「君の力が必要なんだ」

8月31日、一方通行が倒れた。
絶対能力進化レベル6シフト計画”が凍結となったその10日後、研究者の一人であった天井亜雄あまいあおが妹達の上位個体である”打ち止めラストオーダー”に学園都市を破壊させるウィルスコードを仕込んだ。だが打ち止めは天井亜雄の元から逃亡し、一方通行と出会うこととなる。そしてもう一人の研究者”芳川桔梗よしかわききょう”からその犯行の事態を聞いた一方通行は、打ち止めの救出を試みたのだが、天井亜雄によって頭部を銃で撃たれてしまった。同時に打ち止めのウィルスコードは全て削除され、最悪の事態は免れたのだが……彼は、脳の前頭葉に損傷をきたしてしまった。

私がその知らせを受けたのは、彼が病院へ搬送されて数時間後のことだった。あのカエル顔の医者が彼の緊急オペ終了後に知らせをくれて、私は言葉を失った。けれど”心配ない”と、何の根拠があるのかカエル顔の医者はハッキリ言ったのだ。
そして――”君の力が必要”だと、



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「わんちゃんの首輪みたいだね、それ」
「ア"ァ?」

前頭葉を損傷したことにより、一方通行は言語能力、歩行能力、計算能力を失ってしまった。だがそれをカバーする為、あのカエル顔の医者が彼に設置したのは”演算補助デバイス”というものだった。妹達を繋ぐ”ミサカネットワーク”を利用し、彼の能力をサポートすることが可能なのだとか。それによって彼は会話や思考、歩く事もできるようになり、彼の能力であるベクトル操作も制限時間付きだが使用可能となった。
最初聞いた時は気が気でなかったし不安でいっぱいだったが、こうやって今普通に喋ることも触れることも出来て、私は心底安心している。それに―…、

「そう怖い顔しないでよ、どーどー」
「テメェがくだらねェこと言うからだろォーが」
「はいはい、じゃあ今日の分はじめていい?」
「さっさとしろ」

そう言って私は彼の頭へと両手を伸ばし、包み込むように手のひらを頭部へとぴったりくっつけた。そして静かに目を閉じ、私は全ての意識を両手へと集中させる。ゆっくり、ゆっくりと……彼の脳へ直接音を流し込んでいくのだ。
1分…2分…ぴったり3分経って、私はぱちりと目を開ける。すると同じく目を瞑っていた一方通行も瞼を上げて、その真っ赤な瞳が私を見つめた。

「ハァ……ったく、オマエの世話になるなンてな」
「むしろ今までもお世話しかしてませんがー?」
「…………」
「痛い痛い痛い!頭鷲掴まないで!」

今行ったのは脳への”治療”で、彼の損傷した脳を少しでも回復させる為、私の能力を使った超音波治療が使えるとカエル顔の医者が教えてくれた。なのでこうやって定期的に決まった時間、決まった音波を彼に流し込むようになったのだ。

「今度は私が、一方通行を守る番だね」
「オマエに守られる気なンか、更々ねーよ」
「どーですかねェ??」
「今すぐ吹き飛ばしてやろォか…」

彼が負傷して、なにも守れなかった自分に心底悔しく思った。けれどまだ終わってはいない…そうあの医者に言われて、そしてこうやって自分しかできない方法で彼を救うことが出来て、本当に嬉しかったのだ。
私はようやく、誰かのためにこの能力を使えることができた。

「ふふ」
「なに笑ってンだ、気色わりィ」
「えへへへへへ」
「うぜェ…塞ぐぞ」

少し短くなった彼の髪を撫でながら、私はこの今の状況に嬉しくて笑った。決して100%幸せな結果とは神様はさせてくれなかったけれど、それでも私たちは今こうして触れられている。失う物があっても、得られるものも多くあるのだと感じた。
触れていた私の手は彼の手により動きを止められ、そしてそのままグイっと引っ張られて私の体は彼の方へと傾いた。近付く顔に、あと数センチで唇が触れようとしたその時、

「ふふふ〜相変わらず二人は仲良しさんなんだねぇーってミサカはミサカはこっそり隠れて二人のイチャイチャっぷりを微笑ましく覗いてみたり!」

突如現れた小さなソレに、私たちの動きはピタリと止まった。

打ち止めラストオーダーっ!?いつからそこに!?」
「いつからって、名前ちゃんがいつもの治療をしてる時からだよってミサカはミサカは正直に答えてみる!」
「……オイ、入る時はなンか言えって言ってンだろォーが!」

