| 「あの、これ…!貰ってください!」 学校の校門を出て数十メートルした所で、私は知らない男性に道をふさがれた。見ると、長点上機学園の制服を着た男子で、私の学校と同じ学区にある超名門校だ。能力開発においてナンバーワンを誇るエリート校だと聞いたことがある。確か一方通行の学校もそこだった気がするけど、アイツはちゃんと通ったりしてないだろう。と、それよりも、その長点上機学園の男子生徒が私に何の用かと思えば……突然、傘と手紙を渡された。 「えっと…」 「あ、僕、 そう言って、彼は顔を真っ赤にして立ち去って行った。こんなこと初めてだったので、私はその真っ白な封筒と水色の折り畳み傘を手に持って、彼の去る後ろ姿をボーっと見つめる。この折り畳み傘は随分前に無くしたと思っていた私の傘だ。でも彼を見て、そういえばと思い出した。けれど一緒に渡されたこの手紙が何を意味するのか、私も察しが悪いわけではない。ただ、実は案外、私は、ラブレターというものを……初めて貰ったのだ。 ----------- 名前さんへ 突然の手紙に驚かせてしまってすいません。 僕は長点上機学園の2年、柏木アキラといいます。 初めて名前さんを見たのは、去年の春でした。 最初はとても可愛い人だなと思って、気づけば学校の帰りにアナタを見る度目で追うようになりました。 そしてあの雨の日、困っていた僕にアナタが傘をくれて、僕はとても嬉しかったです。ちゃんとお礼が言えず、そして傘を返すこともなかなかできず、すいませんでした。 あの時は、本当にありがとうございました。 そして、僕はアナタのことが好きです。 もしよければ、付き合ってください。 柏木アキラより ----------- なんとも真っ白で純粋すぎるその手紙の内容に、私は顔が熱くなるのが分かった。全然、今の今まで忘れていて、ほとんど顔も覚えていないような彼だけど、好意を伝えられるというのはとても嬉しいことだ。私は初めてのこんな感情に、ゴロゴロとソファを転がりまくった。今日は一方通行も来ていないみたいだし、ゆっくり考えてみよう。とても真面目で、優しそうな人だった。見た目が白いアイツとは反対で、彼の中身はきっと真っ白な純白だ。なんだか青春という感じがして、ニヤニヤしてしまう…。 ガチャ… 静かに今の感情に浸っていたら、家のドアが開く音が聞こえた。今日は来ないと思っていたのに…来たのか。はぁ…と小さくため息を吐き、私は持っていた手紙をグっと学生カバンの中に突っ込んだ。そしてズカズカと我が物顔で入ってくる侵入者に、「いらっしゃい」と言った。相手はもちろん無言だ。いい加減入ってくるときくらい何か言いなさいよ。 「夜ご飯食べた?」 「まだ」 「昨日の残りのスープでパスタ作るけど食べる?」 返事無し。ということは食べるということだ。立ち上がってキッチンへ向かい、昨日作ったトマトスープの鍋を冷蔵庫から取り出した。相変わらず一方通行の片手にはコンビニで買ったであろう大量の缶コーヒーが入った袋が持たれていて、どんだけカフェイン摂取するんだと心の中でツッコむ。しかも銘柄がいつの間にか変わってる。…まあ、タバコとかじゃなくてまだ可愛げあるからいいんだけど。 「あ、ねーあくせられーたー」 「……………」 「一方通行って、長点上機学園の生徒なんだっけ?授業とか出たりするの?」 「オレが授業なンざ出るわけねェだろ」 「………だよねー」 スープに火をかけ、パスタはこの前レンジでチンして湯がくヤツを買ったのでそれに二人分の麺を入れてレンジにぶっこむ。その間にパスタ用のスープにする為、味付け調味料を色々と用意した。そしてそんな調理中にふと一方通行に長点上機学園について質問を投げかけてみるも、回答は予想通りだった。 「つーか、ナニ探ってやがる」 「探ってなんかいないよぉ、ただちょーっと気になっただけ……ほら、私の学校と距離近いし?