「ぎゃー!!!」

ドカッ!バシャッ!ズドン!
盛大な音を発して、私の世界は一転した。そのまま思考停止してしまい、見えるのは真っ白な天井。そしてじわじわと沁みていく水気の不快感に、妙に冷静だった脳みそが最下層に落ちていくのが分かった。

「オイなに騒いでン……なにしてンだオマエ」
「絶望感に打ちひしがれてる…」
「アーー……やっちまったなァ」
「うん…やっちゃった…」

手で顔を覆ってしくしくと泣いた。丁度お風呂から上がってきた一方通行が首にタオルを掛けてホカホカとこちらへやってくるのが逆さに見えた。そしてこの悲惨な光景に、さすがの彼も憐みの声を私にかけてくる。

「どォーすンだよコレ」
「どうしよう…もうダメだよね」
「さすがにアウトだろ、使いモンにならねェよ」

そう、私は盛大にすっ転んだ。風呂上りに飲もうとした牛乳パック(1L)と共に。そしてその牛乳パックは今現在、我が家の愛用するソファにドンかぶりである。ドクドクと沁み込んでいく白い液体は床にまでのび、すっ転んだ私の体までも濡らしていく。ああ、お風呂…入ったばっかりだったのに…。

「…で、いつまでンな恰好してンだオマエは」
「もうやだ現実を見たくない」
「うぜェからさっさと脱いで風呂行け」
「え、一方通行がこれ拭いてくれるの?」
「その恰好で動かれる方が厄介なンだよ、さっさと行け」

そう言って持ってたミニタオルを私の上にポイと投げられ、私は軽く足元だけ拭いてそのまま浴室に駆け込んだ。一度洗ったので軽くシャワーだけして全身の牛乳を洗い流し浴室から出てくると、ソファの回りは綺麗になっていた。後始末をしてくれるだなんて、出会った当初を思うとありえなさすぎる行動に感動を覚えるほど。

「まあでもこのソファ、結構使い込んでたもんなぁ……そろそろ変え時か」
「丁度良かったンじゃねェの、この上でヤりまくってっから染みも増えてきたしなァ」
「ちょ、そーゆーこと言わないで!てか、それを言うなら一方通行だって勢い良すぎて溢したりしてるじゃん!」
「いつもつゆだくなオマエには負けるけどな」

このソファは元々マンションに備え付けられていたモノで、ソファカバーとかもないお手軽な安物ソファだった。捨てるのも面倒だし別にこれでよかったのでずっと使っていたけど、結構日常生活でちまちまとした汚れはついていたのだ。それにまあ、この上で致す…なんてことも何度かあるのでそういった染みも少々…。こんな会話も月日を重ねればなんの恥ずかしげもなく出てくるものよ。

「よし、明日新しいソファ買いにいこう!」
「行ってら」
「一方通行も行くの!」
「ヤだ、めんどくせェ」

まあそう言うだろうとは思っていましたよ。丸くはなったと言っても結局は一方通行だ、そう簡単に腰を上げてはくれない。だが簡単に腰を上げてはくれないだけで、絶対行ってくれないわけではないことを私は知っている。

「私の好みで選んじゃっていいの?」
「好きにしろ」
「本当にいいの?」
「いいっつってンだろ」
「分かった、じゃあコレにするよ?」
「だから好きに――……」

私はとある雑誌を彼の目の前にバッと広げた。そしてそれを目の当たりにした彼は、みるみると眉間に皺を作っていく。

「じゃあお言葉に甘えて、このゲコ太ソファにするね!」
「オ"イ"、ちょっと待て」

私が見せた雑誌には、某インテリアブランドとコラボしたゲコ太をそのままソファにしたような超絶に可愛いゲコ太ソファの記事。実はずっと前から気になっていたからいい機会だと私は目を輝かせた。だがそれは一方通行の濁った声によって阻止される。

「え、なに?好きに選んでいいんでしょ?」
「チッ…分かった、一緒に行くからソレだけはヤメロ
「え、一緒に行ってくれるの?わーい!」
「ハァーーー……」

これだけ長く一緒に居れば、彼氏の扱いも慣れたものだ。侮るなかれ長年の付き合い。
乳にまみれた我がソファとはさようならをすることを決め、私たちは早速明日にでも新しいソファを探しに行こうという話になった。新しいソファとなると今後長く付き合うことになるので実際に触れてみる必要がある。なので私はずっとずっと気になっていた某大型インテリアショップを提案した。なんでもそのインテリアショップは実際の部屋の雰囲気などをリアルに再現したブースが沢山あり、より生活に寄った感覚で商品を見ることが出来るらしい。このマンションに引っ越すときはほとんど家具が揃っていたので行く必要もなく、結局未だに行けていなかった。だから念願のショップにしかも一方通行と行けるとあって、私の心は遠足前の小学生のようにうきうきだった。中心街から少し離れた場所にあるのでどう行こうかとか、専用のシャトルバスが駅から出てるんだねーとか、食事もできるんだよーとか隣に居る彼に言うが、「さっさと寝ろ」と一蹴されてしまった。


