| 「新しいベッドだー!」 ボフンッ! 勢いよく飛び込んだベッドの反発力ときたら歴代最高で、それはもうふかふかに包まれて最高の気分だ。このままずっと沈んでいたい…と思ってしばらく死んだように倒れていたら、バコンッと頭を棒のような何かで殴られた。 「オイ、まだ片付け終わってねェンだからさっさと動け」 「やだ……もちょっとこのまま…」 「テメェ……今から犯してやろォか」 「動く!動きますー!」 ユラリと私に覆いかぶさる彼の影に、危機感を感じた私はシュパッと起き上がり急いで部屋の片づけを始める。 私たちは病院を退院して、とあるマンションに住むことになった。一方通行の元の住んでた部屋は何故か燃やされてしまって、そして私の住んでた部屋もいつの間にかもぬけの殻で契約も破棄されていた。つまり家なき子になってしまった私たちを連れ出してくれたのは、 そんな新居に二人で住むとなり、私たちは買い物に出かけた。元々ある程度の家具は揃っていたが、ベッドは一人用だったのでこの際ダブルベッドを購入。買う時に少し不安になって「ダブルでいい?」と一方通行に問えば、「好きにしろ」と彼らしい返事が返ってくる。他にも必要な物を買いそろえていくが、元々買い込む性格ではなかったので生活用品はすぐに揃った。 「片付け終わったら黄泉川宅で引っ越しパーティーするから来るじゃんって言ってたよ」 「ハァ……めんどくせェ、オマエ一人行ってこい」 「だめに決まってるでしょ、一方通行も行くの」 「ハァーーー………」 なんだか一気に家族が増えたって感じで、私は今の状況をとても楽しんでいる。黄泉川宅には打ち止め以外にも芳川桔梗も一緒に住んでいて、ここ一帯は女4人と一方通行というなんとも奇妙な組み合わせとなった。この状況も、少し前までは考えられなかったものだ。 「たっだいまー!ってミサカはミサカは第二の新しい家に突撃してみるー!」 「あ、打ち止めいらっしゃい」 「引っ越しの荷ほどき大変じゃなあい?ってミサカはミサカはお手伝いしてあげようと優しさを全面アピールしてみたり!」 「うん、丁度食器片付けてたところだから、出すの手伝ってくれる?あ、でも割れ物だから気を付けてね」 「まっかせろー!ってミサカはミサカははりきって腕まくりをしてみる!」 バーン!とでもいうように勢いよく入ってきた打ち止めは、新しい家に大はしゃぎで部屋中を走り回った。ここは彼女の家でもあるので、挨拶は”ただいま”だ。少し危なっかしいが手伝ってくれるとのことで、彼女と一緒に買ってきた食器の荷ほどきを始めた。箱から取り出すのが打ち止めの仕事で、私はそれを軽く洗って布で拭いていく。一方通行はというと、ソファに座って缶コーヒーを飲んでいた。いや働けよ。 「あ、そうだ…打ち止め、そこのピンクの箱開けてみて」 「うん?あ、これかな?ってミサカはミサカは指をさして確認してみる」 「うんそうだよ、開けて開けて」 「なになに?ってミサカはミサカはとーっても気になるけどなんだか壊れ物っぽいので慎重にその箱を開けてみる!」 私が指定した箱は、アレが入っている。黄泉川の家に行った時に渡そうと思っていたのだけど、打ち止めが来てくれたので今見せようと思った。わくわくしながら箱を開ける打ち止めを横目で見ながら、私はその反応を待った。 「わぁー!!これってこれって!!ってミサカはミサカは感動のあまりうまく言葉にできなくて名前ちゃんへキラキラとした視線を向けてみるー!」 「うん、私と一方通行と、打ち止めのお揃いのマグカップだよ」 その瞬間、打ち止めは飛び上がるように大喜びして見せた。一方通行と買い物に行った時、せっかくだから打ち止めと三人でお揃いの物を買おうと言った。