「だーーー!もう!!いい加減にしろ!!!」 スパーーーン! 暖かい春の陽気に包まれた正午。私は目の前の炎のように真っ赤な頭を、手に持っていたスリッパで思い切り叩いた。 中学を無事卒業して第一志望の高校にも合格。少し長い春休みを向かえた私たち。義務教育という3年間を終えて、再び新たな学舎で勉学に勤しむまでの束の間の休息は、誰もが楽しむべき期間。だというのに、目の前にいるこの無駄に大きな赤頭が目立つ男――桜木花道はずっと暗いままだった。 理由は単純。中学時代に50人の女子に告白して見事50人にフラれてしまうという記録を達成してしまったからだ。嬉しくもない新記録に、桜木花道は春休み期間ずっと顔を濡らし喚いていた。私の部屋で。 「だっでぇ〜〜…」 「だってもクソもあるか!泣くならよそで泣け!!」 「うおおおおおおおん!!!」 これぞまさに男泣き!とでもいうようなくらい大号泣してみせ、花道は私の部屋のティッシュ箱を次々と空にしていく。 そんな彼と私の関係は、ずっと昔から同じアパートに住んでいる謂わば幼馴染というやつで、今では花道の世話はほぼ私が受け持っている。 「明日からの高校生活で挽回したらいいじゃん!高校はほぼ知らない人ばっかなんだから、出逢いも沢山あるって!」 「………本当か」 「中学とは比べ物にならないくらい可愛い子もいっぱい居るって!ね?」 「…………うむ」 なんで私がこんなご機嫌取りみたいなことをしなきゃいけないのか…と思うのだが、何だかんだと私は花道がかわいいのだ。桜木花道は天性のバカで短期で喧嘩っ早くてどうしようもないヤツなんだけど、一緒に居てとても面白くて楽しい。幼い頃からの付き合いともあって、私は花道をほっとけないでいた。 「ご飯なに食べたい?」 「オムライス!!」 「何個?」 「5個!!!!」 「はーい」 古くて汚くて狭いアパートに、一人暮らし。最初は家族3人で住んでいたのだけれど、小学生の頃に父と母が離婚して中学では母が再婚、新しい家に引っ越すと言われたけれど、花道のことを置いていけなくて私はここに残った。わりと放任主義な親なのと、花道という最強すぎるボディーガードもいるので一人暮らしすることに許しが出た。 「よーっす」 ガチャ 何の合図もなく部屋のドアが開いてそんな声が聞こえる。鍵をかけないだなんて無用心だなぁと言われるかもしれないが、なんたってここには喧嘩上等の無敵すぎる桜木花道がいるのであまり気にしていなかった。というか、花道が部屋に入ってきて鍵をかけずそのままってなだけなんだけど。 「む?洋平か」 「よう花道、まだシケたツラしてんのか?」 「うるせぇ、俺は腹減ってんだ!」 「多少は元気になったみてーだな、安心安心」 我が物顔で部屋の奥まで入ってくる水戸洋平は、中学から花道とよくつるんでいる友達の一人。あと3人くらいの男を引き連れて、前の学校では”桜木軍団”と呼ばれていたりした。その中でも洋平は花道の一番の理解者であり大親友で、彼らはいつも一緒だ。不良ではあるけど一番大人でしっかりしていて、そしてそんな彼は――、 「よーへー!おっかえりー!」 「おう名前、ただいま」 私の大大大大大好きなダーリン。 勢いよく飛びついたらそれを見事に両手で受け止め抱きしめてくれる。”おかえり”というのは、別に一緒に住んでいるわけではないが、よく家に来るのでいつの間にかそんな挨拶になっていた。そんな洋平が大好きすぎる私は、こうやっていつもスキンシップをとっている。 「お前らァ………!!」 「やばい、今の花道には毒だ!離れろ!」 「あーごめん花道!洋平がかっこよすぎてつい!」 「ぐはぁ!!!」 更なる追い打ちをかけた私に、花道は目をうるうるとさせながら悲しみと怒りに震えていた。何度私が慰めようとも、結局は私と洋平のラブラブっぷりを見せつけてしまうことで花道のテンションは底辺へ元通りなのだ。ごめんよ花道、悪気は無いんだよ。 「お前らなんて嫌いだ!!」 「俺は好きだぞ花道!」 「私も好きだよ花道!」 「許す!!!!!!!!!」 そんな私たちの、新生活が始まる。 |