「一方通行さーん、お散歩の時間ですよぉー」

コンコンと病室をノックして入れば、いつものようにベッドの上で寛ぐ一方通行が………今日はいない。ベッドの上を手で触れてみるとほんのり温かかったので、まだ離れてそう時間は経ってなさそうだ。
演算補助デバイスのお陰で今まで通り動くことは可能だが、歩くのに関しては杖が必要となってしまう。だからリハビリも兼ねてここ最近は昼間に散歩をするようにしているのだが、今日はいつもの時間に彼はいなかった。時間が合えば打ち止めも一緒に行くが、今日は検査の時間がかぶってしまい泣く泣く不参加となっている。

「一人で行っちゃったのかなぁ?」

これは彼のリハビリであって私は関係ないので、確かに一人で行ったのならそれでいいのだけど……一言連絡くれたっていいのに。それに演算補助デバイスにもしものことがあったら動くことも出来なくなってしまうというのに、そう思うと心配で放っておけない。過保護だと言われてしまうかもしれないが、まだ安定するまでは彼の傍になるべく居たいと思った。

「一方通行の足音…足音……うーん」

闇雲に探すのでは体力を消耗してしまうだけなので、能力を使って周囲の音へと耳を傾けた。彼はいま杖を使ってでしか歩けないはずなので、あの特徴的な足音ならば聞き分けることができるだろう。探知する音を覚えている足音の周波数に合わせて、聴きとれる範囲の音を拾った。

「あ、居た」

聞き覚えのある音がヒットし、私は追いかけるようにその方向へと向かった。音は病院の裏門の方からだ。やっぱりどこか行こうとしているみたいで、その音は距離的にそろそろ外に出そうだった。

「そういえば噂の白いイケメン、見た?」
「ああ、あの特別病棟にいるって噂の?私まだ見てない」

その音を追いかけて病院を歩いているとふと女性2人のそんな声が聞こえた。”白いイケメン”という単語に「?」と思ってその声のある方へと向けば、一般病棟に勤務しているナースが2人廊下を歩いているのが見える。

「この前偶然見たんだけどね、想像以上に綺麗な顔してて思わず凝視しちゃったわ」
「えーほんと?一一一ひとついはじめよりイケメン?」
「あーそうね、イケメンはイケメンでもベクトルが違うかも、白い彼は美人って感じだったわ」
「なるほどねぇ、今度会ったら連絡先渡してみようかしら」

ついつい聞き耳を立ててしまい、そしてその会話に私はたらたらと冷や汗をかいた。一方通行の入院はそこまで公にされたものではなく、ある一部の人間からは噂になっている。だが何も知らない人の方が多くて静かな入院生活を送ってはいるのだけど、やはり目立つのだ。能力を抜きにしても。

「ハッ!早く見つけて保護しなきゃっ!!」

こうしてはいられない!どこぞの馬の骨とも分からない女に見つかってナンパなんかされていたら…!!なんて考え、私は急いで彼の音の方へと急ぎ足で向かった。

「ねぇ君最近よく見かけるけど、ここの患者だよね?」
「へ?」

走っていたら別のナースさんに「走らないでねぇ〜」と言われたので気持ち速めを意識して廊下を歩いていると、ふと同じ速度で歩いてくる男性が隣に並んだ。そしてそうやって話しかけられ視線を向けると、同じ患者服を着た同い年くらいの男性がにこやかに私を見つめる。

「ずっと可愛いなって思ってて気になってたんだ。良かったら連絡先交換しない?」
「はぁ…ごめんなさい、先を急いでいるので」

病院でこんな風に声かけられるとは思っていなかった。とりあえずまったく興味もなければ連絡先を交換する気もないので断ってそのまま速度を落とさず歩くのだが、男性は「そう言わないでさぁ」と同じくついてくる。

「あの、ついてこないでください…」
「いやー僕もこの先に用があって、あっよければ何か奢るよ?何か食べたいものとかある?」
「いやほんと、いいんで…」

病人のくせにやたらと元気な男だ。私はもううんざりしてとりあえず無視して歩き進めることにした。その間にも勝手に自己紹介なんかし出して色々話しかけてくるのだけど、私は今追いかける彼の足音に耳を研ぎ澄ませているのでほとんど男性の声は聞こえていなかった。

「あれー?ここら辺にいると思うんだけど…音も消えちゃった」
「もしかして人探し?よかったら俺も探すよ?」
「あ、ほんと?えっとね、白い人探しててー…」
「オ"イ"」

聞きなれた濁った声が背後から聞こえた。
中庭の方に出たはいいけど何故か一方通行の足音が聞こえなくなってしまい、私は周囲を見渡した。そしてまだ一緒にいた男性が探してくれるっていうので協力をお願いしようとしたら、背後にあったベンチに彼は座っていた。いつもの缶コーヒー片手に。

「あーいたいた、探してたんだよ!出ていくならなんか一言言ってよ!心配するじゃん!」
「うるせェ、何でいちいちテメェに言わなきゃなンねーンだよ」
「はぁ!?私の時には同じこと私に言ってたくせに!」
「…………つーかよォ、」

”誰だァ?ソイツ”
一方通行の視線が私の背後に向けられて、そういえばよく知らない男が付いてきていたことを思い出す。ギロリと睨みつける一方通行に男性が「ひっ」と小さく声を漏らすのが聞こえた。

「なにか奢ってくれるんだっけ?」
「い、いやぁーやっぱあの話はなしで!あはは!あのえっと、なんで俺はぁー……帰りますね!」

やっと空気を読んでくれた男性は青筋を立てながらそういって身を引いていき、そしてそのまま病院の方へとかけていった。こうして私と一方通行はしばし見つめあい、私は彼の隣へと腰を下ろす。

「ねぇ一方通行、ナンパとかされてない?」
「ハァ?どの口が言うンだテメェ」
「いひゃい」

何故か両頬を一方通行の右手でギュッと挟み掴まれてしまい私の顔は崩壊した。

「だってさっきね、一方通行のことナースさんが話してて…連絡先聞いちゃおうって…」
「アァ?クッッソくだらねェな」
「えー!私結構本気で心配してたのに!」
「バカか、アホ」
「ひどい!」

コツンと頭を小突かれ、私は涙目になって彼を見つめた。バカと言ってさらにアホまで付け足されるなんて!

「つーか、オレよりオマエのが危なっかしいンだよ、ったく…変なヤロー引き連れてきやがって」
「別に引き連れてないし!勝手についてくるだけだもん!」
「どっちも同じだバァカ、ハァ……散歩行くぞ」
「うん!」

理不尽だし言いたい文句は色々あるけど、とりあえずもういいや。一方通行との時間があるならそれでいい。

「手ぇつなご!」
「嫌だ歩き辛れェ」
「そういわず!」
「うぜェ…」

私はどうしようもなく今が楽しい。





白い噂の彼


 

Noise


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