一方通行の反応は「ハァ?ガキくせェ」と相変わらずだったけれど、そこは無理やり押し通して買い物リストに追加した。お揃いってなるとやっぱりマグカップとかがいいねーということで、丁度可愛いマグカップを見つけたのでそれにした。 「打ち止めがこのリスのマグカップで、私がウサギでしょ、一方通行はネコだよ」 買ったのはただの色違い…とかのマグカップではない。超絶に可愛い動物がモチーフのマグカップだ。そのまま動物の顔が描かれており、打ち止めはちまちまと元気に走り回るのでリスっぽいな…と、そして一方通行は白猫をモチーフにしたなんとも彼に似合わぬ可愛いデザイン。ちなみに私は耳がいいのでウサギにしてみた。 「一方通行もこれ使ってねー」 「ぜってー使わねェ」 なんにも聞こえてませんなんて感じでコーヒー飲んでたくせに、しっかり返事するところはなんだかんだ可愛い。あんなこと言ってるけど、いつか無理やりにでも使わせて見せる。 一通り荷ほどきも片付けも終わって、私たちは隣の黄泉川の部屋に行った。合鍵は貰っているのでいつでも入ることができ、ほとんど二世帯住宅のような扱いだ。部屋に入ると一瞬で良い匂いが鼻をかすめて、奥に入ると「おかえりじゃん」と黄泉川が腰に手を当てニッコリ迎えてくれる。キッチンの方から芳川がサラダの入ったボウルを持ってきて、私たちに気づくと「おかえりなさい」と言ってボウルをテーブルの上に置いた。”おかえり”だなんて、誰かにこうやって言われる日が来るなんて思ってもみなかった。心の奥底がなんだかむず痒くなり、私の口元は上がるのか下がるのか分からない動きを見せた。 「うん、ただいま!」 黄泉川宅で引っ越しパーティーを終えた私たちは、再び自分たちの部屋へと戻ってきた。私は黄泉川宅で打ち止めと一緒にお風呂に入ってきたので、先に一方通行は戻っていて、私は遅れて戻った。部屋へ帰るとリビングの方だけ電気がついていて、ソファには一方通行が座っていた。ずっと病院でこんな日常的な光景もなんだか久々で、私はあの頃の二人だけだった時間を思い出した。いつも勝手に私の家に居て、勝手に寛いで、勝手に冷蔵庫の中をコーヒーで埋め尽くして、本当に…彼は勝手だ。 「わっ!」 「…………」 「反応わる」 「バレバレだっつの」 彼の背後にそーっと忍び寄り飛びつけば、まったくもっての無反応。部屋に入る音が聞こえて来たから普通に分かってしまったらしい。能力で音全部消してしまえばよかった。 「反射使えないから、こうやって抱き着くのも簡単だねぇ」 「何嬉しそォに話してンだよ」 「だって前までは安易に近付くと吹き飛ばされるから触るの怖ったんだもん」 「あーそォかよ、良かったデスネェ」 ちょっと脅かしてやろうと飛びつこうものなら、彼のお得意の反射であっという間に返り討ちにあってしまう。それは痛いほど味わっているので、実はさっきの行為は今までを考えるとありえないことだった。ぎゅうっと抱きしめたら、一方通行の白い髪が少しだけ濡れていて、シャンプーの匂いがふわりと香った。彼も私が向こうでお風呂に入っている間にシャワーを浴びたのだろう。一方通行はシャンプーの銘柄とか気にしないタイプなので、買う時に適当に選べと言われて私のよく使っているヤツを選んだのだ。匂いが新種だったのでどんなのか気になっていたけど、なるほどこういう匂いなのか…。ピーチとベリーの良い香りだ。 「つーか、そんなにオレに触りたかったのかァ?」 「うん、一方通行の肌すべすべだから気持ちいいんだよ」 「………キッモ」 「シンプルに悪口言わないでよ」 通常時は能力を使えなくても微弱な反射は効いているみたいで、こういった彼の外見に影響するものは無意識化で反射されているらしい。