| 「おやおや、名前チャンじゃねーか」 放課後、第七学区にあるセブンスミストに下着を買いに寄り道をすることにした。どうしてわざわざ学校の帰りに下着なのか――、それは全てあの白い魔物にある。 つい昨日のことだ。いつものように私の家に勝手に上がり込んで勝手に寛いでいた一方通行と、その日は“そういう雰囲気”――になった。否定するという選択肢…というか拒否権は私にはないのでただいつものように受け入れる。けれど服を脱がせる最中に、私が彼の癇に障ることを言ってしまったのだ。そしたらパーン…とね、見るも無残にはじけ飛びました。なんともマヌケな話だ。しかもですね、これもう5着目なんですよ。 いい加減ストックが無くなってきた焦りで、マヌケな私は泣く泣く今日下着を見に第七学区へと訪れていた。 「帝督…なんでアンタがここに…」 丁度いつも行くランジェリーショップを見つけ、入ろうとした時だった。一人の男に声をかけられる。よく聞く声だった。 ――垣根帝督、この学園都市で第2位の男。 「なんだよ、可愛くねぇ反応だな」 「アンタみたいなのが真昼間からこんな場所居ていいの?」 「一応学生なモンでな」 コツコツと革靴を鳴らして近付く彼の影は、あっという間に私を覆った。ニヤリと上げた口角はどういう意味での表情なのか、私は彼を見上げる。相変わらずホストみたいなチャラチャラした格好をして、顔だけはいいからチラチラと道行く女性が彼を見ては黄色い声を上げる。見た目に騙されるな。 「で、お前はまた胸のサイズでかくなったのか?」 「びゃッ!?」 もみっ 胸に突如、昼間からはありえない感触が走った。まさかの、この目の前の男に胸をガッツリと揉まれたのだ。そしてぽよぽよと胸を下から何度か持ち上げて揺らし、「やっぱ前より成長してんな」と独り言のように呟く。いや、なにしてんだお前。 「そんな怒んなよ」 「いや怒るでしょ」 「カワイイ顔が台無しだぜ」 「もとが可愛いから多少のことじゃ崩れませーん」 「お前のそーゆーとこほんと可愛くねぇ」 胸を揉んでいた手が今度は頬にきてグリグリとされ、私はひたすらにその男を睨んだ。けれど帝督はただ面白おかしく笑っていて、完全にオモチャにされている。面倒くさい男に絡まれてしまった。 「ていうかもうどっか行ってよ、これからお買い物なの!」 「買い物ってココだろ?俺が見繕ってやるよ」 「いらない!」 「まあそう言うなって」 「わっ、ちょ、押さないでよっ」 どういう意図かなんなのか、帝督は私の背後に回って肩を押し、グイグイと目の前のランジェリーショップへと入っていった。まさかの同行に、私はもう色んな感情が巡り巡って… 「やっぱ赤だろ」 「はぁ……」 諦めた。 何故か彼氏面したその男は、私に次々と勝手な好みの下着を宛がって、勝手に評論している。一体何がどうしてこうなったのか。ため息だけが店内に響く。 「で、この下着は何用?」 「私生活用ですけどなにか?」 「私生活用ねぇ…」 「な、なによ…」 「いいや?お、これなんていいんじゃねぇの」 そう言って宛がわれたブラショーツは、薄いパープルに同系色で蝶の柄が描かれていて、大人っぽくはあるが可愛さもあるものだった。帝督にしては、悪くないチョイスだ。 「気に入ったな」 「う……下着に罪はない」 「じゃあコレで決まりだな」 「ちょ、自分で払える…!」 「いつもお仕事頑張ってくれてっから、ボーナスだ」 そう言ってひらりとそのブラショーツのセットを片手に掲げる男の姿は、なんとも犯罪臭がプンプンと漂っている。というか、サイズ確認してないんだけど!?と思って帝督の方へ駆け付ければ、特になにか言ったわけでもないのに「あ?アンダー65のDだろお前」と言われ、私は呆気にとられた。何がって、普通に合ってることにだ。もしかして今さっきのアレで計ったというのか…。まさか能力…!?と思ったけど、この男の能力、 「おい、色々失礼なこと考えてるだろお前」 「いいえ〜」 ピッ、お会計12000円です〜 店員さんの声に合わせ、帝督は財布からカードを取り出してそれで支払った。学生の癖にカードとは生意気な…。しかも店員さんには「素敵な彼氏さんですね」なんて言われて私は苦笑い。というか、本当に私はなにをしているのだろう。 「ほらよ」 「ワーイアリガトー」 「もう少し喜べよ」 お洒落な紙袋に入れられたソレを受け取り、私は棒も棒なお礼の言葉を述べた。まあ、タダで手に入ったというのはラッキーだけど…。気づけば店の外はオレンジ色に染まっていて、夕暮れ時というには十分だった。 「お前が今ダレとドコにいるのかなんて、俺にはお見通しだ」 「………だからなに」 「いいや別に、ただ……お前は俺の配下にあること、忘れんなよ」 「……分かってるよ」 「ならいい」 彼には仮がある。今の私は、彼には逆らえない。そういう力関係なのだ。 「じゃあ、私帰るから」 「今度会う時、それ着けてこいよ」 「ぜっっっったい嫌」 プイと背を向け、私は帰路へ足を進めた。チラリと振り向くと、もうその男の姿はなかった。……忠告でも、しに来たのだろうか。