「私が一方通行に勝てるとこ、なくなっちゃった」
「ハァ?」

 チャプ、とその小さい手が掬った雫が音を立てて流れ落ちていく。全ての汚れを洗い流したその身を40.58度という適切な温度に温められた湯へと沈めた。二人分だ。

「レベルは当然ながら、ゲームだってほとんど勝てたことないし……頭脳ゲーが勝てないのは分かるけど、格闘ゲームも本当に強いよね、頭いい人はなんでも熟せちゃうの?ずるすぎる!それに私よりお肌も白いしツルツルもちもちで、顔だって……ああもう言ってて悲しくなる!」
「はァ…」

 オレの目の前に背を向けて疼くまる女はまた突拍子もなくワケの分からない発言をする。そもそも一緒に入ってイイなンてことも言ってねェのに雨に降られたとかで勝手に入って来やがるし、いつもながらこっちの都合なンて考えやしねェ。

「ずっとこれだけは勝てるって思ってた腕力も、今では勝てなくなっちゃったし……わたし、一方通行に勝てるとこなにもないよ」
「……俺に勝ってどォすンだよ」
「んー、どうするって…別にどうもしないけど……なんか、負けっぱなしは嫌じゃん?」
「ハァ……どォーでもイイな」

 心底どうでもよすぎる。コイツは毎回どうしてこうもどうでもいい話でここまで盛り上がれるンだと、もはや関心するほどだ。そして興味がないと返事する俺に屈することなく、それでも話を続ける。愉快なヤツだよ本当に。

「あ、ひとつだけ勝てるところ見つけた!」
「ア?」

 まだ話は続くのか…と完全に右から左に流しながら、暇だったので目の前の女の髪に指を通していた。…が、突然そんなことを言い出してヤツの顔がこちらを振り向く。それはもう、自信に満ち溢れた見てるだけでムカつく顔だった。

「一方通行のこと好きって気持ちは、絶対私の方が勝ってるね!」

 女はハッキリとしたその声で言い放った。

「……はァ、そーかよ」
「反応うすっ!なんかもっとないの!?ドキッとか、キュンッとか!」
「俺がンな反応すると思ってンのかよ」
「到底思えない!」
「ハッ倒すぞテメェ」

 また何を言い出すのかと思えば、俺が想像もしないことを次から次へと……やっぱりコイツの頭は花畑だ。正直、コイツを見てると俺と同じレベル5だってことを忘れそうになる。身体検査システムスキャンミスってんじゃねェか?

「私の方が一方通行のこと好きだもんね」
「あァ、そーかよ」
「一方通行の為なら、なんだってできるよ」
「………」

 どうでもイイと聞き流すつもりだった。――が、コイツのその言葉に俺の奥にある何かが引っかかる。……なんでも、できるだ?

「へェ、そーかよ」

 コイツは何もわかっちゃいねェ。俺の為ならなんだってできる?いいや、オマエはできねェよ。何故なら――

「オイ名前、」
「へ?え、ちょっ…むぅっ」

 水面が揺れた。掴んだ頬を引き寄せ、その無防備な唇へと噛みつく。湿度の高いこの空間では、滴る雫も全てなにもかも零れ落ちて溶けていく。
 オマエは勝ち負けを分かっていない。なんでもできるかできないかで勝ち負けが決まるンだったら、俺の勝ちだ。なぜならオマエには……俺の為に誰かを消すなンてこと、できねェだろう。

「ぷはぁっ!な、なんなのいきなり…!?」

 だが、俺は……オマエの為なら――

「あンま俺を、見くびンなよ」





勝敗は――


 

Noise


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