なのできっとこれからも先、彼のお肌は保たれるのであろう……なんとも羨ましい。ぺたぺたとその玉のようなお肌を手で触りまくっていると、物凄いドスのきいた声で「オ"イ"」と言われた。 「反射はできなくてもなァ、オレの機嫌は前と変わンねェンだよ…」 「あー…あは、怒っちゃった?」 「それにこのボタン押せばよォ、今すぐに跳ね飛ばしてやれンぞ?」 「さぁーもうねよっかー!」 能力が使えなくても、一方通行は一方通行だ。勿論変わったことの方が多いけれど、彼の根元の部分は変わっていない。そこが彼のいいところでもあるのだけど…もう少し素直になってもいいんじゃないかな、とも思う。 「新しい新居で、新しいベッド…なんだかわくわくするね」 「ガキかよ…」 「そういえば芳川が”今日は初夜ね”って言ってたけど、どういう意味かな?」 「ブッ…」 私の言葉に突然一方通行が吹き出すものだから、びっくりした。何かおかしなことを言っただろうか。「芳川の野郎…」という一方通行の小さな声が聞こえたが、さっきの芳川の台詞に何の意味があったのだろうか。分からないまま、私たちは寝室へと到着した。寝室はまだ殺風景で、ダブルベッドがポツンと部屋に置かれているだけだった。 「二人で寝ても狭くないね」 「あーそォーだな」 「…………………」 前に使っていたベッドも小さすぎるってほどではなかったが、二人で寝るとどうしても体が近かった。けれど今のベッドは二人で寝ることを想定されている大きさなので、仰向けになって寝ても彼の体にはほとんど触れることはなかった。一方通行も私も、体は結構細身だから余計だろう。だからその隙間が…なんだか物足りなく感じたのだ。 「……………」 「……………言いたいことがあンならさっさと言え」 静かになった空間でただ天上を見つめていると、一方通行がそう言った。彼は私には背を向けていて、相変わらず素っ気ないように見える。…けど、きっとさっきから私の落ち着きない空気に気づいていたのだろう。 「うん………ねえ、そっち行ってもいい?」 「……好きにしろ」 「うん、好きにする」 体をそちらに寄せて、一方通行の背中へと抱き着くようにしてみる。彼は変わらずこちらに向いてはくれないけど、その体温が妙に落ち着かせてくれた。 「一緒に住むことになっちゃったけど……一方通行は、それでいいの?」 「………別に、いいンじゃねェーの」 「ていうか…あくせられーたって、わたしのこと……好きなの…?」 温かな体温に少しだけウトウトとしだして、それでも口はそう紡いでいた。私はまだ、彼からはっきりとその言葉を聞いていない。前までは聞く必要はない…だって私たちの関係には名前がないのだから……そう思っていた。だけど今、こうしていてやっぱり、彼の口から確かなものを聞きたいと思った。私は、欲張りなんだろうか。 「……………」 「……わたしはすきだよ…さいしょ、なんだこの偉そうで性格ねじ曲がった白いのって思ってたけど……いまは、すき…」 「オイテメェ…、」 抱き着いていた体がごそりと動き、一方通行がこちらの方へと向いた。けれど私の瞼は半分まで落ちていて、今にも眠ってしまいそうだった。彼の息が聞こえる…、彼の手が私の体へとまわって…、 「好き勝手言ってンじゃねェよ…」 「すき……だよ………」 「あーもォ、分かったっつーの」 グっと体が引き寄せられ、いよいよ私の意識は現実から離れていった。全然逞しくも大きくもない体だけど、どうしてこうも…安心するのだろう。 「チッ……好きでもなきゃァ、こんなことすっかよ……バカ名前」 そう言った彼の声と言葉は、夢だったか現実だったか、もう分からない――。 |