([ただ買い物をするだけ]の続き)



「全部でお会計12,000円でございま〜す」
「こちらお会計25,600円で〜す」
「以上3点でお会計57,000円ですぅー」

チャリーン、チャリーン、チャリーン…っと、それはもう買って買って買って買いまくった。ピンクや黒や青など様々な色の袋に入ったお洋服たちは、次々と一方通行の手に渡っていく。繋いでいた手はいつの間にか離れていて、繋ごうにも物理的に繋げなくなってしまった。

「オイ…人の金だからって豪遊してんじゃねーぞ」
「えーそんなことないって、いつもこの倍は使ってるよ?」

そう、しかもさっきからのお会計は全て、一方通行持ちなのだ。どういう風の吹き回しか、お会計をしようとした時にスっと金ぴかのカードをトレイに乗せられ、そのままチーンとお会計が済まされた。なんでも、「使い道ねェから使え」とのことで、私は惜しげもなくその金ぴかのカードを使いまくっていった。といっても、いつも自分で使うくらいの金額しか使っていない。まあ私のバイトも、かなり割が良いのだ。恐らく一方通行ほどではないだろうけど。

「で、まだ買うのかよ」
「ううん、ちょっと休憩!おやつにクレープ食べたいなぁ」
「昼食ったばっかだろ」

気づけば丁度15時と、おやつの時間だったので二二学区へ行く移動がてら広場にあるクレープ屋さんにでも行こうと考えた。一方通行は乗り気じゃないっぽいけど、とりあえずは付いてきてくれている。いつも第七学区の広場にあるワゴン車のクレープ屋さんは今日も居るだろうか…。まあ何かしらあそこにはいつも出店が開いているので、休日の今日なら色々と並んでいるかもしれない。いつものクレープ屋さんがあったら、いつものスペシャルいちごクレープでも食べよう。

「あ、あったあった!」
「オイ走んな、転ぶぞ」
「何もないとこで転びませんよーっぶぇ!!
「うわぁ!?」

その瞬間、何かにぶつかってそれはもう盛大に転んだ。その”なにか”と一緒に…。そんなお約束な行動をする私の真下には、胸のあたりに黒いツンツンが埋もれていた。あれ、これって…?

「うっぷ……ちょ、あのっ!」
「上条くん!?うわ、えっと、あの、ごめんね!?」
「え、名前さん…?ていうか、その、どいてもらっても…」
「ごごごごめん!痛かった!?」
「いや、痛くはなかったんですけど…(むしろ柔らかかったっていうか…)」

まさかのぶつかった人物は、上条くんだった。しかも私の胸に思い切り顔を圧迫されていて苦しそうな顔をしていて、咄嗟に私は彼の上からどく。またもや偶然の出会いに、私も上条くんも少し驚いていた。

「うひょ〜カミやんのラッキースケベも大概やなぁ」
「つーかカミやん、こんなかわい子ちゃんと知り合いだったなんて初耳ぜよ」
「ちょ、青髪…土御門…!」
「あ、上条くんのお友達?上条くんとは仲良くさせてもらってますーよろしくどうぞー」

上条くんの手を引っ張って立ち上がらせると、その背後にニュっと2人の男の子たちが顔を覗かせる。一人は青い髪の毛に糸目で両耳にピアス、もう一人は金髪にサングラスをかけてシャツ1枚だけを羽織っている、なんともチャラチャラとした見た目のお友達だった。上条くん、こんなお友達がいたんだなぁ…と私は2人を見上げて思った。

「名前さん、なんか今日普段と雰囲気違いますね」
「え、あー…いつもは制服か適当な普段着だもんね。あ、変かな?」
「え、いやいやすっげー可愛いですよ!」
「そりゃあもう男子放っておきませんわ〜!これでランドセル背負ってたら最高やで!」
「いやいや、メイド服とか似合うと思うにゃ〜」
「ちょ、お前ら入ってくんな!!名前さん引いてるだろ!」

上条くんのお友達は、なんだかとても賑やかな子たちだった。というか、そういえば今日の自分の格好はかなり気合を入れて来たのだということを、上条くんの言葉で思い出す。あまりに一方通行が普段通りだから、すっかり忘れていた…。そうだよ、今日はおしゃれして来てんだよ。

