| 当然のように番外個体がいる 発展しきった学園都市にも緑はある。むしろこういう科学都市こそグリーンプロジェクト的なものが進んでいて、生い茂った緑があちらこちらと区画整理され限られた大地で立派に生えていた。夏になれば蝉の一つやふたつと風物詩の如く鳴き叫ぶのも、計算とされているのだろうか。――というわけで夏、ドキドキわくわくな夏のとある日。 「今年もやるんだ、近所の夏祭り」 「そうなんだよそうなんだよー!ってミサカはミサカは帰り道でもらった夏祭りのチラシを誇らしげに掲げて期待の眼差しを向けてみたり!」 「去年は色々あって行けなかったもんね、じゃあみんなで行こっか!」 「わほーい!ってミサカはミサカは嬉しさのあまり喜びの舞を踊ってしまうー!」 芳川と買い物に出かけていた打ち止めが帰ってきて、何やらいつも以上にぴょんぴょん飛び跳ねて1枚のチラシを見せてくる。その紙に大きく“とある神社夏祭り”と書かれていて、私は「ああそんな季節か」と今の時期を再認識した。 「もちろんあなたも行くよね?ってミサカはミサカは相変わらずソファで横になるあなたに問いかけてみる!」 「あァ?行くわけねェだろめんどくせェ」 「えーー!行こうよー!ってミサカはミサカはあなたの上に乗って駄々をこねてみたりー!」 「どけクソガキ重いンだよ」 相変わらずというかなんというか、彼が出かける誘いに関して即頷いてくれたことなんてほとんど無い。予想ができすぎていたその返答に私はやれやれと小くため息を漏らす。 「ねぇ一方通行も一緒に行こう?」 「行かねェ」 私は彼の近くまで行き、寝転がる彼に視線を合わせるようしゃがみ込んで彼の顔を見つめる。声色は穏やかに、柔らかさを含んで。 「ね、いこ?」 「……………」 「……………」 「………チッ、仕方ねェな」 私の笑顔と沈黙のあと、彼はそう言って承諾してくれた。私と打ち止めはお互い顔を見合わせて「やったー!」と喜び、ハイタッチをする。 今のは、別に特殊な能力を使ったとかそういうのではない。完全に使ってないといえば嘘になるのかもしれないけれど、これは能力によって得た副産物というのが正しい。 人間は音と感情をリンクさせている。不安に感じる音、興奮させる音、癒す音、それは様々だ。そして人の喋りや声色も、同じような効果を得ることができる。言い方によって同じ台詞でも違った印象に聞こえるように、声色というのは交渉する上で大切なものなのだ。 ということは先ほど私が彼へと向けた声がその“お願いをきいてもらえる声色”なのかというと、厳密には違う。私はただ、彼に優しくお願いをしただけ。本当にそれだけ。だからさっき彼が承諾してくれたのは……単純に彼が“優しい人”だから。私はそれを“知っていた”から、ああしてお願いしたのだ。 「まったくもー素直じゃないんだから!ってミサカはミサカは天邪鬼なあなたにお姉さんっぽく頬をつついてみたり!」 「一方通行は私たちを悲しませることなんてしないもんねー?って私も同じようにツンツンしてみたり〜」 「あァーーウゼェ…」 多分前までの彼だったら頑なに来てくれなかっただろう。なんだかんだ今までもずっと彼の奥底に優しさはあるけれど、“意地”というのはそう簡単に消えない。けれど今の一方通行は、変に意地をはることは無くなった。きっとロクな事がないって、思い知ったからだろう。 「え、かっこいい…!」 「ハァ……」 夏祭り当日。 あのあと芳川に夏祭りのことを話すと、「せっかくだから浴衣で行ったら?」と提案されたので今日の日の為に浴衣を購入した。行くのは私と打ち止めと一方通行と芳川と、あと番外個体も。黄泉川は 芳川に着付けを教えてもらったので自分で浴衣を着付け、それが終えたので自分の部屋から黄泉川家の部屋へと訪れる。するとそこには無理矢理芳川に着付けられた一方通行が浴衣姿で立っていた。その想像以上の破壊力に、私は思わず心の声が口からだらしなく漏れてしまった。 「浴衣すごく似合ってる!」 「あーそォかよ」 「うん!たまにはこういうのもいいね」 「動きづれェ」 彼の見た目はどこか日本離れしているので一見似合わないかもと思わせるけれど、白い肌と白い髪が逆に浴衣とマッチしていてとても似合っている。