| 「今日はカレーを作ります!!」 毎週訪れる休日のとある1日。夢で大量のカレーを食べるというなんとも幸せで子供じみたものを見てしまい、目覚めた今は絶賛お腹がカレーモードだ。ベッドから降りて顔洗って歯を磨いて、パジャマから普段着に着替えた私は、変わらずベッドに横たわるその真っ白に、そう声を張って言った。けれどまったくもって無反応。 「……って、音反射してるなコイツ」 よく見たら、一方通行の周りだけ音が消えていた。これも私の能力の一つで、そういったことも感知できる。ただ幸いなことに、体に触れることはできるみたいだ。油断すると体にも反射かけていて、たまに吹き飛ばされることがある。まあ、私の家に居るときはあまりそれはしないみたいだけど…。 「あくせられーたぁーー!おきておきておきてー!」 「……………」 「カレーの材料買いに行くから一緒にいこーよー!」 「…………チッ」 バチッ 「ぎゃあ!!!」 先ほどまで触れられていたその体に触れようとした瞬間、体は勢いよく跳ね飛ばされた。殴りかかったわけではないのでそこまでの大きな衝撃ではなかったけれど、普通に痛いレベルである。コイツ、反射かけやがったな…!! 「ねーおなかへらないのー?」 「…………」 「カレー食べたくないのー?」 「…………」 反射は解けない。こうなったら一方通行は完全無敵で、私なんかがどうにかできる状態ではない。仕方ない、買い物は一人で行くか…。そうと決まれば、買い物用のカバンを手に取ってそこに財布を突っ込んだ。エコバッグも忘れない。そのまま部屋を出て行こうとドアに手をかけ、もう一度ベッドの方を見た。 「ほんとにいかないのー?」 「…………」 「一人で行っちゃうよー?」 「…………」 「寄り道とかもしちゃうよー?」 「…………」 「クソモヤシ」 「聞こえてンぞ」 最後に吐き捨てるように言えば、まさかのタイミングで反射を解いてたみたいで返事が返ってきた。 「……一緒に行かない?」 「行かねェ」 行ってきまぁーす…。 いじけた私の声なんて、きっとあの冷徹男には届いていないのだろう。マンションを出ると空に浮かんでいる飛行船の時刻が【14:34】と出ていて、ああもう昼過ぎなのかと今の時間に気づいた。今から買い物に行って帰ってきて作って、出来上がる頃にはもう夕方だろう。 「カレー屋さんでテイクアウトの方が良い気がしてきた…」 一方通行も来てくれなかったし、これからの労力を考えると美味しく出来上がっているものを少し高いお金だして買って食べる方が良い気がしてきた。そこまで料理するの好きなわけでもないし…、どうせ作っても一方通行は“美味しい”とかそういったことを言ってくれないだろう。だったら…、 「って、さっきから何で私の基準、一方通行なの…?」 別に一方通行がどうしようと、何を言おうと、私には関係ないのでは?ふと頭が冷静になり、どうして今の今までそんなことを考えていたのかと疑問に思った。そうだ、あんなヤツのことを気にする必要なんてないのに。ハっと気づいて、私は一度止めた足を再び最初の目的地へ進めた。 スーパーまでの距離はそこまで遠くないので数分歩けばいつものスーパーが見えてくる。確か冷蔵庫には卵くらいしかなかったので、カレーの材料となると買いそろえるものが多くなりそうだ。そもそも何カレーにしようか……チキン、ビーフ、シーフードもありだ。一方通行は何が好きだろう…。 「って、またアイツ……違う違う!私の好きなもの入れればいいんだ!!ていうか、あんなヤツには食べさせてあげないし!!」 いい加減自分の思考回路が嫌になってきて、必死に頭の中からアイツの姿を消した。いつの間にか一緒に居るのが当たり前になってしまったあの存在は、少し前まではありえない存在だったのだ。別にもう会いたくないとか嫌いとかそういうんじゃないけど…、なんだか最近の私は――アイツに浸食されすぎている。もう少し、自分を取り戻さなくては…! 「あれ、上条くん?」 「え?…って、あ、名前さん」 カートを押しながらスーパーの中をグルグル歩いていると、久しく見ていなかった黒のツンツン頭を見つけた。 上条当麻くん――とある高校の男子生徒だ。以前私が怖そうなお兄さんたちに絡まれていたところを勇気を振り絞って声をかけて助けてくれた。まあ、助けられた…というよりは、一緒に逃げただけなのだけれど。