▼△▼



「すご!!でか!!!」
「迷子になるなよ」
「打ち止めじゃないんだからならないよ!」
「どーだか」

明くる日、私たちは有言実行して某大型インテリアショップへと訪れた。そしてインテリアショップとしてはかなりの大型倉庫のようなサイズ感にまず感動し、中に入るとそれはそれでまた感動を覚えた。はしゃぐ私に対しての一方通行の落ち着きようといったら、相も変わらずな温度差を保つ私たち。

「打ち止めも連れてきてあげればよかったね、絶対大はしゃぎだよあの子」
「なら連れてこなくて正解だな、ガキ二人の面倒なンて見てらンねェぞ」
「ちょ、なんで二人なのよ!」
「こっちはでけェクソガキ1匹で大変だからなァ」

打ち止めも一緒にと誘ったら、「ミサカは気にしないで二人で行ってきたらいいよってミサカはミサカは行きたい欲を抑えて二人に気を遣ってみたりぃ…!」と必死に抑えた顔で言われてなんだか申し訳なくなってしまった。じゃあ何かお土産を買ってくるねと約束をして、お言葉に甘えて二人で出かけることにしたのだ。
モデルルームが並ぶエリアへと到着して早速色んな部屋を見て回ることに。キッチン周りだけでも色んなテーマがあって雰囲気も全て違い、本当にそういう部屋にいるみたいでとても面白い造りをしていた。

「見て子供部屋!かわいい!こんな部屋住みたいー!」
「あァ?テメェのサイズ考えろ」
「分かってるよ!ちょっとは童心に戻らせてよ!!」

色々見て回っていると子供部屋ゾーンに到着した。ベッドも机もどこか一回り小さくて物凄く可愛くて、自分が子供だったらこんな部屋一度は住んでみたかったなと憧れてしまう。さすがにもうこのサイズではこんな可愛い部屋は無理だと分かっているのだけど、やはり彼の言葉は容赦ない。

「でもほら、子供ができたらこんな部屋がいいなーとか思わない?」
「……………………ハ?」
「へ?」

なんで彼はそんな拍子抜けた顔をしているのだろうか。私はただ子供ができたら…とそこまで考えて、自分の顔の温度がカァーーっと急上昇するのが分かった。

「あっ、いや、今のは別にそこまで深い意味は、なくてッ…!」
「……………」

なにをこんな焦って弁解しているのだろうか。言っていてちょっと自分でもよくわからない。顔を真っ赤にして彼の表情を見ると、何故だか彼も手で口を覆って目をそらしていた。あれ?

「……あくせられーた?」
「いや………なンでもねェ」

本当にさっき言ったのは何も深い意味とか考えて言っていなかった。一方通行自身も分かっていたはずだろうにそんな反応をされてしまい、私は逆に深く考えてしまったのだ。すると彼もどこかしまったと言わんばかりに目をそらしていて、いよいよ思考が変な方向へと曲がってしまう。

「深くは考えてない…けど、一方通行以外の人とー…とかも考えてない…よ?」
「別に何でもねェっつってンだろ……」
「だって一方通行が変な反応するから…」
「うるせェ…」

お互いどんどんと恥ずかしくなっていき、なんだか変な空気になってしまった。出会ってもうかなりの時間を過ごしてきたというのに、まるで思春期の男女のような空気が流れている。というか、一方通行が悪い。私は何気なくポロっと普通に言っただけなのにそんな反応をするって……ちょっと、期待してしまうじゃないか。

「顔は一方通行に似てもいいけど、目つきは似ないでほしいなー」
「オイッ………〜〜ッ!……はァ…、脳ミソはオマエに似ねェといいな」
「ちょ、私だってそれなりに勉学は強い方なんですけど?」
「勉強以外は脳味噌お花畑だろォが」
「性格は絶対に一方通行に似ませんように!!」

そんな未来予想図は今のところ確率ほぼゼロに近いけれど、妄想くらいは許してくれるだろうか。想像したらなんだか少し楽しくなってしまい、さっきまでの恥ずかしさは少し薄れていた。というかこんな話を普通に会話してるのがなんだか可笑しくて、でもそれが妙に心地よかった。
私が色々と寄り道をするので彼に何度も怒られたけど、やっとお目当てのリビングルームに到着してソファというソファを物色した。今までのは無難で触り心地もそこまでのソファだったので今回のはもっと良いものを選ぼうと思う。出来ればカバーとかで色合いも時期とかによって変えられるようなのがいいなあと、色んなリビングのモデルルームに行ってはソファに座って普段使いを想像した。