言うなれば――そう!日本の幽霊みたいな!……って、全然褒め言葉になってなさすぎて思わず言いかけた口を手で防いだ。 「あれあれぇ?第一位からはなんも言うことないわけぇ〜?」 「わ、番外個体っ?」 背後からニョキッと現れた彼女はベッタリと私の背中に張り付くようにして一方通行を見つめた。同じく芳川に着付けしてもらった花火柄の浴衣が私に絡みつく。 「名前が褒めてんだから、あんたからもなんか言ってあげたらぁ?」 「あァ?なンでテメェに指図されなきゃなンねェンだよ、余計なお世話だ」 「はっ、ったく相変わらずオンナゴコロが分かってないね〜、そんなんだとマジで捨てられちゃうよぉ?」 「ア"ァ"?」 「ちょっと二人とも、出かける前から喧嘩しないの!」 番外個体は相変わらず一方通行によく噛み付く。二人を会わせるといつもこうなので止めに入るこっちの身にもなってほしい。 ――ただ、番外個体の言葉に少しだけ私も期待してしまったのは確かだった。この夏祭りの為に用意した新しい浴衣を……少しでも褒めてくれたらいいなとか、私もそれなりに乙女なので思わないこともない。でもやっぱり、それは欲張りだった。 「よし!じゃあ行こう!」 彼がどれほど優しさを表に見せるようになったからと言って、期待しすぎるのはよくない。人間というのは欲しかったものが手に入ると、さらに欲しいものが生まれてしまうのだから…ほんと欲深い生き物だ。 準備を整えた私たちはいざ夏祭りが開かれているとある神社へと向かう。街からは多方面からカラコロと下駄の独特な音が鳴り響き、より一層夏を感じさせた。一方通行はずっと「歩きづれェ」と文句垂れてたけど。 「名前ちゃんは何食べたい?ってミサカはミサカはさりげな〜く名前ちゃんの視界にかき氷の屋台が入るよう立ちつつ訪ねてみたり」 「はいはいかき氷ね、何味がいいの?」 「レインボー!ってミサカはミサカは何味かもわからない未知の色に挑戦してみる!」 「じゃあ私はイチゴにしよっかな」 「ミサカは名前の一口ちょうだ〜い」 「いいよ、一緒に食べよ」 夕暮れもそろそろ終わりがけな時間となり、夏祭りの為に掲げられた提灯や行灯が強く灯りを放ち始めた。神社までの道のりはすっかり屋台で賑わっており、思った以上に学園都市に住む生徒たちで溢れていた。これはしっかり打ち止めを見ていないと逸れてしまいそうだ。 「一方通行もひと口食べる?」 「いらねェ」 「そう言わず、はいあーん」 「………ハァ」 かき氷を買って近くのスペースで落ち着いてシャクシャクと音を鳴らす。一方通行の分は本人がいらないと言ったので買ってないのだけど、せっかくなのでひと口どうかと彼の口元に赤く染まった氷を持っていく。少し彼の瞳の色に似ていた。 最初は否定するも、なんだかんだ強引にもっていけば彼は諦めたように口を開けてそれをパクリと食べてくれる。そんなところが可愛いなとか思ってニコニコ見つめて「おいしい?」と聞くと、返事は「ブドウ糖の味がする」というなんとも彼らしい台詞だった。 「そういやこのあとパレード的なのがあって道路が一時横断禁止になっちゃうから、はぐれないように気をつけてね」 この夏祭りの目玉となる催しにちょっとしたパレードがあるとのことだった。有料観客席なんかもあって、割と規模は大きいらしい。なのでパレードの始まる時間はその通りが一時的に封鎖されてしまい、そんな時に逸れてしまったら合流するのはさらに困難となるだろう。 「………って、言った私がはぐれてどーすんの!!」 絶賛私は今、人混みにまみれて一人ぼっちだった。あれだけ打ち止めにはぐれないよう注意していたというのに、まさか自分が迷子になってしまうだなんて……恥ずかしすぎる。能力を使って探すにもこの人の多さだとノイズが多すぎて探せないだろう。病院くらい静かだと広範囲に音を拾ってある程度の方角は導き出せたりするのだけど、流石に無理そうだ。ちなみに携帯電話は巾着に入れていて、射的ゲームの時に邪魔だったから一時的に一方通行に持ってもらったのだ。なんとも運の悪い…。 パレードもそろそろなので一部の道はすでに封鎖されており、かなり厳し状況となってきた。