「11時に駅前集合ね!」

意気揚々と約束をした私は、今日この日を楽しみにるんるんと鏡前で自分の姿を何度も見つめた。ベッドに散らばった数々の服を何度も合わせては変え、合わせては変え、試着しては以下省略。元々お洒落をするのは好きなので出かける用事がある時はまあまあの時間を要するのだが、今日はいつも以上に時間がかかっている。
今回の目的はショッピング。第七学区と二二学区の地下街をハシゴするコースだ。女子高校生であればこんなの毎週末でもザラではないありきたりなモノだが、今日はそうではない。いつも断られに断られまくっているあの一方通行と、一緒に行くのだから。この前の風邪をひいた時の埋め合わせなのだが、あれからかなり時間が経ってしまった。一週間の大半を一緒にいるようなヤツとのただの買い物に、なぜこんなにもはしゃいでいるのか…。今までだってまったく二人で買い物をしないわけではなかったけれど、改まってこの日に…なんてことはほとんど無かった。いつもダラダラと、適当な格好で、適当な気分で…そんなのばかり。
だから今日の私は、気合十分なのです。

「ちょっと早く来すぎちゃった…かな」

時刻は10時45分。待ち合わせの時間まではまだ少し早い。お洒落やらなんやらしていたら結構な時間が経ってしまったと思って急いできたのだけど、よく考えたら一方通行が待ち合わせの時間よりも早く来るわけがなかった。というか、下手したら時間丁度にも来る気がしない。
約束を取りつける時に「何でわざわざ待ち合わせンだよ」と言われたが、一緒に起きて一緒に出掛けてではいつもと同じになってしまうじゃないか。そんな私の訴えはまったく理解してもらえず、ただただ面倒くさそうな顔をしてとりあえず頷いてくれた。はてさて、来るまでにどれだけの時間がかかるのだろうか…。

「      」
「     」
「        」

駅前の待ち合わせによく使われる、草木の生えた花壇の淵に腰かけ、ボーっと空を眺めた。今日の気温は24度、一日中晴れで気持ちのいいお出かけ日和でしょう。なんて飛行船の電子掲示板を目で追っていたのだけど、遮るように数人の影が私の周りを囲んだ。けれど余計な音をシャットアウトしている私には彼らが何を言っているのか分からない。まあ、口の動き的に「可愛いね」「誰かと待ち合わせ?」「俺らと遊ばない?」などといった感じだろう。見た目からしてあまりガラは悪くないので、ただのナンパだ。確かに今日の私は一段と可愛くて、声をかけてしまいたくなるその気持ちは分かる。でも、今日は特に邪魔されたくないので、私の気分を害さないで頂きたい。肩掛けポーチから携帯電話を取り出し、ポチっとボタンを押した。

「!??!!」
「 、  !?!」
「    !!??」

キーーーーーン
何を言っているかは分からないが、彼らは一瞬にして私の周りから離れた。まあちょっとした、超音波を流したのだ。よく若い頃には聴こえるというモスキート音のようなものに近くて、そういった不快に感じる音を流している。携帯で流しているのは謂わばその”素材”で、そこから私の能力で有害なものに変換させている。私の半径1メートルほどしか聴こえないモノなので、相手を近付かせない為には丁度良かった。
私を取り囲んでいた男たちはその音が嫌になったのか、はたまたまったくもって無反応の私に気味悪く思ったのか、そそくさと離れていく。視界がひらけて再び空の青が目に映り、私はいつの間にか日光浴を楽しんでいた。日焼け止め塗ってきてよかった。

「不愉快な音まき散らしてンじゃねーぞオイ」
「!」

…とその時、無音化していた私の音はいつの間にか解き払われ、さらに携帯の音も彼の回りで跳ね返されているのが見えた。ポケットに手を突っ込みダルそうに私の前に立ち、見下ろしている白い影。服装は何度も見たいつものTシャツ。時刻は、11時丁度だった。

「すごい、待ち合わせ時間ジャスト!」
「テメェで言ったんだろォが」
「まさかちゃんと時間通りに来てくれるなんて思ってもみなかったから!もしかして一方通行も楽しみにしてた?」
「帰ンぞ」
「あーごめんごめん!ごめんなさい!だから帰らないで!!」

引き返そうとする一方通行の手を引いてごめんなさいと連呼するその光景は、出会って早々修羅場なカップルだ。舌打ちが聴こえてなんとか帰るのを止めさせることに成功した私は、さっそく行こうと彼の手を取った。