たまに見かけるんだよねー」 変に勘繰られないように当たり障りのない返しをするけど、変に勘がいいからこれ以上は聞かない方がいいかもしれない。まあ別にアレを隠す必要はないわけなんだけど、なんとなく…なんとなくだ。 「ほら、制服可愛いし!いいなぁーって!」 「くだらねェ」 「あ、そういえば一方通行の制服姿とか見たことないかも!持ってないのっ?制服!見てみたいなぁー」 あ、返事返ってこない。こういう時は凄いめんどくさいって思ってるのだろう。話は脱線したけど、一方通行が何か決まった制服的なものを着ているのはまったく想像できない。でも一応彼も学生なのだから、制服姿は見てみたいなぁ…。なんて想像していたら、チーンとレンジの合図音が聞こえた。とりあえずパスタ作るか。 トマトソースに生クリームを投入して、トマトクリームパスタにしてみた。我ながら良き出来だ!真っ白なお皿を二人分、パスタも半分均等に入れて、私はキッチンからリビングの方へと移動した。 「おまたせぇー!……って、」 「……………」 「その手に持ってるのって…」 にこやかに登場すれば、ソファに座って眉間に怖ろしいほどの皺を寄せている一方通行が居て、しかもその手には…白の紙。その紙が何なのかなんてすぐに分かって、私は石のように固まった。なんで、なんでアンタがそれ持って……、 「へェ、学園のこと聞いたのって、コレが理由かァ?」 「いや、そのっ…」 「生憎、オレはこんな野郎知らねェし、オマエに告るよォーなヤツなんざ、どーせくだらねェヤツだろ」 ハラリと手紙が宙を舞い、足元に落ちていく。あの時見た彼の顔がフラッシュバックするように脳裏に浮かび、あれだけ顔を真っ赤にして手紙を渡してきた彼だ…きっと勇気を振り絞って声をかけてくれたのだろう。そしてこの手紙だって、とても丁寧に書かれている……何度も書き直したのだろう。それなのに、今の一方通行の言葉を聞いて、私はグッと拳を握った。 「何よその言い方……」 「ハ?」 「そんな言い方ないじゃない!私のことは別にいいけど、彼のこと知らないくせにそんな悪く言わないでよ!!一方通行のバカ!!」 今回ばかりは頭に来た。私はそう怒鳴りつけて、バタバタと家を出ていった。一方通行が悪態を吐くのはいつものことだし、よくあることだけど、それはいつも私に対してだ。それにその悪態は大したこともなく、彼の性格を知ればスルーできることだけど、今回のは酷すぎる。なにも彼のことを知らないくせに、あんな言い方ないよ。それに手紙だって、投げ捨てることないじゃん…。 「ていうかパスタ……まだ食べてないのに」 せっかく作ったパスタはテーブルの上にそのまま置いてきてしまった。あーあ、帰る頃にはクタクタのブヨブヨになってるだろうな…。それでも今すぐに帰る気分にはなれず、しばらく歩いて落ち着くことにした。 「ねぇーカノジョ、こんな時間に一人?」 「暇ならオレらと遊ぼーぜ」 「キミ可愛いからさ、何でも奢っちゃうよ」 もちろん夜に一人で出歩くとこうなるわけで…、絶賛面倒な輩に絡まれ中だった。無視して歩いているというのにずーっと付いてきて、ウザいったらありゃしない。しかも今は虫の居所が悪いので、あまり刺激しないで頂きたい。私は、ギロリと彼らを睨んだ。 「おーコワ、んな睨むなよ」 「そんな顔していいの?どーなっちゃっても知らないぜぇ?」 「なんたってコイツ、レベル3だからなァ」 と言って真ん中の男はニヤニヤと見せつけるように手からボッと炎を出した。見たところ、能力者はこの男一人だけらしい。しかもよりにもよって発火能力(パイロキネシス)とは、なんとも不運なこと。私は一度立ち止まり、辺りを見回した。 「おっ、やっとオレ等と遊ぶ気になったかァ?」 「燃やされたくねーもんなぁ?」 「やめてやれって、怯えちゃうじゃんカノジョ」 「はぁ……あっち、行きません?」 