能力を使って自分の場所を伝えることもできないことはないが、あまり目立ちたくないのでできれば使いたくない。でもまあ、結構食べ物の屋台やゲームの屋台などそれなりに楽しみはしたのでさいあく帰宅してしまおう。 「ねえ君、ひとり?」 「はい?」 「可愛いね、俺らと遊ばない?」 「お誘いありがとうございます。でもツレがいるので…」 「あ、もしかしてはぐれちゃった?じゃあ一緒に探すの手伝うよ」 これだけ人がいれば、そりゃこういう人たちもいる。見た感じスキルアウト集団のようなそこまで乱暴そうな人ではなく、本当にナンパ目的なチャラそうな男数人だった。それなりに丁寧に断ってスルーしようと足早に歩き始めるも、男たちはピッタリと私を囲んで同じ速度でついてくる。 いつもならこんな男たち能力で軽く追い払えるのだけど、今日は流石に人が多くて関係ない人たちとの距離も近く巻き込みそうで無理だった。 「あーいたいた名前さん!突然いなくなるから心配したよ〜!」 「え?」 その後も断っているというのにしつこくついてくる男連中にうんざりしていた頃、突然聞き覚えのある明るい声が私の名を呼んでこちらへと駆け寄って来た。 「上条くん!?」 「あはは、お兄さんたちすいませんねぇ、彼女は俺のツレなので〜……では!」 現れたのは上条当麻だった。あの事件後、私は再び彼と仲良くなることに成功して以前と変わらぬ仲を保っている。まさかここで上条くんと出会うとは思ってもなかったので私は驚いた。 彼は私の手をとって逃げるように歩き出し、気づけば男たちはもう見えなくなっていた。 「ありがとう上条くん、しつこくて困ってたの。それよりこんな所で会うなんて奇遇だね!上条くんも夏祭り遊びに来たの?」 「ええまあ、うちの大食いモンスターがどうしても連れてけってうるさくて…んで目を離した隙に……それより名前さんこそ、1人で来たんですか?」 「ううん、はぐれちゃって……でも流石に見つからなそうだから、いい頃合いで帰ろうかと思ってるの」 「そっかー、お互いはぐれもの同士苦労しますねぇ」 「あはは、そうだねぇー」 多分、苦労かけているのは私の方なんだけど…とは恥ずかしいので言わなかった。上条くんは困ったように頭を軽くかいて辺りを見回すけど、やっぱりこの人混みでは見つけるのは困難そうだ。 「あーーー!!とーま!見つけたぁー!!もー勝手にどこか行くなんて酷いんだよ!!」 「わっ!インデックス!いやそれはこっちの台詞っ…て、なんなんだよその食い物はッ!?さてはお前、俺の財布でっ!」 「いなくなるとーまが悪いんだよ!」 「嘘だろ…!?俺の全財産ッ!!ふ、不幸だぁ…!」 騒がしい祭りの喧騒の中で更に騒がしく、突如現れたシスター服の女の子は両手に沢山の屋台の食べ物を持ちながら食べながら、上条君に噛みつく勢いで駆け寄ってきた。 「あれ、名前がいるんだよ!?」 「久しぶりインデックスちゃん」 「はっ!もしかしてとーま、名前と遊ぶ為に私をおいて…!?」 「なんでそーなるんだよ!違う!名前さんとは今さっきたまたま会って少し話してただけだ!」 「ほんとかなぁ〜〜?」 「本当だって!!」 浮気を疑われる上条君が可哀想で私からも「本当だよ、だから怒らないであげてね」とフォローする。 以前と違うといえば、上条くんの近くにはとある少女が一緒にいるようになった。インデックスという小さくてよく食べるシスターの女の子。何度か彼と学園都市で顔を合わせるたびに一緒にいるので、私もいつの間にかお友達になってしまった。 「名前の今日の恰好、とても似合ってるんだよ!」 「ありがとう、インデックスちゃんは浴衣じゃないんだね?」 「そうなの!とーまがうちにそんなお金ありませんって…酷いよね!?」 「あはは、じゃあ今着てる浴衣、よかったらあげるよ」 「えぇ!本当に!?いいの!?ねえとーま聞いた?名前が浴衣くれるって!」 「えっ!いいんですか?でもそれまだ着れるんじゃ…」 「いいよいいよ、まあ…どうせ着ても褒めてもらえないし…」 「え?」 「ああううん!なんでもない!」 多分今年の夏はもう着ることがないだろうし、来年になれば私の性格上新しい浴衣を欲しがるだろうからあげるのは全然よかった。約束だからね!とインデックスちゃんと指切りげんまんする。