| 本編中のどこかの話。ただいちゃいちゃしてるだけ なんだかつまんないなぁーと思った。そんな日だった。洋平はここ最近バイトを詰めているみたいで放課後すぐに原付に乗って行ってしまうし、私はいつものように買い物行ったり夜ごはん作ったりと家事をして時間を過ごす。たまに女友達と遊びに行ったりとかもするけど、今日は特にこれといった遊びはなかった。夜も遅くなってくると花道が帰って来て、私が時間をかけて作ったご飯を一瞬で平らげてしまう。毎回うまい!と美味しそうに言って食べてくれるのでそれは苦ではなかった。食べ終わったら後片付けをしてお風呂に入ってサッパリして、適当にテレビを流しながら化粧水とか顔のマッサージしながら時間を過ごす。明日もまた学校がある。今日みたいな日を過ごすのかなぁーと若干つまらない今日を思い出して鬱になった。 「ん?…………あれ?」 アパートの外からなんだか聞きなれたエンジン音が聴こえてきた。ここは住宅街なので夜も更けてくるとあまり車通りは少なくなり、こういった音は結構目立って聴こえてくる。それに音が移動しないので、やっぱりアパート前に停まっているっぽい。でも、いやいやまさか、だってもう22時とかになるし……。 「お、気づいた」 「洋平っ!」 まさかと思いながらも胸をドキドキさせて私は玄関を開けた。するとアパート前には洋平が原付に跨っていて、私を見て軽く笑みを見せた。なんで?どうして?ていうか今から何の用?って聞こうと口を開いた瞬間、洋平が先に言葉を発した。 「お嬢さん、今から俺と夜のドライブでもいかが?」 「え、今からっ?」 「わりーな急で、無理ならいいんだ…」 「いや、行く!待って!今着替えるからっ!」 遠慮がちに笑って言う洋平に私は食い気味でイエスを伝え、そしてすぐに部屋へ戻って服を引っ張り出した。適当なパーカーと短パンでいいや。 「おまたせ!」 「またお前は……足出しすぎじゃね?」 「えー気にしすぎだよー。それに夜だし大通りとか行かないでしょ?」 「まあ、そうだな…二人っきりになるとこしか行かねぇかな」 「うわぁやらしー」 「んだと」 男はオオカミなんだぞ。 そう言う洋平の原チャリの後ろに腰かけ、私は彼の背中にきゅっと抱き着いた。そっちが狼なら、こっちは女豹となって誘惑してやろうじゃないの。まあそんな色気、まだ私には持ち合わせていないんですけど。 「で、どこ行くの?」 「やっぱ海だなぁー」 「いいね、花火買っていこーよ」 「悪かねぇな」 ブルンブルンとエンジン音を響かせ、私たちは夜の海へと繰り出した。夏の夜風が気持ちよく体をすり抜けていき、目の前の大きな背中がより一層自分の心を落ち着かせ湧き立たせる。 「バイト帰り?」 「おう、そのまま直で来た」 「疲れてるんじゃない?」 「ばーか、だから来たんだよ」 「?」 私は洋平の返事の意味が分からなくて首を傾げた。走行中なのであまり込み入った会話はできず、「後でな」と洋平に言われてとりあえず黙って夜風を感じるのだった。海岸の道へと出ると風の音に混じって波の音が聴こえ、それがまた心地よい。そしてよく訪れる道路から少し離れたところにある小さなビーチへと到着した。夜も更けているからか人はまったく居ない。湘南のビーチは場所を間違えると良からぬ輩が集まったりしているが、ビーチの数も多いためその数は分散された。ここは比較的安全なセーフゾーン。 「ん〜〜、夜の海ってのもまた乙ですなぁ」 「今日は特に穏やかでいいな」 ここら辺の海は酷い時はかなりの荒波となるのだけど、今日は本当に穏やかなさざ波だ。軽く海を眺めてから先ほどコンビニで買った手持ち花火のセットでさっそく遊ぼうと取り出す。足洗い場にある誰のでもないバケツを拝借して水を溜め、花火セットに備え付けられているロウソクを適当なところに立てた。 「ライター貸して」 「ん、ほらよ」 「さんきゅー」 洋平はズボンの右ポケットに手を突っ込んでいつも使っている使い捨ての100円ライターをポイと私に投げて渡した。前見たヤツはオレンジ色だったけど、今回はブルーだ。あれから何箱か吸ったな。 「やっぱ最初は派手なのからだよね」 「あえての初っ端線香花火っつーのはどうよ」 「えー、線香花火は全部楽しんだ後にしんみり終わりを名残惜しむのがいいんじゃん!