私が自由の身でないという、戒めだろうか。 「ただいまぁー…」 あれから自分のマンションへ到着して部屋の前まで行くと、中からよく知る“音”が聞こえてくる。ああ今日も来てるのかと、そのままドアノブを回した。 そう、一方通行が来ているということは、鍵はかけられておらずそのままなのだ。不用心――なんて、そんなの通用するはずがないのだから。 「はぁ…どっと疲れた」 部屋に入ってすぐにリビングのソファに倒れ込み、屍のように体を脱力させた。ソファの端に座ってなにかの本をを読んでいた一方通行はまったく動じず、変わらぬ格好で静かにページをめくった。私も特に突っかかることなく、ソファに置いているクッションにグっと顔を突っ込んで静かに呼吸をする。 「クセェ…」 「へ?」 沈黙が少し流れた後、一方通行が静かにそう言った。その言葉に、私も初めて自分の体の匂いに気づいた。たしかに体のいたるところから、覚えのある甘く爽やかなシトラスの匂い……アイツだ。さっきまでベタベタとまとわりついてきていたから、匂いが付くのも仕方ない。 「ドコ…行ってやがったァ?」 「べ、べつに…ちょっとセブンスミストに、昨日誰かさんにボロボロにされた下着の替え買いに行ってただけ…です」 「へェ…」 グッと首根っこ掴まれて何かの力で持ち上げられたかと思えば……ちょ、近い近い。顔が近いよ一方通行さん。それに顔が怖い。 「風呂入ンぞ」 「え、今から!?てか、一緒に!?」 ズルズルズル… 気づけば私の体は廊下に転がりモップの如く滑っていて、段差にガツンと体を打ち付けてそのまま脱衣所へと到着。そして私を見下ろす――否、見下す一方通行に「さっさと脱げ」と言われて私は「???」状態。すぐに脱ぎにかからない私に「今度はこっちも破ってほしいのか」と言われ、私は即座に服を脱いでいった。そして同じく、服を脱ぐ一方通行…。やっぱり、一緒に入るんだ。 「ていうかお湯入れてない…!」 「同時に入れりゃいいだろ」 確かに!なんて言って浴槽のお湯の蛇口を捻り、お湯を入れた。って、本格的に2人で入ることになってる。別に一方通行と一緒にお風呂に入ることは初めてではないし、今更恥ずかしがることでもない。ただ、いつも私が誘っても来ないのに、何で今日はこんなことを言い出すのだろうか…。 「うわっぷ!ちょ、冷たい!まだ水だから!!」 「うるせェ」 シャワーを出したかと思えばそのまま顔に向けてぶっかけてくる一方通行に、私は身を震わせながら抵抗した。冬じゃなくてよかったよ本当に。次第に温かくなってくるシャワーに体の体温も戻っていき、すがる思いでシャワーのお湯に身を寄せる。「いつまで持たせンだ自分で洗え」なんて言われて今度はシャワーヘッドごとぶつけられ、何で私はこんな仕打ちにあっているのだと泣きながらいつものように洗い出す。 「もう…一方通行も洗ってあげる」 「…………」 返事が帰ってこなかったので、これはいいということだ。大体一方通行が無言の時は、肯定とみなしていい。しばらく一緒にいればそういったことも覚えてくるものだ。そして当たり前のようにバスチェアを独占する一方通行に、私は背後に立ってシャワーをかけていく。相変わらず細くて、白い髪と体。 「かゆいところはありませんかぁ?」 「黙って洗え」 「ふぁーい…」 ひと通り洗い終えて、いつの間にか溜まっていた湯船に二人して浸かった。あまり大きな浴槽ではないので少し窮屈だ。浴槽の端ににもたれかかりくつろぐ一方通行を背に、私はぷかぷかと入浴剤で白く濁ったお湯の上にいつものアヒルさんを浮かべた。 「そんなに嫌なニオイだった?」 「…………ハァ」 それはいつもの溜息とは違って、どこかこぼれるような息だった。それと同時に肩に重みがかかり、一方通行の顔が私の首元に埋まる。よくわからなかったけど、片方の手でその頭を静かに撫でた。 「どしたの?」 「どォーもしねェよ…」 とても小さく掠れた声だったけれど、この浴槽にはよく響いた。 「こっち向け」 「ん…」 いつもは冷たい一方通行の肌も、今だけは熱を帯びている。相変わらず薄いその唇にはあまり柔らかいという感触はなく、それでも変に温もりを感じた。いつも思う。彼がその気になれば、今この一瞬――ほんの少しその脳を動かすだけで、私をどうとでもできるのだ……と。 「オイ、この紙袋はなンだ」 「え?ああそうそう!今日新しく買った下着だよ下着!せっかくだし着てみよーっと!」 そういえばまだ一度も着ていなかったおにゅーの下着。紙袋から取り出してタグを外し、慣れた手つきでそれを装着していく。 「おー!ほんとにサイズぴったり!ちょっと揉んだだけでよく分かったなぁアイツ………あ、」 「ア"イ"ツ?」 あ、やばい。 サーっと顔が青くなっていく感覚がして、さっきまでお風呂に入ってぽかぽかしていたはずなのに、今は氷山の上にいるような寒さが襲う。じわじわと近付いてくる一方通行の表情は、それはもう血管がブチ切れるようだった。 「あ、あの…ちょ、一方通行…さん…?って、ひゃっ!?」 グッとその手が私の胸に…ではなくブラに……と思った瞬間、それは――、 パァーーンッ |