「アンタの男、ヤバすぎだろ」
「え?」

私は第三学区に来ていた。
学園都市の第三学区は外交の場とも言われていて、最先端技術を紹介する国際展示場や、高級ホテルが並ぶような所。そんな所で何をするのかと言われれば、ただ遊びに来ただけだ。私のバイトの1つ、とある暗部組織”アイテム”のリーダーである学園第4位の麦野沈利に「暇だから来い」と言われて、私も丁度暇だったので行くことにした。彼女たちとは絶対的な仲というわけではないけれど、私たちは絶妙な信頼と疑いで関係を築いている。
彼女たちのアジトである第三学区のホテルに到着し、案内されたのは大きなプライベートプール。水着を持ってこいと言われたので察してはいたけど、さすがというかなんというか、レベルも高ければ色々と高い。早速水着に着替えてプールサイドへ行くと、そこには優雅にチェアに座ってドリンクを飲んでいる麦野に、バシャバシャと水で遊んでいるフレンダ、浮き輪でぷかぷかと浮いている最愛、ほぼ水死体状態で浮かんでいる滝壺……と、楽しそうにしていた。
そして私を見た麦野の第一声がソレ。

「うわぁー名前やばー!体中アザだらけじゃん!どんだけヘマやらかしたのーあははマッヌケー!」
「フレンダ、超違いますよ、それ」

彼女たちが何を言っているのか、もちろん分かっている。なにせ、私の体の至る所が青や紫、赤く染まっていて、それはもう痛々しいなんてレベルではない。そしてコレは別に戦いで付けられた痕…なんかではなく、勿論付けたのはアイツだ。
そう、せっかくの夏だっていうのにこんな体にされて…私は行きたかったプールも海も全部キャンセルとなったのだ。だから、今日はプライベートプールだと聞いて私の心は浮足立っている。

「ナニすればそんななるのよ」
「いやぁー、なんでだろうねぇ…?」
「男見る目なさすぎ」
「あははは〜」

麦野に散々言われて、私はもう笑うしかない。まあ確かに、こんなボロボロの状態じゃあDV男と思われても仕方ないか…。いや、よくよく考えたら普通に怪我させられるし噛みまくられて血出るしたまに首絞められるしで………え、もしかしなくても普通にDV男なのでは?

「名前さん、ビーチボールしましょう」
「アタシもアタシもー!」
「あ、うんっ、いいよ!」

プールに足から順にゆっくり入って水の感覚を楽しんでいると、最愛がビーチボールを持ってこちらに寄ってきた。フレンダも一緒になって、私たちはポンポンとボールを飛ばして遊ぶことに。

「名前さんの彼氏さんってどんな人なんですか?」
「え!名前って彼氏いるの!?」
「フレンダは黙っててください」
「なによー!!」

ポン…ポン…っとそれぞれにボールを回しながら、最愛がそんなことを聞いてきた。”彼氏”と言われてなんだかピンとこないが、多分あの男のことを言われている。彼氏…ではないが、それを言うとまた面倒なので”彼氏”で通すことにした。なんだかむずがゆい。

「どんな人って言われてもなぁ…」
「まあ、超歪んでいるのは分かります」
「最愛、中学生だよね…」
「最近の中学生舐めないでください」

最愛はあまり子供に見られるのが好きではないらしく、少し子供扱いするとムっとされる。そんなところが子供っぽくて可愛いんだよなぁと思うのだが、それ以外は結構察しがよかったりするのでやっぱり可愛くない。なんて答えようかと思って少し考えるも上手く言葉が見つからず「そういう最愛は彼氏とかいるの?」と聞いたら「超いませんので話戻しますね、どんな人ですか?」と呆気なくぶった切られてしまった。

「ちょ、ちょっと普通とは違うかもしれないけど、まあ…優しい人だよ」
「傷つけるけど優しい……名前さん、やっぱ超騙されてますよ」
「うへぇー典型的なDV男じゃんそれ〜」
「名前の男性の趣味がおかしくても…私は名前のこと、好きだよ」
「滝壺変なフォローやめて!!しんどくなる!!……いや、これもね!見た目ほど痛くないし!それに普段の生活では全然手出したりしないよ!あっ…」

それを言った瞬間、私はハッとして口を手で覆った。だがもちろん時すでに遅し……全員の「うわぁ…」という完全にドン引いた顔が私に突き刺さった。

「つまりアンタの男って、セックス中に痛めつけて興奮するタイプ?マジやべーな」
「ひいぃー!もう少しオブラートに言って麦野ー!!!」

私の目は真っ白だ。


▼△▼



「オイ、ドコ行ってやがった」

あの後、散々プールで遊んで、ジャグジーでひとっ風呂浴びて夕飯も食べて、帰る頃には日付が変わりそうな時間だった。帰宅した自分の部屋は暗くて誰もいないのかと思ったが、寝室の方で静かな寝息が聞こえたので今日も来ているのを把握する。私も疲れたので着ていた服を歩きながら脱ぎ散らかし、夏なので肌着のまま寝室のベッドへと向かった。既に一方通行がそこに眠っていて、背を向けている。一応人ひとり分のスペースが空けられているので、私は彼に触れないようそーっとベッドに入った。なにせ、一人で寝ている時の彼は油断すると反射設定されていて、触れると吹き飛ぶからだ。…といっても、最初の頃はよく反射されていたけど、最近はそうでもない。理由はよく分からないけど。
そしてそのまま眠りにつこうとした時、鼻のピクリと動く音と、低く掠れた声が部屋に響いた。起きてたのか。

「友達の家のプライベートプールで遊んでたの」
「……だからか」
「ん?」
「なンでもねェ」

背中ごしで聞こえる彼の声は、最初はなんだか不機嫌そうだったけど今はいつもの声色に戻った。彼の沸点はいつも理解ができない点が多く、私も結構困っている。不機嫌な時の一方通行ほど、怖いものはない。ただ今日は、私の方が少し怒っているのだ。

「そ、お、い、え、ば」
「ア?」
「一方通行のせいで、みんなドン引きだったんだからね」
「意味が分かンねェ、つか乗るなデブ」

反射は解いてるみたいだったので横になって背を向けている一方通行と目を合わすために上に乗り出すと、ギロリと横目で睨まれた。

「ほらココとか、ココも!コレ見てなんか言うことないんですかねぇ??」
「ア?足りねェーってか?」
「んなわけないでしょー!」

着ていたキャミソールをめくって付けられた痕をこれ見よがしに見せてみるも、ダルそうに返されるだけで反省する気はまったく見えない。そもそもこの男に反省するという概念があるのかも怪しい。

「一方通行のこと、みんなDV男って言ってたよ」
「くだらねェ……つーか何話してンだテメェは」
「ガールズトークはえげつないのが売りですからぁー」

うわ、この上ないくらいめんどくせぇって顔してる。一方通行のこんな表情久々に見た。そもそもDV男と言われている人に対してそのままの言葉を送るのは多分間違っている。けれどそれが言えてしまったのは、私が彼を”そうでない”とハッキリ答えられるから。そう思ってしまうあたり…私も、

「なんでこんなに痕つけるの?」
「…………ハァ、オマエはホント、バカだな」

溜息とその台詞と共に背中に腕が回り引き寄せられたかと思えば、首筋に歯をたてられる。

「痛ッ――…!」

赤く染まった瞳がギラリと光り、

「なンでって、そりゃァ――」

――オマエがンな顔するからだろォが。





バイオレンスは愛の印


 

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