愛のパラドックス 後編

メインストーリー第7話/宝島編(z=99以降)





「石化武器と、この娘を俺に渡す、いいな?」
『!!!!』

頭首の石化装置を手に入れる為に敵陣に乗り込むも、コハクが侵入者とバレてしまい一戦交える事となってしまう。その中で頭首の顔を見た銀狼が刺されてしまい、コハクの計らいによって息を引き取る前に石化光線を受けた。監視達が石化光線を見ないようにを目を瞑っている間にアマリリスと名前は逃亡し、千空達の居る洞窟へと戻るのだがモズに後をつけられてしまう。だが再度復活した科学王国皆の考察により、モズと共闘作戦を思いついた。そこからはメンタリストあさぎりゲンの言葉巧みによる交渉術でモズを一時的に仲間に引き入れることへと成功する。だがその中で彼の出したまさかの条件に全員が仰天の表情を見せた。

「いいよ!」
『いいの!?』
「うん、だって石化装置を手に入れるにはモズさんの力は必要だもん」

ケロっとした表情を見せて、条件に出された娘――名前は二つ返事で条件を呑んだ。そのあまりの軽率すぎる決断に、石神村の皆とゲンは”なんかこのパターンどっかで見た気がする”とデジャヴを感じるのだった。
モズの条件は一瞬とんでもないこちらの不利となるものだと思わせるのだが、実際にはこの条件は今は考える必要はない。そもそも今の状況はモズに全員皆殺しにされる危機的状況であり、それをゲンの交渉によって”手を組む条件”の話に自然にすり替えられている。とにかく今は石化装置を手に入れることが先なので、難題の条件については後で考えればいい。

「んー、アマリリスちゃんが侵入者の仲間っつーのは見抜いてたけど、名前ちゃんは気づかなかったな、きみ凄いね?それに今の名前ちゃんの方が更にタイプだよ」
「あはは、どーもでーす…」
「なんか名前ちゃん、ゴイスーに気に入られちゃってるね…モズちゃんに」

潜入者だということがバレた名前は今更取り繕う必要もないのでいつもの素の自分で対応するが、モズには名前は気弱な村外れに住む少女だと思っていたので少しギャップがあった。だが逆に素の彼女も可愛いと皆の前で口説き始め、名前はただただ苦笑いする。自分の女だと言わんばかりに腰を抱き引き寄せるモズに、ゲンは冷や冷やしながらチラリと千空を盗み見た。

「ちょっと近いんで離れてもらっていいですかね…?」
「えー、演技はもう終わり?キスした時の恥じらってた君も可愛かったのに」
「あーー私、多分まだ侵入者ってバレてないと思うし演技で絶対バレさせないんで、モズさんと一緒に戻るね!石化したコハクちゃん達が心配だし!」
「んー、いいね、せっかくだし続きする?」
「石化武器手に入れたらね!」

先ほど衝撃的なワードが聞こえた気がするが、皆はあえて聞いてないフリをするように一斉に目と耳を逸らした。龍水に関してはスイカの目と耳を塞いでいて、スイカに「どうしたんだよ?」と聞かれている。さすがに名前も焦った表情でモズの背中を押し、話が終わったのだったらと早く帰ろうと船へと乗せる。そして丁度視線を先ほどから千空に向けていたゲンは、完全に顔を引きつらせていた。

「千空ちゃん……えと、大丈夫?」
「あ"?なにがだよ…すっげー合理的に話が進んで良かったじゃねぇか」
「(ひぇ〜〜これは思ったよりジーマーでバイヤ〜〜〜)」

兎にも角にも、ゲンの交渉のお陰でなんとか科学王国民の命は守られた。さらにはモズという最強戦士を一時的にだが仲間に引き込むことができ、結果としては大成果だろう。



▼△▼




第二の石化が解けたのは、皆がほぼ全員復活した後だった。
石化武器争奪戦は見事に科学王国が勝利を収める。千空以外の全員が再び石化してしまい、白夜の残してくれたプラチナで復活液を作ってゆっくりだが石化から皆が目覚めていく。荒らされたペルセウスも無事復旧し明日明後日にでも出られるという状況の中目覚めた名前は、どうして自分をここまで復活させなかったのだろうかと千空を見つめた。その視線に気づいてか「今お前がすべきことは何もない」と突き放すような言葉を千空に放たれ、名前は余計苦しんだ。