「引っ張んな」
「えーいいじゃん、まずはモールね!」
「ハァ……」

今日は何度溜息を吐かれようと連れまわしてやるんだから覚悟してもらおう。まず最初に行くのは、駅前にある大きなショッピングモールだ。家族、若者は大体がここで全て完結すると言われる庶民の場所。私もよく学校の友達と放課後に遊びに行ったりするので、大体のフロアマップは頭に入っている。

「色々目星つけてた店があってね、今日はとことん回って買いまくるよ!」
「……好きにしろ」

完全に諦めモードだ。でも私的には好都合なので、さっそく一軒目の店に行こうと一方通行の手を引いて歩いた。けれど先ほどから私たちの方へと視線がズシズシと刺さってくるわ、様々な声が聞こえてくるわで、ちょっと落ち着かない。まあ、一方通行と昼間から出かけるってことで、こういうのは予想していた。

「見てあの子真っ白よ」
「目も真っ赤だわ…それに綺麗…」
「隣の子も小さくてかわいい」
「お人形さんみたいなカップルね」

次々と聴こえてくるその言葉に、私たちがどれだけ注目を浴びているのか容易に理解できた。そう、一方通行は学園都市第1位という肩書を抜きにしても、かなり目立つ容姿をしているのだ。白い髪、白い肌、真っ赤な瞳、おまけに整った顔とハリのある肌……、本人は能力のせいでこうなっていると自己解釈しているのだが、だとしても顔の造形は本人の持って生まれたものだ。まあ能力もだけど。ただでさえ目立つ見た目なのに、顔も…だなんて、彼は本当に………はあ。

「さっきから顔が情緒不安定だぞ」
「え、あー…ごめん、一方通行ってやっぱ凄いなぁって思って…あはは」
「ハァ?オマエとオレの格が違うことなンざ分かり切ったコトだろォが」
「そぉーでした。すいませーん」

相変わらずの第1位という貫録を出していらっしゃる。まあよく考えれば、私みたいなへっぽこ能力者が一方通行と一緒に居るって言うこと自体が、ありえないほどの奇跡なのだ。奇跡は奇跡でも、感動でもなんでもない方のヤツだ。
さっきのヒソヒソ話は勿論一方通行の耳には届いておらず、私の地獄耳あってこそ。まあ彼がこの会話を聞こえたところで、きっとどうとも思わないんだろう。それに彼は、周りからの目や声なんて幼い頃から痛いほど浴びているだろうから…。

「……つか、いい加減手ェ放せ」
「あ、痛かった?一方通行って能力なければ非力だもんね、ごめんね、ちゃんと繋いで歩こ……って、あれ、なんでそんな怖い顔してるの?」
「テメェ……今すぐ店の端まで投げ飛ばしてやろォか…」
「ちょ、ごめんって!!」

能力がなければ一方通行の体は細くて折れてしまいそうで、私でも本気出せば勝てるんじゃないかなと思わせるほど。いや、本気を出さなくてもきっと勝てる。…と、本人に言ったら吹っ飛ばされるどころの話ではない。
どうやら一方通行は手そのものを離してほしかったらしく、さっきから掴んで離さない私の手をギロリと睨んでいる。

「あのあのあの!て、手は!手はっ……繋ぎたい…んだけど……だめ?」

一方通行の睨みは、より一層険しくなった。
これは私のささやかな願いで、一方通行とこうして手を繋いで歩いてみたかった。勿論のこと今まで手を繋いで歩くなんてことはまったくなく、私が無理やり手を引いて歩くことはあったけど、繋いだことはない。我ながらバカみたいな願望だとも思うが、私は欲に忠実でありたかった。だから大体の男はコレで落とせる!っていう能力を最大限に活かした甘い声を出して上目遣いでお願いしてみたのだが………さすがに、一方通行に効くはずがないか。

「ったく、変な小細工してんじゃねェ」
「うっ……」
「ホラ、さっさと手ェ出せ」
「え?」
「どーせ店入ったら離すンだろ、それまでだ」

やっぱり見破られていた私の甘え作戦は無残に失敗…とはならず、一方通行は手を前に出した。その光景に数秒呆けていると、「早くしねェと引っ込めるぞ」と言われ、私は咄嗟にその手をとった。手のひらを合わせ指を絡め、ひんやりとした感触が体に伝わってくる。

「ふふ……んふふふふ」
「なにイカれてやがる、気色悪りィ」





ただ買い物をするだけ


 

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