そこから仲良くなって、たまに顔を合わせると挨拶をする仲になった。 「久しぶりだね、上条くんもお買い物?」 「はい、今日肉が特売だったんで」 「おー、ちゃんと自炊もしてえらいえらい」 「いやあ…あはは」 私は上条君よりちょっと年上なので、背伸びして頭を撫でたりしてお姉さんを振舞う。そんな上条くんはなにやら不幸体質だとかで、いつも浮かない顔をしていることが多かった。けれど今日は特売のお肉を無事ゲットできたらしく、明るい表情をしていた。 「名前さんも買い出しですか?」 「うん、無性にカレー食べたくなっちゃって」 「いいですねカレー、俺もそうしようかなぁ」 「………あ!上条くん、良かったら今から上条くんの家に行ってもいい!?そしてカレー作ってあげる!」 「いいっすよ!……って、ええ!?」 「よし決まりね!」 そうと決まれば、一緒に材料集めしよう!――と、半ば無理やり上条くんの腕を引いて私たちはスーパーを練り歩いた。丁度牛肉が特売ってことで、ビーフカレーにしよう。野菜は多めにして、ルーはちょっと甘口のがいいかなぁ。 私と上条くんの住む学生寮マンションは結構近くで、買った材料を持って二人で上条くんの部屋へと向かった。女の子が男の子の家に上がり込むなんてなんとやらと言われるだろうが、上条くんがそういったタイプの人ではないということは……なんとなく分かる。買った荷物は当たり前のように上条くんが持ってくれた。 「ど、どーぞぉー…」 「おじゃましまーす!おー、思ったより綺麗にしてるんだね」 「まあ、そんな家にいないんで…」 上条くんの部屋は学生寮っぽい、こじんまりとした少し質素だけど学生には十分な部屋だった。さっそく荷物を台所へと持っていき、準備をする。上条くんも「何か手伝いましょうか?」と言ってくれて、二人並んで小さなキッチンで料理を始めた。上条くんには皮むきをしてもらっている。 「ごめんね急に押しかけて」 「いやぁ、まあ…驚きましたけど、俺としてはありがたいんでいいんスけど…」 「上条くんは優しいねぇ…」 アイツに聞かせてやりたいよ。 二人で協力して作ったカレーは、それはもう沢山できた。さすがに今日だけでは食べきれないだろうけど、カレーは寝かせると美味しいって言うし。 出来上がったカレーを盛り付けて、私たちはテーブルを囲んだ。そして同時に「いただきます」という声が部屋に響く。 「うま!!これスゲーうまいです名前さん!」 「上条くん大袈裟だなぁー……あ、めちゃうま!!」 隠し味でインスタントコーヒー入れると美味しいって言ってたから入れてみたんだけど、思った以上に美味しくなってる!そんな感動を二人で語り合いながらぱくぱくと食べていき、それはもう大満足のお腹となった。 「……どうかしたんですか?」 「え?あ、なんか変な顔してた?ごめんね……なんか、いいなぁーって思って」 「え?」 「美味しいものを美味しいって言い合えるのって、素敵だなぁって…思っただけ!あはは、変だね」 「名前さん…?」 上条くんに“変なヤツ”って思われてしまったかな。美味しいものを食べているといつも幸せな気分になる。けれどなんだかそれはいつもと違って、何が違うのかはあまりよく分からなかった。ただ思い浮かべるのは目の前の上条くんとは違う、白い… 「上条くんは好きな人とかいる?」 「え!な、なんですかいきなり!?」 「いやぁ、やっぱそういう色恋って気になるじゃない?それに上条くんっていい子だし、モテそうだよね」 「俺がモテ…!?いやいやいや何言ってんですか、ありえないですよ!」 顔を真っ赤にして返してくる上条くんは、なんとも学生らしくて可愛らしかった。質問をしたら返してくれて、笑ったら笑ってくれて、美味しいものは美味しい、当たり前のことなんだけど、今の私には変に感動するものがある。上条くんの表情を見ていると、そういえばアイツの照れてる顔って見たことないなぁ…なんて思った。 「そういう名前さんはー…その、好きな人、って、いるんですか?」 「私?私は……いないかな」 そう、なんですか…。上条くんは小さな声でそう言った。自分から質問をしたのに、私の返答は実にツマラナイものだ。 カレーを食べ終えた私は、後片付けをして帰る支度をした。余ってしまったカレーは上条くんが小鍋に分けてくれて半分持ち帰ることになった。家まで送っていきますよとも言われたけど、ありがとうとだけ言ってお断りする。