「つーか、なんか…彼氏さん?めっちゃこっち睨んでんで…」
「俺らはそろそろおいとました方がよさそうぜよ…」
「え、名前さんって彼氏いたんです…(ってうわスッゲー睨んでる人が居る!)あー…あはは、俺らそろそろ帰りますね!じゃあ!(不幸だ…)」
「あ、うん!さっきはごめんね〜!ばいばい!」

何だか気まずそうな顔をして上条くん達はそそくさと帰ってしまい、それを手を振って見送る。そういえばすっかり忘れていた一方通行の存在に、私はそっと後ろを振り返った。その瞬間、

「いだっ!!」

バチンッ
と、おでこに物凄く痛い衝撃が走った。デコピンされたのだと気づくけど、絶対能力使ってめちゃくちゃ痛くしてる…。しかも視線を上げると物凄く怒った表情で、なんだか良く分からないが身の危険を感じた。

「なにしてンだ?ア”?」
「ご、ごめんなさい…?」
「誰だアイツ等…」
「あ、えーっと、一人は縁あって仲良くしてるお友達でぇー…あとの2人はそのお友達?らしい」
「オトモダチ…」
「うん、ただの…おともだち」

なんなんだろうか、何を考えている顔なんだろうか。まったくもって私には理解ができません。顔は不機嫌なまま黙ってしまった一方通行に、私はおそるおそるも様子を伺う。そしたら小さく、チッ、と舌打ちする音が聞こえた。

「クレープ、なに食べる?なんでもいい?じゃあなんかテキトーに買ってくるね!?」
「オイ別に俺はいら…」

一方通行の台詞を最後まで聞く前に、私はクレープのワゴンまで突っ走っていった。ああいう時は変に突っかからない方がいい。触らぬ神に祟りなしってやつだ。
私はいつものいちごとプリンにキャラメルとホイップ増し増しなスペシャルクレープを頼み、一方通行にはコーヒーゼリーの入った甘さ控えめなクレープを頼んだ。甘いの好きじゃないって言ってたから食べてくれないかもだけど、食べない場合は私が食べるから良し。
注文した商品を受け取り、私は一方通行の座るテーブルへと行って同じくイスへと腰かけた。

「はい、これは私の奢り!」
「いらねェっつったろーが…ったく」

と言いつつ一応受け取る一方通行に、私は満足げににっこり笑った。目の前にキラキラと輝く美しいその食べ物に、さっきまでの恐怖なんて忘れて私は幸せいっぱいにそれを口へと運んだ。やっぱり食べ物は素晴らしい。こんなにも自分の心と欲求を満たしてくれる…特に甘い物は最強だ。

「デブるぞ」
「またそういう意地悪言う…上条くんは可愛いって言ってくれたのに」
「ア”?」

ポロっとそんな言葉が出てきてしまい、それはもう怖ろしい目つきに再び元通り。そんな目くじら立てなくてもいいじゃないか。けれどどうやら一方通行には地雷だったみたいで、殺意バリバリな目で私を捉えている。

「今日のわたし!どうよ!」
「ハ?」

ガッと立ち上がり、一方通行の前に立って全身を見せるようにクルクルと回る。突然のことに少し驚いた一方通行は、目を見開いて私を見てはいるけど反応は返ってこない。

「この姿みてなんとも思わない?」
「アー…………、化粧濃くねーか?」

カチン
久々に、キた。

「なんでアンタはいつも……」
「アァ?」
「一方通行の……バッ

その瞬間、私の耳に不穏な音が届いた。
即座に目を閉じ神経を研ぎ澄ます私に、一方通行も不思議に思ったのか眉をピクリと動かし黙って見つめる。

「100m先の銀行が強盗に襲われてる。アンチスキルに連絡しなきゃ」
「さすがの地獄耳だな」

私の耳に届いたその”音”…それは声を荒げる男たちの声と、数人の人間の悲鳴。もっと耳を研ぎ澄ますと聴こえてくる音から、私はその現場の情報を分析した。

「犯人は2、3…5人、人質にされてる人数は役13名ほど…犯人の内2人は能力者っぽい。んー…遠いからあんま分かりにくいな」

人の発する”声”からは様々な情報が読み取れる。声というのは骨格にも関わってきて、よく顔の似ている人が似た声を出す…なんてのがあったりする。私の能力はそういったものも読み取ることが出来るので、状況把握には特化している。実際にこういうのを、バイトでよくしているのだ。