「千空……怒ってる?」
「んなヒマねぇよ…と言ってやりてえけど、そうだな、わりと腹立つわ」

散歩だと言って千空に連れられたのは宇宙船ソユーズがあった場所だった。不安になりながらも尋ねると、千空にしては珍しい答えが返ってくる。千空は昔から怒りを露にしたことがほとんどなかったので、ハッキリとそう言われて名前は余計体を震わせた。

「ねぇ、ごめんなさい、せんく…」
「分かってねーのに謝んな」

両肩を掴み、ソユーズを包む大樹の根本にグっと押し付けられた。こんな風に見つめる千空は初めてでどうしていいか分からず名前は困惑する。それでも真っ直ぐにすぐ近くに見えた千空の顔に、思わず涙が出てきた。

「千空っ、キス…して……お願い、キスして…っ」

ずっと抑えてた溢れる感情が吐き出されていくように、名前は胸を押さえながら縋るように千空にそう言った。千空は表情を変えることなく名前を見つめている。

「千空がいい…っ…ぜんぶ、全部千空がいい…っ…」
「ッ――……ご機嫌取りには、充分な台詞だな」
「んぅっ」

そう言い捨てるようにして、塞ぐように唇が重なった。自ら開けた唇から探るまでもなくお互いのものを見つけ、激しく絡ませる。いつもより少し乱暴なキスだったけれど、名前には涙が出るほど今最も欲しているものだった。

「んっ…ぅ…はぁ、ふぅっ…ぅ…」
「どこまでヤらせた?」
「シて…ない…っ…」
「ここは触ったか?」
「ぁっ…んん、」

唇を何度も合わせながら合間から千空が尋問のように尋ねる。息も絶え絶えになりながら答える名前の体に手を伝わせ、お尻や腰や胸やと全てを上書きするように触れた。

「正直、お前が合理的だっつーんなら俺には口出しできねぇ……でも、お前がそれで泣くくれぇなら、そりゃ非合理的なんだよバカ」
「うっ…うぅ……ごめんなさい…」

そう言って再び唇を合わせた。
名前はこの時、どうして自分がこんなにも心を乱されているのかをようやく理解する。目的の為なら唇を合わせる行為も体に触れられる行為も仕方のないことだと思って、あの時だってモズに体を許した。3700年前だってそうだ、ドラマや映画で何度も共演者と口づけを交わしてきたし、それは女優として当然のことだと思っている。それでも自分の中にはずっと千空という少年が居て、誰かと唇を合わせる度に彼を思い出していた。つまりそれがどういうことなのか、何故気づかなかったのだろうか。

「千空…好き…っ…私、千空が好きだよ」

これが好きだという感情なのだ。
彼女はあまりにもその感情に鈍感すぎた。それは名前の元からの鈍感さと、足りない年齢と、これまでに演じてきた恋愛ストーリーがあまりに美しく綺麗であったから。こんなに渦巻く感情がどういう名のモノなのか知らなかった。

「おー、ようやく気づきやがったか、そうだよ……お前は、3700年前からずっと、俺のことが好きなんだよバカ」
「知らなかったぁ…!!」
「お前の鈍感さには呆れるわマジで」

ありえないような話だが、ありえてしまうのが彼女である。そして千空はそのことにずっと気づいていた。でもあえて言わなかったのは、彼女がそれを自覚していなかったから。彼女自身がそれに気づくのが、2人の関係には大事だった。

「ハッ!でも私が千空のこと好きじゃダメじゃない?だって千空は恋愛は非合理的とか言うゲス野郎じゃん…!」
「テメー告白してえのか貶してえのかどっちだコラァ」
「いだだだだ!ごめんってば!」
「つか、いらねー心配なんだよ、んなことは」

この状況でよくもまあそんな発言ができるモンだと千空は名前のあまりの鈍感さに頭を悩ませる。けれど自分が告白をしただけで千空の意を知らない名前としては、ずっと彼のイメージは”恋愛は非合理的だ”というデリカシーの欠片もない男なのだ。

