押さえられたら身動きはとれないだろう。

「千空ちゃん、ホントは名前ちゃん行かせるの乗り気じゃないんじゃないの?」

4人が去ったあと、もう見えなくなってしまった洞窟の入口を見ながら千空に小さな声でそう尋ねる。千空の眉がぴくりと反応した。

「あ?別にンなことはねえよ……ただ、役者のアイツは若干心配だけどな」
「え、なんで?名前ちゃんの演技力は問題ないでしょ」
「逆だ逆、アイツは…演技の為なら自分の倫理なんて消し去るヤツなんだよ」
「………あー…確かに、それは……バイヤーかも」

千空の言っている意味がなんとなく理解できてしまったゲンは、先ほど正に彼女の演技への姿勢に度肝を抜かれていた。若干の冷やかしのつもりで尋ねたのだが、ゲンは本当に彼女が心配になってきた。

「てかホント、2人って似たもの同士だよね」



▼△▼




「私たち、今から友達じゃないから」

”カワイイ子選抜”当日、村の広場に集まる前に名前がそう言った。それに対して一瞬ショックを受けるコハク達だったが、「そして後宮で友達になるから」と言われて更に頭にハテナが飛ぶ。名前のシナリオでは、自分は村の奥地に住む少女で村民とはあまり交流なく過ごしてきた箱入り娘なのだという。だからアマリリスやコハク、銀狼もとい銀ちゃんとは友達ではなく、後宮で意気投合して仲良くなる――という設定を伝えた。

「ってアレ、名前ちゃんいなくない!?」
「本当だ、名前がいない…!?」
「さっきまで一緒に居たはずなのに…どこに行ったのかしら、もうすぐで頭首様のお迎えが来ちゃうわ…!」

広場へと訪れると既に18を過ぎた女子達が何人か集まっていた。コハク達もその中に入っていくのだが、何故かその中に名前の姿がない。皆がきょろきょろと辺りを見回して探すのだがやはり見つからず、そう言ってる間に迎え役の者たちが集まってしまった。とりあえずアマリリスたちは自己紹介で自分をアピールし、なんとかコハクも銀狼も合格を貰う。そして今ここにいる娘全員の選抜が終わってしまい、合格したコハク達は迎え役たちと共に後宮へと向かう道のりを歩いていた。一体名前はどこへ行ってしまったのかと3人が不安に思い歩く中、突然先頭から順に足が止まっていく。どうやら足を止めたのは先頭に居た第二の権力者、イバラのようだ。

「あれぇ?君、さっきは居なかった子だよね?」
「ひっ…!」
「もしかして隠れてたの?あーあーダメじゃない、それにすご〜〜くカワイイね、君」
「ご、ごめんなさい…っ」
「(名前!?)」

まさかの森の茂みから出てきたのは名前の姿だった。見つかってしまったと言わんばかりの焦燥感溢れる表情はコハク達のまったく知らない彼女の顔だった。イバラに”運悪く”見つかった名前という少女はその容姿から合格と判断され、そうしてそのまま迎え役たちの列に入れられる。コハク達は列に入った名前へ声をかけそうになるも必死でこらえ、彼女の描くシナリオの全貌をやっと把握して前へと進んだ。

「んー、いいね…名前ちゃんだっけ?」
「は、はい…」
「みんなカワイイけど、君が一番好みだよ、俺」
「あ、ありがとうございます…」
「後宮入ったら可愛がってあげるね」

敵の根城になんとか潜入することが出来た4人は、まずは敵陣の偵察をしなくてはいけない。その間はコハクの付けているイヤリング型インカムで千空達と連携をとり、なんとかキリサメ一人をおびき出して石化光線を投げさせるのが作戦だ。その敵陣の幹部の一人、モズが途中から選抜された名前を見てかなり好意を寄せる発言をする。名前はただの島娘のまま返事をし、その表情はびくびくと怯えていた。
潜入始まってすぐ、コハクが敵地でソユーズを発見した。だがそれを伝える手立てはなく悩んでいた所に、千空たちからネズミにみせかけたミニ四駆が届く。幸いにもこちらには名前が居たので手紙を書くことができて”プラチナがある”ということを千空達になんとか伝えることに成功した。だがそのプラチナはコンクリートで守られていて、砕こうにも音でバレてしまう可能性がある。そこで千空は”無音爆弾サイレントボム”でコンクリートを壊すというまたも突飛な手段を思いついた。

「そこの娘は何ができるんだ?」
「あ、あの…えっと、私は…では……歌をうたいます!」
「おおー!いいな!聴かせろ!」
「(名前ちゃんナイス!!)」

コハクがコンクリートの固まりを壊す作業に入っている間、アマリリスと銀狼と名前で余興を見せて監視達の気をそらす作戦に出ていた。その中で音を消す最適解といえば”歌”。特にミュージカル経験のある名前の歌は声量もあるので、コハクの作業音を掻き消すのに十分だった。