「ちょっと行ってくるね!」
「は?なに言ってやがッ…オイ!」

一方通行に、じゃ!と手を挙げてそのまま駆けだした私は、走り際に携帯電話でアンチスキルに連絡をして通報をする。ある程度の情報を伝え、詳細はまた追って連絡すると言って電話を切った。今日の服装はあまり走るのに特化していなかったのでいつもより速度が遅めで、それでもなんとか例の銀行の前に到着する。けれど銀行は、普段通りの変わらぬ景色だった。ドアから見える奥の景色は普段と変わらず人がいて、普通に歩いている。なにか妙だった。
再び目を閉じて耳を澄ませ、中の状況を確認すると、やはり先ほどと変わらぬ音。客は一か所に固められ、それを三人の男が銃を向けて見張っている。もう一人は銀行員に金を入れるよう促していて、まだお金の準備は出来ていない。あとの一人はなにやら呼吸荒く、じっと止まったままだ。大通りに面した銀行の脇道には一台の車、乗っているのは1名、共犯者っぽい。

「あーなるほど、残像を映しているのか」

よく見ると、景色に若干の粗が見える。まあよく見ないと分からないが、パっと見騙すなら十分だろう。さっき息の荒く微動だにしない犯人の一人がこの能力を使っていると見た。見た感じあまり長くは続けられなさそうなので、あちらにもタイムリミットがある。アンチスキルが来るまで、おそらくあと三分ほど。

「(このまま一般人に何もなければいいけど…)」

正直、今すぐに助けることは出来る。でもそれができないのは…自分の身を護るためだった。別に怪我を怖れているわけではない。ただこればかりは、踏み込むことができないのだ。
でも、最悪の時は……出る。

「ったくよォ…お前はどこまで勝手すれば気が済むんデスカァ?ア”ァ?」
「あ……あくせら…れーた……来たんだ」

ガシッと頭を鷲掴みにされ、それはそれはもうどこぞのチンピラだと言わんばかりのガラの悪さでメンチ切られた。

「で、状況はどーなンだ」
「え?えっと、アンチスキルがあと3分くらいで、中の状況は今ちょうどお金を入れてるところ、そこの小道に共犯者が車を用意して待機してる……外観は残像を一時停止して普段通りに見せてるっぽい」
「ンなこたァ見たら分かる。……ハァ、さっさと終わらせて帰ンぞ」
「え……?」

ドォオオオン
「うわあ!?なんだお前!?」「動くな!動いたら…グハァッ!」「きゃああああ!」なんて、ジェットコースターもいいところ。凄まじい勢いと早さでドッカンバッコン、そして数人の男たちが吹き飛ぶように銀行から出てきてぐったりと倒れていて、その後ろでゆっくりと歩いて出てくる一方通行。そのまま私の方へとやってきて一言、「行くぞ」と。
同時にアンチスキルがやってきて、この状況に困惑するも銀行員から説明を聞いて把握する。放りだされた男たちは無事捕まり、連れていかれた。

私と一方通行は、その場を後にした。



「………ありがとう」

前を歩く一方通行の背中に、私は小さくそう言った。多分聞こえてはいるだろう。けれど返事はなく、ただただ帰り道を歩くばかり。予定では二二学区に行くとなっていたけど、私もなんだかどっと疲れたので、今日はここで終わりにしようとなった。歩くたびに一方通行の手にある紙袋たちがガサガサと音をたて、ゆらゆらと揺れている。すっかり夕暮れ時になった彼の色は、オレンジに染まっていた。

「私には助ける手助けしかいつもできなくて、直接助けられないから……ありがとう、一方通行」
「……勘違いすンな、オレはさっさと終わらせて帰りたかっただけだ。誰の為でもねェ…オレの為だ」
「うん……でも、ありがとう」

私は微笑んだ。
やっぱり一方通行という存在は凄くて、私には一生近付けない、遥か遠い世界の人。今日の光景を見て痛感した。彼に比べたら、私の力なんてものは本当に些細で、弱いものなのだ。
これが……学園第1位。

「まあ、アレだ」
「え?」
「化粧濃いっつったのは訂正する。どーせお前のことだ、その格好なるまで無駄に時間かけてンだろ」
「む、無駄って…!」
「まァ、そーゆートコは…………、可愛げあるンじゃねェの?」

何を言い出すのかと思えば……この男は、本当に…。

「”可愛げ”じゃなくて、”可愛い”でしょ?」





私が出来るのはここまで


 

Noise


ALICE+