「ねえ、やっぱ一人じゃ分からないから一方通行も座ってみてよ」
「必要かァ?テキトーに選べばイイだろ」
「だめだよ!これから長く付き合うんだからこの子だー!っての選ばなきゃ」
「触り心地も何も知らねェで見た目だけであのクソ趣味悪いカエルを買おうとしてたヤツの発言とは思えねェな」
「ゲコ太は可愛いからなんでもいいんだよ!!」

先ほどから非協力的な一方通行に視線を向ければ、とてもつまらなさそうに欠伸をしているのが見えた。やっぱり彼の意見も欲しいところなので隣に座るようソファをポンポンと叩いて招くと、ため息を吐きながらも隣に座ってくれた。

「大きさは前のやつとあまり変わりないね、二人座ってても余裕できる」
「奥行きが足りねェな」
「うーん確かに、前のよりもちょっと浅いね……って意見あるなら一緒に見てよもう」

なんだかんだ文句言ってくるのだから最初から一緒に見てくれればいいのに、本当に素直じゃない。
とりあえずこのソファはお互い意見も合ったので別のものを試す為に腰を上げた。…のは私だけで、動くのがダルそうにする彼をじっとりと見下ろして、それでも動かなかったので無理やり手を引いて次のソファを探した。次に見つけたのは、カジュアルな明るい内装のリビングにあるカウチソファだった。カウチソファといえば座面の部分が広く作られていて、ソファでありながらも寝ころぶことができる結構人気のソファだ。

「これ!よさげ!ね、一方通行もそう思わない?」
「アー…悪くねェんじゃねーの」
「ごろんって寝転がれるのいいね!」
「オイ中身見えてンぞ」
「一方通行にしか見えないからいいよー」
「ハァ…」

隣にいる一方通行の反対側に寝ころんでソファの広さを堪能する。スカートを履いてきてしまったのでここからだと一方通行にだけ見える角度になってしまっているが、彼に見えたところで今更なので気にしなかった。…と思ったら、下半身に違和感。

「って、ちょちょちょっ!な、なにこんなところでセクハラしてんの!?」
「アー?ナニって、実用性見てンじゃねェか」
「実用性って…バカじゃないのっ!」

するりとスカートの中に入ってきた彼の手がやわりとお尻を撫でてきて、私の体はビクリと跳ね上がった。リビングを再現した部屋とあってシチュエーションもまるでいつもの部屋でしてるみたいな気分になり、公共の場だということを一瞬忘れてしまいそうになる。さすがにこんな所で不健全性的行為をするわけにはいかないと私はその手を阻止するべく上体を起こした。キッと睨みつけると彼はとても意地悪に笑っていた。

「えっち、すけべ」
「ハッ、とか言って実は興奮してたンじゃねェの?」
「し、してない!」

さすがの一方通行もこれ以上は触れてくることはなく、ヤバイ寸前のところで手をパっと離した。でも彼の言うように少しだけドキドキしてしまい、そんな自分に自己嫌悪である。ほんと、こういうのは心臓に悪いので止めて頂きたい。
その後も残りのソファを見て回ったけどやっぱりさっきのがいいなとなって、先ほどのカウチソファを購入決定となった。残り時間も色々見て回り、はしゃぐ私に彼はダルそうに見つめつつも歩幅を合わせてずっと一緒に居てくれた。フードコートでご飯を食べて、打ち止めのお土産に可愛いグミやキャンディーを買って、小さな生活用品なんかも売っていたので足りないものを買いそろえたり、なんとも充実した一日を送った。

「オマエ今日ずっとニヤニヤしてンな、キモイぞ」
「最後のは余計!…んー、だって久しぶりに一方通行とこんなに色々買い物とかできて、すっごい楽しかったし嬉しかったから!」
「フーン……安上りなオンナだな」

帰宅後、そのままいつものソファにダイブしそうになったのを一方通行に首根っこ掴まれて阻止され、ダイニングテーブルに落ち着いた。結構歩いたお陰で割と疲労感に見舞われ、私はテーブルにべったりとうつ伏せる。ゴクリと、彼が帰りに買った缶コーヒーを飲む音が聞こえた。

「一方通行は?楽しかった?」
「別に」
「思春期の中学生ですか」
「ンだと」
「結構、悪くなかったでしょ?」
「……そーだな、たまにはいいンじゃねェの」
「えへへへへへー」
「きめェ」

いつまで経っても素直じゃない。でも垣間見える彼の素直な気持ちに、私はそれだけで充分な幸せを感じた。

「新しいソファきたら変なシミ作らないでよ」
「じゃァオマエも毎回ダラダラ溢すンじゃねェぞ、つゆだくオンナ」
「つゆだく言うなー!!」

私たちの未来に新たな可能性は生まれるのだろうか。





0.数%の未来予想図


 

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