私の花道


「名前ー、準備できたか?」
「んーあともうちょっと!」

 山王との戦いに見事勝利した湘北高校はそこで全てを出し切ってその後の試合は嘘のように負けた。
 花道は急遽病院へと送られ、私たちも神奈川へと帰還する。
 湘北高校バスケ部は冬の選抜に出る為、帰還後も休むことなく猛特訓となった。赤木さんと小暮さんが引退となり三井さんだけが残り、湘北バスケ部の新キャプテンはリョータ先輩に引き継がれる。
 流川くんは全日本ジュニアに見事選ばれつい最近までその合宿に行っていたのだとか…。
 夏のインターハイは終わったけど、まだまだ彼らには目指すものがあるみたいだ。

「お待たせー!よしいつでもOKだよ!」
「おー…っておま、スイカ丸々一個持ってくのか!?」
「うん!アイツなら余裕で一個食べちゃうからね」
「いやそれにしても…どう持っていくんだよソレ…」
「こう…おなかに抱えて?」
「……とりあえず、しっかりソイツごと腰つかまってろよ」
「うん!我が子のように大事に抱きかかえるね!」

 そんななか私は花道のサポートをすべく毎日のように病院へと通っていた。とは言ってもバイトもまだ続けているので、付きっ切り…ってほどではないけど。
 今は病院でプロの先生たちがいるので私の出番はそうないけど、アイツが退院したらその時は私の出番だ。今から病院の先生に色々とリハビリのなんたるかを聞いたりと、私も私で突き進むものがあった。

「お母さんが、今度洋平も一緒にご飯行かないかって言ってたよ!」
「友子さんが?全然いいけど、俺上手く喋れっかなぁ」
「大丈夫だよ、お母さん洋平のこと気に入ってるから!」

 広島から神奈川の家へ帰ると、まさかの母がいた。どうやら1日前に帰ってきたらしく、会うなり私に抱き着いて「どこ行ってたの〜!」と言う。出かけるって一応言ったんだけどな…と思いながらも、母に事情を説明した。そういえば花道がバスケを始めたことも全然言っていなかったので、その日は長い夜となる。
 そもそも何でいきなり帰ってきたのかと問えば、先日の私との電話で心配になって駆け付けたらしい。それでこう言った。
 「お母さん、名前があまりに良い子だから甘えちゃってたわ…本当にごめんなさい。新しい彼氏にも名前のこと話したら、もっと子供とちゃんと接してあげなさいって怒られちゃったわ。だからあなたに謝りにきたの!」と半べそかいて私をぎゅうぎゅう抱きしめながら言う母は、やっぱり母だった。
 久々の母のぬくもりに嬉しくなって、私はまた泣いてしまった。
 そして母にやっぱり一緒に住まないかと言われたが、私はもう大丈夫だからと断った。でもたまに、こうやって会ってお話がしたい。何があったのかとか、こんな生活してるよって伝えたいって思った。バイトも無理にしなくていいよって言ってくれたけど、それも気にしないでと伝える。けれど聞き分けのいい私に母は少しムっとして、「もしやりたいことや、少し早いけど行きたい大学とかあったら、お金のことは考えないであなたの好きなように将来を選びなさいね。お母さんが全力でサポートするから!」と言った。
 私はどうしようもなく幸せ者だ。

「あ、ねえあそこの浜辺にいるの!花道じゃない?」
「ん?あーありゃ見間違えるまでもなく花道だな」

 今日は洋平が昼からバイトを入れているってことで、通り道にある花道の病院まで乗せていってもらうことにした。原付の後ろに乗っておなかには丸々1個のバカでかいスイカを置いて、私たちは湘南の海沿いを走る。――とその時、病院前にある砂浜に花道の後ろ姿が見えた。
 あのガタイの良さと真っ赤な頭はまごうことなき、花道だ。洋平は速度を落として浜辺の近くで止めてくれて、私たちは花道の座る砂浜へと向かった。

「はなみちー!!!」
「うおあぁう!?!?」
「すげー驚きようだな」
「あ、今なに隠したの!?」
「なんだ名前と洋平かっ…!脅かすんじゃねえよ!」

 近くまで行けば花道は何かを隠すようにしてみせ、しかもほぼ手ぶらで薄着なせいでそれは簡単に見えた。にこやかな笑顔を見せる晴子ちゃんの写真と、その手紙だ。そして何故かグシャグシャになっている。

「まーた手紙読んでんの?」
「う、うるせえな!俺の唯一の癒しなんだ!」
「なんだとー!私ほどの癒しが来てやっているというのに!」
「お前が晴子さんに勝てるわけないだろ!!!」
「そんなこと言っていいのー?スイカあげないよ!」
「ナヌッ!?名前最高だ!お前しかいない!!」
「分かりやすいんだよバカ道!」


 花道のリハビリは順調に進んでいる。そもそも花道の生命力なんてのはゴキブリ以上といわれるほどのしぶとさなので、きっとあっという間にまた元気になるだろう。まあ、既にだいぶ元気そうだけど。

「んじゃ俺はバイトあっから行くわ」
「あ、うん!ありがとね洋平!」
「おう、よーへー気をつけてな」
「花道こそ、リハビリがんばれよー」

 そう言って洋平は背を向けて原付の方へと行ってしまい、私たちはそれを見送った。
 そうして静かに聴こえてくる波の音と、海道を行きかう車の音、気持ちよく泳ぐ海鳥の声に、キラキラと眩しく照らす太陽。まだ夏は終わっていなかった。

「さてさて、もうすぐリハビリの時間じゃない?」
「ム、そうだな……行くか!」

 正直、私にはまだ花道のように何かに打ち込める熱いものは見つかっていない。時々花道を見ていると、とても羨ましく思うことがある。こんなに何かに必死に打ち込めて、そしてそれに全力を注げて……なんてかっこいいんだろうって思うよ。
 そんな花道を見て、私は“置いて行かれた”と少し前まで思っていた。私にも何か打ち込めるものを見つけなければ花道はどんどん先へ行ってしまうと思っていた――けど、そう簡単に見つかるものではない。
 だからと言って、置いて行かれるのは勘弁だ。

「ねえ花道……もし、もしだよ?もし、リハビリが治らなくて、一生バスケ出来ないって言われたら?」

 それに、多分これはハッキリとした結果ではないだろうし、答えでもないかもしれないけど――、

「んなもしもの事なんぞ知るか、この天才桜木に不可能なことなどない!」

 たぶん今が、きっと私の栄光時代。そしてあんたと一緒にいることが今の私の、

「あはは!それでこそわたしの花道だよ!」

 その道は、満開の桜並木だ。






わたしのはなみち [完]







 

hanamichi


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