私がぽろりと溢してしまった言葉は聞こえなかったようで安心した。 「じゃあインデックスちゃんも見つかったことだし、私は帰るね」 「え、あ、でもまたさっきみたいなヤツらが絡んできたら…」 「大丈夫大丈夫!あまりにしつこかったら人気のないとこ行って能力でバン!しちゃうから」 「そうですか?じゃあなんか悪いけど…」 「そんな気にしないで!私たちだって偶然会ったんだか……あ、」 「え?」 自分だけ合流できて私がまだ1人なのを気遣ってくれる上条くんはやっぱり優しい。でも本当に気にしないでとその場を去ろうとしたら……ふと、見知った後ろ姿が見えた。 「どうやら私も、見つけられたみたい」 「えっ?」 「だから上条くん、ありがとう!またね、インデックスちゃんも!」 「お、おうっ!気をつけて!」 「名前!約束忘れちゃダメなんだよー!」 全く動く気配なくその後ろ姿はずっと植木のところにいて――まるで、“待っている”かのようだった。だから私は上条くんたちに早々にさようならをして、祭りで賑わう人たちをかき分けて“彼”へと駆け寄る。人違うかも…なんて心配はやっぱり必要なかった。 「見つけたなら声かけてよ」 「あァ?知らねェな、俺はただ手頃な場所があったンで休憩してただけだ」 「ふーん?そう……まあ、そういうことにしてあげる」 「つーか、オマエが迷子なってどォすンだよ」 「あたっ」 ストンと頭にチョップを喰らった。彼の言い分は白々しいにも程があるけど、まあ出てこなかったのはなんとなく想像がつく。なのでこれ以上彼を責めることはなかった。むしろ迷子になって迷惑かけたのは私なのでそこまで強くも言えない。 「あれ、打ち止めたちは?」 「アイツ等はパレード見るとかで場所取りしてたな、俺はンなモン興味ねェからブラついてただけだ」 「……そっか」 「オマエは、どォしたい?」 今のでなんとなくだがこの状況を把握することができた私は、かなりの時間彼という人と一緒に居たのだとこんな時に実感した。どうしたいかと尋ねられ、私は込み上げる嬉しさで口角を上げながら「うーん」と考える。 「パレードっていうか、このお祭りを一方通行と“眺めたい”……かも」 「はァ?」 このまま打ち止め達と合流してパレードを見てもいいし、疲れたからと言って先に帰ってもよかった。でももう少し、せっかくだから一方通行と一緒にこの空間を楽しみたい。 私はパレードの大通りを挟むようにして立ち並ぶビルの中をゆっくりと二人で肩を並べて歩き、その際にビル1つ1つに一瞬だけ手を触れていった。彼には何してんだと不思議がられたが、まあまあと言って私はとあるビルの前で立ち止まる。そして薄暗い路地へと入り込んだ。 「こーゆー時、 「ンな能力なくても移動なンざベクトル弄れば余裕だろ」 「じゃあ一方通行さん、ビルの屋上まで連れてって貰ってもいいです?」 「ア?」 私はにっこりと微笑み彼へ向き合って言った。 「ここのビルの屋上誰も使ってないみたいでね、今なら特等席だよ」 「………あァ、そォゆうコトかよ」 一方通行はようやく私の思惑とすることを理解したみたいで、小さく「ハッ」と笑った。そして首にあるデバイスのスイッチをオンにする。 「あ、私どうしたらいい?背中にしがみつけばいい?あ、でも浴衣だから……ひゃっ!?」 「コレでイイだろ」 「えっ!?で、でもこの格好…」 「あァ?担がれてェならそォしてやるが?」 「いや!こっ、これがいいです!」 「なら大人しくしてろ」 彼の能力でビルの上まで行くには、私も彼にしがみつかなくてはいけない。正直自分の能力で飛ぶこともできるけど、せっかくなので彼に連れて行ってもらおう。……そう思ってどういう体制で行こうかと悩んでいたら、いつの間にか体は宙を浮いていた。背中には彼の右手、膝には彼の左手――これは所謂、“お姫様抱っこ”というヤツでは…?と、少女漫画ど定番の胸キュン体制になる私のこの気持ちに浸る間も無く、体は更に宙を浮いた。 トン、トン、トンーーと、空気を蹴るようにして路地の中を飛んで飛んで……広がるのは空よりも明るい学園都市。 「って、飛びすぎィ!!!」 「あァ、飛びすぎたわ」 「だからってそのまま落ちないでぎゃあああ!」 