好き放題言われる中、私はとある路地を指さしてそう言った。ひと気の少ない所を指定したことによって、彼らも私が乗り気だと思ってニヤニヤと承諾する。 この学園には数えきれないほどの監視カメラが設置してあり、特に住宅街や繁華街などは死角がないほど設置されている。路地なんかも例外ではないのだが…たまに故障かなにかで機能していないものもあるのだ。機械というのは動いているモノは大体微弱ながら音を発していているので、音を発していないモノは機能していないということになる。それを感知し、私はその路地を指さした。 「ナニ、もう我慢できなくなっちゃったかァ?」 「とんだエロ女だぜ」 「胸もでけーし、こりゃ期待できるなァ」 寄ってたかって、恥ずかしくないのだろうかこの人たちは…。学園都市というこの機関にいる人間は、本当にロクでもない者ばかりだ。呆れてモノも言えない。 パンッ!!!! 私は両手を前に出し、そして勢いよく手のひらをくっつけて叩いた。ただ手を叩いただけだ。けれど静かになった頃には……近くにいた男たちは膝からガクッと崩れ落ちた。 「な、なんだ……今の……?」 「まさか…テメーも能力者か…!?」 「今ほんとすっっごい虫の居所が悪くて、なのにしつこく絡まれて、こっちはかなりムカムカしてるんだよねぇ…」 だから、申し訳ないけどアナタ達にはストレス解消に一役買ってもらいましょうじゃないの。 「何したか分からねーがよォ、盾突いていいのかよ?こっちだって能力使えるんだぜ?」 能力者の男がフラリと立ち上がり、そしてボゥッと手に炎を灯した。確かレベル3と言っていたから、大した火力は出せないだろう。もしそれなりの火力を出せたとしても… 「火傷しても知らねーぜ!!」 「知ってた?火って水以外でも消せるんだよ」 パンッ!!!! 炎が私目がけて迫りくるその時、再び両手を勢いよく叩いた。その瞬間、炎は震えるように一瞬で……消え去った。 本当に運の悪い人たちだ。よりにもよって”火”だなんて…。火というのは水以外にも、音の振動で簡単に消えてしまう。私の能力では、無意味なものだった。特にこれくらいの火力と、狭い路地であれば。 「な、なんだこの女ッ!」 「叩いただけでなんで…!!」 「何の能力者だッ!?」 「せっかく監視カメラ映らない所まで来たんだから、最後に思い切り叫ばしてもらうよ……」 普段はこんな危ないことはしないで大人しくしているのだが、今ばかりは私も暴れたい気持ちなのだ。私は大きく息を、スゥーーーっと吸い込んだ。そして――…、 「一方通行の、バカァアアー!!」 ドォーーーン 「あー!スッキリしたぁー!!」 パンパンと手をはたいて、私はいつもの住宅街を歩いていた。颯爽とあの路地からは離れたので、騒ぎを聞きつけた人たちからは気づかれないで済んだ。路地には3人の男がそれはもう盛大にぶっ倒れてはいるが、ちょっと気絶しているだけだ。少しだけ声のボリュームを上げて、少しだけ音波弄って、少しだけ頭が痛くなる音に変換しただけだから。久々に気持ちよく能力を使ったおかげで、気分はとても良かった。まあまだ一方通行のことは許してないけど、今ならそこまで怒ることなくスルーしてベッドに潜れそう。というか、さすがに一方通行も帰ったのではないだろうか…。あの空気のままずっと家にいるわけがないだろうし、居たとしたらヤツの神経を疑う。と思ったら、聞きなれた足音が聞こえた。 「胸糞悪ィ声が聞こえたと思って来てみりゃ、オマエいつまで夜遊びしてンだ」 凄くイライラした顔で、一方通行はそこに居た。 色々と発散してスッキリはしたけど、私はまだ許したわけではない。なので向かってくる一方通行を知らんぷりしてそのまま通り過ぎた。チッ、という舌打ちが背後から聞こえてきて、スタスタと歩く私の後ろを追いかけるように一方通行の足音が聞こえる。 