私たちの日常で変わったことといえば、彼女…“打ち止め”が加わったことだろう。彼女については私も知っていて、何度か時間を共にしたことがある。通常の妹達とは違って彼女の姿は子供サイズで、感情も起伏が激しく見ていて飽きない。打ち止めは例の一件後同じくこの病院で過ごしていて、度々私たちの病室へ来てはこうやって騒いでいた。まあ一方通行と一緒にいても相手してもらえることはそう無いので、いつも私のところに来て色々と遊んでいるのだ。でも一方通行の彼女を見る目は決して冷たいものではなく、大切なものを見るようだった。もちろん、私も。

「……で、何か用かよ」
「うん、あのね…名前ちゃんに秘密のお話があるのってミサカはミサカはイチャイチャのところ悪いけど名前ちゃんを連れ出してもいいかな?ってアナタへお願いの視線を向けてみたり」
「…ハァ、勝手にしろよ」
「ありがとう!ってミサカはミサカは素直に喜んでみる!」

頭のぴょこぴょこと一緒に打ち止めも跳ね上がり、行こう!名前ちゃん!と私の手を取って一方通行の病室を後にした。小さな打ち止めに手を引かれているせいで私の腰は少し曲がって歩きにくいけど、嬉しそうな打ち止めの顔を見ていたらそんなことどうだってよくなった。彼女が今ここで笑っていられるのは、一方通行のお陰なのだ。

「ここまでくれば大丈夫かな!ってミサカはミサカは早く言いたい気持ちを抑えきれずソワソワしてみたり」
「私に秘密のお話ってなあに?」
「あのねあのね!これはあの人には極秘のお話なの!ってミサカはミサカは大きくなる声を必死で抑えてみる」
「結構大きいけどね……で、なにかな?」
「もうすぐであの人の包帯が取れるでしょ?だからね、記念に何かしてあげたいんだけど、何がいいかな?ってミサカはミサカはあの人を一番良く知る名前ちゃんに相談してみるの…」

”あの人”とは、もちろん”一方通行”のことだ。打ち止めのそんな可愛い相談に、私は口元が最大限に緩みまくった。「うわあ!名前ちゃん顔が溶けそうだよ!?」なんて打ち止めに心配されて、私はハっと顔を手で抑えて元に戻す。

「そうだねぇ、何かプレゼント用意したり…とかかなぁ?」
「あの人が喜ぶものって何かなぁ?ってミサカはミサカはうーんと頭を唸らせてみる」
「打ち止めがくれるものなら何でも喜んでくれるよきっと」

彼、一方通行が入院してから少し経ったが、そろそろ彼の頭の包帯が取れる頃だった。普通ならばそこまで騒ぐことでもないが、打ち止めからしたら自分を守ってくれた彼に何かしたいと思って考え着いたのだろう。あの一方通行にはなんとも不釣り合いな可愛すぎるお祝いだが、もちろん私が乗らないわけがないでしょう。なんたって可愛い妹のお願いなのだから。あとアイツの反応が見たいという個人的なものもある。

「お祝いって言ったら、やっぱケーキとか?手作りがセオリーだよね」
「手作りのおかし…!うん!それとってもいい!ってミサカはミサカはナイスアイディアにグットと親指を立ててみたり!」
「ケーキだと大変だから、クッキーとかどうかな?」
「うんうんうん!それがいい!それがいいのー!ってミサカはミサカは湧き立つ感情を抑えきれず大はしゃぎしてみる!」

どうやら私のアイディアはお気に召して頂けたみたいだ。打ち止めは今からどんなクッキーを作ろうか、どこで作ろうか、材料はどこで用意しようか、なんてはしゃぎながら目を輝かせて計画を企てていた。

「もちろん、名前おねえちゃんも一緒に作ってくれるよね?ってミサカはミサカは妹の可愛さフル活用で首をかしげてお姉ちゃん呼びでお願いしてみたり…」
「そんなことしなくても打ち止めはいつも可愛いよ。とびっっっきり素敵なの作ろうね!」
「うん!!」

私たちの音はこれから始まる。





再スタート


 

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