「うるせェな、こンくれェで…」 目的のビルの屋上は遥か下に位置し、私たちはそのまま学園都市の夜空に天高く舞い昇っていった。――かと思えば急降下。 「うっ……内蔵がヒュンッてした…」 「あァ?別に落ちるのなンざ慣れてンだろ」 「じ、自分で落ちる分にはいいの!コントロールできるから!」 もちろんあの高さからそのまま落ちて生きていられるのは、彼の能力があってのものだ。私は自分を抱える彼に思い切りしがみつきながらハァハァと息を整えた。 そして少し落ち着いて、ふと彼の首元にある赤くなったランプが視界に入った。………あ、 「ねえ、今デバイスのスイッチオフにしたら私のこと落とす?」 「あァ?ナメてンじゃねェぞ?」 「え、じゃあ私って羽のように軽い?」 「…クソ重くて支えてらんねェから落とすぞデブ」 「ごめんってば!!」 いやふと一方通行が私を抱えられるのって能力のおかげなのかなとか考えてしまった。そもそも歩くのに杖が必要ではあるのでスイッチをオフにしたら立っているのも厳しいのはわかっている。それを抜きにしても彼はなんというか……かなり、華奢なので。最近は能力の制御もあってホルモンバランスが男性寄りになってきたし、黄泉川の特訓のお陰で筋力もついてきたけど、やっぱり繊細な体型をしている。そんな彼に抱えられているということに、私はいろんな意味でドキドキしてしまったのだ。 「あ、パレード始まったね」 流石にずっとあの格好のままってわけにもいかないので早々に降ろしてもらい、私たちはビルの淵に腰掛けてパレードの大通りを見下ろした。一方通行は興味なさそうにしてはいるけど、一応同じようにパレードを見ている。私はそんな彼を何度か横目で見つつも、次々とやってくるキラキラと輝くパレードのフロート車や優雅に踊るキャストさんを目で追った。 「その浴衣、かっこいいから次また夏祭りとかあったら着てね」 「……気が向いたらなァ」 パレードはそれなりに見ていて楽しいけれど、今の私にはやっぱり彼の姿をこの目に焼き付けたかった。惚れた弱みというのだろうか――今日すれ違った男性誰よりも、彼が一番かっこいいと思えてしまう。 「………オマエも、似合ってンじゃねェの」 「……へっ?似合うって、え……この浴衣のこと言ってる?」 「それ以外なにがあンだよ…」 「え、うそ、一方通行がいま私のこと……宇宙一超絶可愛いって褒めた!?」 「オマエ耳はいいンじゃなかったンですかァ?どンだけ都合よく聞こえてンだよ脳味噌花畑女ァ」 聞き間違えかと耳を疑ったが、疑いたくないほどその言葉は私の胸を高鳴らせた。彼の顔へと視線を向ければあまり見るなと言わんばかりに背けていて、昼間よりは暗いけれど祭りの明るさでほんのり耳が赤くなっているのがわかる。 彼の言葉はまるで爆弾のようだった。たった一言、そう――たった一言だけで、私の心をざわめかせるのだから。今日ずっと悩んでいたモヤモヤは、その爆弾の爆風によって吹き飛んでいくかのようだった。 「なんであの時褒めてくれなかったの?」 「あァ?あン時は……アイツに唆されて言ったみてェになンだろォが」 「ふふ…ほんと、素直じゃないんだから」 天邪鬼というかなんというか、本当に分かりにくいようで分かりやすい。いい加減彼の性格というものを分かってきてはいるけれど、どうも私は不安症でいらぬ心配をしてしまう。なんだかんだ彼は、――ちゃんと私を見てくれているというのに。 「やっぱ、帰ンぞ…」 「え、なんで?まだパレード終わってないよ?」 「ンなモンはハナっから興味ねェンだよ、それよりも…」 突然立ち上がって帰ると言い出す一方通行を私は不思議に見上げる。確かにそれなりに遊んだ気はするし、パレードも途中からほとんど見ずに私は彼ばかりを見ていた。でもなんでいきなり… 「素直ついでに言ってやるよ」 「え?」 「俺は今すぐ、オマエのその布を剥ぎ取りてェと思ってる」 「はぎ………、っ!?!?」 一瞬にして自分の顔が湯でダコこのように真っ赤に染まっていくのが分かった。街の灯りに紛れてギラリ――と、彼の瞳の赤が光る。 「オラ、さっさと帰ンぞ」 手を引かれ、私はただただ赤い顔でコクリと頷かせるしかできなかった。 ああほんと、ズルい。 |