ロマンがないよ!」 「乙女だなぁ」 んじゃあ俺はコレな。 そう言って腰を下ろして屈んだ洋平が手に取ったのは定番のススキ花火だった。じゃあ私はススキよりも横にバチバチと広がるスパーク花火にしよう。なんだかんだ毎年花火はしているけど、洋平と二人きりで花火をするのは初めてかもしれない。そもそも花火は複数人でやるのが普通だと思っていたから、なんだか二人だけっていうのは変な感じだ。 「文字書くから当ててみてっ」 「LOVE」 「ちょ、書く前から当てないでよ!!」 「ははっ、当たった」 小さな花火セットだったからそこまで量もなく、気づけば残るは線香花火だけとなった。やっぱ最後のお楽しみといえばコレですよコレ。小さく屈んだ私たちは、細いその花火を上から垂らして火を灯した。 「きょう、なんかあった?」 「んー?いや、別になんもねーよ」 「…そうなの?」 ぱちぱちと小さな弾けるような音を足元に、私は彼に視線を寄せて尋ねてみる。普段とは少し違う彼の行いに私は何かあったのではと思ったのだけど、洋平は至って普通の表情でへらりと静かに笑みを浮かべながら返した。 「てか、私ったらめちゃくちゃはしゃいじゃった……洋平はバイトで疲れてるのに、ごめんね?」 「あー、確かにすっげぇ疲れてるわ、オレ」 「え、だったら早く言ってよ…もう帰ろう?」 「ばーか、さっきも言ったけどよぉ……だから来たんだっつの」 「へ?って、うわっ」 隣にいた洋平が私の肩に腕を回してきて、そのまま彼の方へと傾いた。来るときに言われたその言葉の意味がやっぱり分からなくて不思議に視線を向けると、洋平の顔がドアップに目の前に映し出された。そしてそのまま、 「っ……」 唇が合わさる。でも一瞬の、軽い口づけだった。すぐに唇は離され、私はしばらくぱちぱちと瞬きをして彼を見つめる。気づけば線香花火の玉は砂浜へと落ちて埋もれてしまっていて、ロウソクの火も丁度消えて余計真っ暗となってしまう。少し離れた海岸沿いの小道にある街頭が辺りを照らしていた。それでも私には彼の顔がハッキリと見える。いつもよくやる彼の表情――、肩眉を寄せて優しく微笑んで見せた。 「俺はお前に会って、疲れた体を癒しに来たんだよ」 「っ……!!」 一瞬で顔が熱くなっていくのが分かった。癒しに来たって…私に?私が、癒しってこと?ちょっとまって、そんなの……嬉しすぎるし恥ずかしすぎるんだけど。このこみ上げる気持ちを上手く言葉にできなくて口をパクパクしてると、洋平はけらけらと笑った。そして「つーか足しびれた」と言って屈んでいた足を崩して砂浜へと尻もちをつく。肩を抱かれていた私も引っ張られて洋平の上に倒れ込むように崩れた。 「私、ちゃんと癒せてる?」 「ああ、すっげー効いてる、沁みてる……あーでも、もうちょっとサービスしてくれたら最高に癒されるかも」 「なにそれ、なんかオヤジくさいよ洋平」 砂浜に膝を付けるとひんやりとした感触が伝わってきてとても気持ちよかった。砂浜の上に座り込む洋平の上へと跨り、私は少し視線が下になる彼を見つめる。その瞳は好奇に満ちて、私の動きを待ち構えているようだった。 「人って抱きしめるとストレス解消になるんだって……だから、私とハグいかがっすか!」 「はは、いかがっすかってなんだよ」 「いまなら私からの熱いちゅーも付けちゃうよ!」 「名前の叩き売りだなこりゃ」 「お安くなくてよ!」 「ほう、おいくら万円ですか?」 「500億えんくらいですかねぇ」 「たっか!俺には手が出せねーなこりゃ」 「ただなんと!水戸洋平に限りゼロ円でご提供いたします〜!」 「買った」 「まいどありー!」 こんな見晴らしのいい夜の砂浜で私たちは何をやっているんだろう。笑って、ぎゅって抱きしめて、私の背中に洋平の手が回り、洋平の背中に自分の手を伝わせる。最高に幸せな感触だ。 「やっぱ疲れた体には名前だな」 それはこっちの台詞だ。つまらない退屈だと思っていた今日1日も、洋平が声をかけてくれただけで、来てくれただけで最高に特別な日となった。回した手により一層力を籠め、今度は私から彼へと唇を寄せた。 「ちなみに、えっちなサービスはありますか?」 「明日の午前授業おサボりコースになりますけどいいですか?」 「フルコースで頼んますわ」 洋平限定で永久割引だよ。 |