▼△▼




「ねー名前ちゃん、侵入者って誰だか知ってる?」

宇宙船ソユーズの中のコンクリートを壊したことにより、その跡が見つかってイバラに侵入者がいるということがバレてしまう。そんなある日の夜、モズは自分の寝床に名前一人を呼びだしてそう尋ねた。確実に侵入者はお前だと疑う質問を向けるが、名前にはそんなことさっぱりと分からなかった。何故なら今の彼女は、この島の外れに住む少女なのだから。

「ごめんなさい、私には……」
「んー、そっか、君は本当に知らないっぽいね」
「では、私はこれで…」
「まあまだ帰んなくていいじゃん、せっかくなんだしゆっくりしようよ」
「あ、あの…」

なんとかモズに名前は無害だと思わせることに成功はするが、モズは名前の手を引きそのまますぐに帰してはくれなかった。そのことに怯えはするものの、その怯えは異性に対しての少女としての怯えだった。

「ホントは後宮にまだ入ってない娘は手ぇ出しちゃいけないんだけど、名前ちゃんすっごい俺のタイプだからさ、ちょっとくらい味見させてよ」
「え、でも…」
「どうせ後宮入ったらいくらでも可愛がってあげんだから、今からでもいいだろ?それとも、元々後宮に入るつもりない…とか?」
「いえ、ただ私あまり慣れてないから…少しだけ怖くて」

このモズという男は戦闘力だけでなく観察力にも長けていて、この男の前では一切の気の緩みも許されないのだと名前は思った。だから自分のこの焦燥感も全てただの娘の弱さなのだと演じて見せる。

「……………んー、いいね」
「ひゃっ…!」
「へぇー、本当に男初めてなんだ?君みたいなカワイイ子が?」
「ずっと、村の外れに住んでたので…」

ニヒルな笑みを見せてモズが名前の腰を抱き寄せる。ぐっと縮まった距離からじっくりと顔を見つめられ、名前の表情を観察するようだった。男に慣れていないのだというように顔を真っ赤に染め上げ、目も上手くモズと合わせられない仕草をする。

「じゃあ、こーゆーのも初めて?」
「え?ンッ―っ…!?」

数センチまで近づいていた顔が急に接近してその差はゼロとなる。合わせられた唇はきゅっと固められるも無理やりこじ開けられ、ぬめりと大きなモズの舌が咥内を犯すように入ってくる。名前はそれを初めて受け入れるようにして藻掻く声を上げた。

「んんっ…ふぅ……んぁ…!」
「んー、カワイイね、息は鼻でするんだよ」

まるで口の中に蛇を入れられたかのような息もできないキスに悶えながらも受け入れとも抵抗とも違う動きを見せる。そしてモズの手がやわやわと名前の胸やお尻を揉み、自分の腰へとグイグイ押し付けるようにしてくる。身長差もあってお腹に硬いものが当たる感触がし、いよいよ本格的に抵抗しなくてはいけない状況となった。

「これ以上は…だめですっ…!」
「えーいいじゃん、名前ちゃんすっごい美味しそうな顔するんだからさ」
「なにをしているんですか」
「!?」

このままでは完全に喰われてしまうと思った矢先、現れたのはキリサメだった。彼女は驚くでも不機嫌な顔をするでもなく、変わらぬ鋼鉄のような無表情でギロリとモズを睨みつける。

「後宮入り前の娘に手を上げるのはご法度です」
「あー見つかっちゃった、いいとこだったのに」
「最低ですね、早く彼女を離してください」
「んー、残念、じゃあね名前ちゃんまた後宮でね」

先ほどまでゼロ距離だった体はパッと離され、名前は恥じらうようにして一礼をしその場から出ていく。そしてそのまま自分の寝床にされている部屋まで駆け込み、部屋の隅で小さく蹲った。先ほどまで姿を消していた名前が顔を出したこともあってコハクや銀狼が心配そうに「大丈夫?」と尋ねるが、名前は小さく「だいじょうぶ…」とだけ言って皆には背を向けたままである。

「(できた…演じきった……)」

震えそうになる体をぎゅっと抱きしめ、誰にも悟られないようにひたすらに心が収まるのを待つ。そして必死に演じた自分を褒めるように何度も何度も頭の中で暗示をかけるのだった。

「(大丈夫…あれは演技、ただの演技、これは人類を救う為の壮大な映画…私はそのキャスト……)」

名前は自分の今の感情についていけないでいた。震える体の意味も、どうしてこんなにも暗示をかけるようにしているのかも、分からないままでいる。彼女は確かに日本のエンタメ業界を賑わせる期待のホープとまでいわれる女優ではあるが、まだルーキーに過ぎなかった。年齢を感じさせない仕事ぶりを見せるも、それでもまだ全てを手に入れるまでは遠い。このストーンワールドでもその未熟さを見せない彼女であったが、それは時間の問題に過ぎなかった。

「(千空…っ)」







 

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