「怒ってンじゃねーよ」 「怒らせたのは誰ですかー?」 「オマエが、変なモン貰ってっからだろ」 「変なモンって何よ、変なモンって、人の大切な手紙を勝手に見て恥ずかしくないんですかァ?」 「………チッ」 相変わらずの減らず口、しかも全然反省してない、それでも後ろをずっと付いてくる一方通行の考えることは、よく分からない。出会った頃ならば、こんな光景ありえないだろう。あの学園の第1位に、私が怒りを向けて、しかも追いかけてくるのを無視して歩いているのだから。きっと誰かに言っても信じてもらえない。 「オイ、」 「…………」 「オイッ…」 「…………」 チッ 今日何度目の舌打ちだろうか。それでも私は振り向かず、歩き続けた。 「オイ、名前ッ…」 その言葉に、思わず足を止めてしまった。 ただ名前を呼ばれただけだ。なのに止まってしまったのは―…、彼が滅多に私の名を呼ばないから。いつも”オマエ”とか”オイ”だったり、呼んだと思えば大体ふざけ口調の時ばかりで、思うとあまり呼ばれてないことに気づく。だから少し、反応してしまっただけだ。 「まだ何かあるんデスカァ…?」 「ア"ーークソッ、…………悪かった、言い過ぎた。…コレでいいかよ」 目線も合わさないし、ダルそうにして髪の毛グシャグシャにしてるし、まったく心篭ってない謝罪だけど……まあ、許してやろうではありませんか。 「謝るの遅すぎ」 「テメェ………。このオレが謝ってやったンだ、いい加減そのブス面なんとかしろ」 「ブッ…!!??一言多いのよ一方通行のバーカバーカ!!」 私も結局は甘い。確かに一方通行に怒ったのは本当だし、イラッときたのも本当。でもそれより、私がずっと怒って彼と居られなくなるのは、もっと嫌だった。途中からは意地になっていたのかもしれない。今も一方通行が言ったことには怒っているけど、彼が本当は優しい人だっていうのは分かっている。あんな風に口は悪くても、発した発言には何かしらの意味があるって……私はそう思った。 前後になっていた私たちは肩を並べて歩き、家までの道のりをゆるゆると歩いていく。特にもう話すことはなく、夜も更けて来たのでかなり静かだった。 「…………どォすンだよ、アレ」 「へ?アレ?なんのこと?」 「………チッ」 沈黙の中口を開いたのは一方通行で、けれど何のことを言っているのかさっぱり分からなかった。どうする?アレ?主語がなさすぎて分からない。いつもそうだけど、もう少し会話に情報量を増やしてほしい。熟年夫婦じゃないんだから…。 「………………返事」 絞りだすように、小さく、聞き取りにくい低い声で、けれどもその言葉は私の耳にしっかり届いた。そしてそれを聞いて、私はなんとなくだが………気づいてしまった。 「ねえ、もしかして…」 もし、もしのもしかして、一方通行があんな酷いことを言ったのって、それって―… 「やきも…」 「それ以上言ったらコロス」 「いだ!いだだだ!!頭鷲掴みやめて!!痛いよー!!」 ガシッギュウウウウ 全てを言い終わる前に脳みそが押しつぶされるような激痛に襲われた。容赦なさすぎ!!夜の住宅街のど真ん中で暴れる私なんておかまいなしに、一方通行は血管浮き出そうな怖ろしい表情で、ガッと目をかっぴろげて瞳孔バッチリ開いている。怖い怖い怖い!!!殺される!!! 「断るよ」 やっと解放されて涙目になりながら、私はそう答えた。 「だって、まだまだこのままがいいもん」 元々断る気でいた。それでも告白というものは嬉しいもので、お返事はちゃんと丁寧に返すつもりだ。確かに彼と付き合ったら…なんてことを想像もしたけど、それでも家に帰ったらアイツがいる。もしそれが現実になったりしたら大問題だ。つまり、私の答えは既に決まっていた。 「ハッ……物好きだなオマエも」 二人でいつものあの部屋に帰って、 クタクタブヨブヨのパスタを食べた。 |