上条くんにはしっかりお礼を言って、私は彼のマンションを出た。 外はすっかり暗くなっていて、薄着で出たから肌寒い。早く帰ってお風呂にでも入って、だらだらとしよう。そういえば何も連絡しないで上条くんの家にずっといたけど、あの暇人はまだ家にいるのだろうか。さすがにまだ寝てる……なんてことはないだろうけど、帰ってこない私をどう思っているのだろうか。ちょっとは心配……は、するはずないか。私が家にいないなんてことしょっちゅうだし、アイツもアイツでフラ〜っとやってきてはフラ〜っとどこかへ行ってしまう。本当によく分からない。 というか、私はまだ怒っているのだ。返事もしない、付き合ってもくれない、何かあれば反射して痛い目をみる。あとよく分からないことで怒って家の物壊すし…。今日のことで怒っているというよりは、今までのそんなのが蓄積されてプチ噴火…という感じだ。だから帰ってもし家に居ても、無視してやる。 そう思って家までの道のりを歩いていると、見慣れた…白い影が見えた。私の足はその場で止まり、真っすぐ彼のいる方を見つめる。丁度街灯に照らされた姿は、正しく“白”だった。 「 」 「え?」 向こうも私に気づき、表情が少し歪むのが分かった。二つの赤が睨むように私の瞳を捕らえ、何かを言っている。けれどその言葉は私の耳には届かず、この時自分が能力で音を消しているのだということに気づいた。少し一人で静かに考えたくなってしまって、そういえば音を遮断していたのだ。彼のように全てのモノを反射することはできないが、私にも音だけなら遮断することが出来る。私はすぐに音の無音化を解除した。 「オイ、どこ行ってやがった」 いつもより三割増し低い声が聞こえた。 コツコツとゆっくり近付く彼を、私はただ見つめる。聞いてンのか、とイライラしながら言ってくる彼は、予想通りいつもの何も変わらない一方通行だった。 「探しに来てくれたの?」 「ア"ァ?勘違いすンな、腹減ったから出てきただけだ」 目くじら立てて返ってきたその台詞に、私は静かに笑った。だってこっちにはもう学生寮マンションしかなくて、飲食店は反対方向だ。スーパーだってこっちにはないし、用もなければこんなところ歩かないだろう。勝手な憶測だけど、ずっと探してたんじゃないだろうか……私を。 「つーか、さっきから何持ってやがる」 「ああコレ?スーパーで学校の友達と会って、友達の家でカレー作ってたの。沢山作ったからこれは残り」 ずっと手に持っている小鍋に気づいた一方通行にそう説明してやると、「ふーん」とも「へー」ともいえない、一応納得したような返事が返ってきた。話をこじらせたくなかったので、“学校の友達”と…あながち間違ってはない説明をした。 「なにその不満そうな顔」 「別にしてねェ」 「一方通行が悪いんだよ?買い物付き合ってくれないし、どうせ私が何か作っても美味しいとか言ってくれないんでしょ?」 膨れて言えば、一方通行はハァと小さくため息を漏らす。あ、物凄く面倒くさそうな顔してる。そりゃそうだ、彼女でもなんでもない女にこんなこと言われたら、誰だって面倒だと思う。言ってから私は後悔した。 「ったく、ガキじゃねーンだからよォ…」 まったくだ。いつの間に私はこんな面倒くさい女になってしまったのだろうか…。少なくとも、コイツと出会う前まではそんなんじゃなかった。さすがは第1位、人の心のベクトルまで操作できるとは…!なんていうのは冗談。私は自分が思っている以上に、この男のことを想ってしまっているらしい。 「…なンつー顔してんだ、チッ………………、あ"ー……………悪かった」 「へ?」 「帰ンぞ」 「ちょ、えっ!?」 いま………一方通行が、謝った? 私のこの能力を持って、聞き間違いだなんてあるわけがない。ただ、自分の妄想だとしたら大いにありうる。でもその声と言葉はリアルで、現実のものだとハッキリわかった。言葉は……まったくもって現実的ではないけれど。 「帰ったらソレ、食わせろよ」 正直まだ分からない。けれど一方通行との生活を、私は“楽しい”と思っていることは認めようと思う。上条くんと一緒に居る時も、一緒にいただきます、美味しいね、って言っている時、全てが一方通行だったら――と考えていた。 「美味しいって言ってくれる?」 「ウマかったらなァ」 絶対言わせてみせる。 |