「お前は今、俺のことを好きだと分かって、どうしたいって思った?今すぐ付き合いてぇか?それとも結婚でもしてぇとか言い出すか?」
「え?えー、そもそも付き合うってなに?今とどう変わるの?」
「ククク、ああ…そうだな、何も変わんねーな」
「そもそも千空は私のこと好きなの?」
「お前は俺が好きでもねえ女にここまですっと思うのかよ」
「え、わりとそう思ってた…」
「テメー本当に俺のこと好きなのか?」

名前にとって石神千空という少年は、科学のことに関しては真っ直ぐでとても分かりやすいが、それ以外では何を考えているのか理解ができなかった。だから当然のように千空が返してくるので、名前は必死に彼の言っている意味を考える。好きでもない女にここまで……ということは、千空は、

「好きだ、名前」

初めて聞く言葉だった。
遠くで波の音が聞こえる。月明かりが彼の顔を照らし、その真っ赤な瞳が自分を真誠に見つめているのが分かった。

「私も、好きっ…」
「知ってるわ」
「私は知らなかった!両方とも!」
「せめて自分の感情は気づけよ鈍感」

何故だか流れる涙を千空の指が掬うように払い、名前はへらりと笑った。科学はこんなにも進んでいるというのに、2人の発展はこんなにも遅い。そしてそれはこれからも、

「俺はお前との関係に名前を付けるつもりはねえ、まだ俺たちは人類救う途中なんだよ」
「うん、そんな暇ないもんね?」
「ああ…ったく、なんでこーゆーのは察しがいいんだよ」

千空は自身の頭に手をあて、俯いてククッと苦く笑った。どうして自分が彼女を好きになってしまったのかよく分かった。彼女もまた、千空と同じように目指すものに真っ直ぐで濁りがなく、誰よりも自分を信じてくれているのだと。

「千空、大好きだよ」
「あーはいはい、俺も好きだよ」



▼△▼




人類石化の犯人とされる”ホワイマン”は月に居る。
そう科学の力で導き出された答えを知ってしまったが最後、千空の次の目指す場所は月と決まった。このストーンワールドでありえないとんでも計画だが、誰もが絶対にありえないと思わなくなってしまった。千空という少年はそういう力を持っている。

「千空ちゃんさ、いい加減名前ちゃんとの関係認めたらどーなの?バレバレなんだけど」
「あー?だから、アイツとはただの幼馴染だっつってんだろ、しつこいぞメンタリスト」
「千空ちゃんも頑固だねぇ…」
「ちげーよ、マジでそーなんだっつの」
「えぇ…」

再び科学王国へと帰る船旅の途中、甲板に一人でいた千空にゲンが声をかけた。千空に心理戦は効かないというのは充分に理解しているので回りくどいことは無しにして正面突破を試みるも、やはり彼の言い分は変わらない。だがいつもと違ったのは、その嘘にしか聞こえない言い分が本気のものに聞こえたのだ。でもゲンにはほぼ確定で2人が恋人と違わぬ関係にあるという根拠があった。千空もそうだが、名前に対しても自分のメンタリストとしての洞察力がこうも活かせないのかと若干心が折れそうになる。ゲンが思ってる以上に、2人は複雑な関係らしい。

「ちなみになんだけど〜、それって人類石化復活計画が終わったら、なんか変わったりする?」
「ククッ、さあ…どうだかな」
「え〜〜ヒントくらい頂戴よ〜」
「あ"ーうぜえ、無駄口叩いてねぇで働け」
「ドイヒ〜」

千空は恋愛を非合理的だという。確かに彼をすぐ傍で数年見てきて、彼のそういった心を動かすのはそう簡単では無いのだなということが分かった。特に自分のような欲と煩悩で生きているような人間と比べたら千空は飛びぬけて”変人”といえるだろう。けれどたった一人だけ、彼の心を動かす人物がいるのも確かだった。そしてまたその人物も、彼に対して動く心とは別のことを言う。

「なんてゆーの、こんな壮絶なドラマ見ちゃったらさ、最終話までいきたくなるじゃない?」

その矛盾が生じる2人を、人類石化問題を解決ついでに見届けたいと――あさぎりゲンは思った。






[宇宙のステージ/メインストーリー完結]








 

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