ブンキ地点


つい最近、彼女ができた。
高校ではまったくモテなかったっつーのに、大学に入ってからは地味にモテることが増えた。だから大学1年の時にイケそうだった女と付き合ってみることにしたけど、結局あまり好きではない相手と付き合ってもめんどうなだけですぐ別れた。それからはロード一筋でやっていて、しばらくはそういうのいいやって思ってた。だけど丁度大学2年目で入ったバイト先で、ナマエチャンに会った。
最初は同時期に入ってきたってことで顔を覚えているくらいで、大して興味はなかった。それに俺は本屋スタッフでナマエチャンはカフェスタッフで、喋ることもほとんどない。でもよくシフトがかぶることがあり、チラチラと見えるカフェスペースで働くナマエチャンを見て、ああ、いいなァ…と思うようになった。
後日カフェスタッフが人手不足ということで俺がヘルプに行くことになり、そこで初めてナマエチャンと会話した。そこからよく話すようになり、もともと気になっていた分、話して距離が縮まれば好きになるのは簡単だった。最後に望み薄で告白してみたらOKをもらえて、俺はガラにもなくスッゲー喜んだ。

『ごめんね、ちょっと触りたくなっただけ』

ついこの間のバイト終わりで飲みに行った時、ナマエチャンがいきなり”お手”を要求してきて渋々その手に自分の手を乗せて答えてやった。そしたらそんな台詞を吐いてくるものだから、今すぐその手を引き寄せて抱きしめてキスしてェってなった。いや、アレは反則だろ、狙ってんのか…と思うが、ナマエチャンってヤツは結構な不思議チャンなところがある。本人は結構しっかりしてるつもりみてーだけど、俺から見ればかなりの天然ものだ。確かに一見普通に見える、が、突拍子もなく意味の分からないことを言い出したかと思えばクソ破壊力つえーことしてきたり、こっちとしては心臓がもたねェ。無自覚ってところがまた、怖ェ。



「荒北、最近疲れが目立つぞ」

俺の入った学部には研究課題もあって、それがまたすげー量なわけ。まじ、終わんねーだろって量。月末にチャリ部のレースも控えてるからそっちに専念するため、月の前半で一気に終わらすことにした。今一緒にやってる研究チームのヤツ等もさっさと終わらせて後半はガッツリ遊びてーとかで結構協力してくれて、なんとかロードに集中できそうだ。あと、もう数日。

「ッせ!元気バリバリだっつーのォ!!」
「オーバーワークだぞ荒北、自主練もいいがほどほどにしないと倒れるぞ」

アーうるせェ、金城うるせェ!
分かってるよンなこと、知ってんだよ。でもさっき、クソ胸糞わりーモン見ちまって、俺の怒りは爆発寸前…つか、爆発してんだよォ!!

「何かあったのか、荒北」
「ハァ!?なんもねェーし!!」

この荒ぶる感じ、昔の俺だ。こんな当たり方しか出来なくて、情けなくて、必死にもがいていた。でもそんなの、高2で卒業したんじゃねーの?なんで今更また、同じことやってんのォ?

「ウガアアアアアアア!!!!」

情けねェ、情けねェよマジで。
たった、たった一人の女に……なに俺はかき乱されてんだ。


研究課題が終盤に差し掛かり、久々に学食でメシでも食おうかと外に出た。そういやナマエチャンも今日授業あったんじゃなかったかなんて思い出して連絡とろうと思ったとき、チームの奴らもついてきたから携帯をポケットに閉まった。この前たまたまナマエチャンと居るところにアイツ等と出くわしたけど、その時の絡みようが最悪だった。特にヤローども、彼氏目の前に口説いてんじゃねーヨ!!つーことで、アイツ等に会わせんのは控えたい。
学食について生姜焼き定食を選んで席に座ると、隣にやたら煩い女が座ってきたから少しうんざりした。この女、彼女いるっつってンのにやたら距離近いわスキンシップ多いわ煩いわで、俺的には正直あまり好いてない。どうせならナマエチャン呼んできてヨ。
そしてさっさと食い終わって後半戦に向かおうと席を立ち、出口へ向かおうとした時だった。窓際の方で、俺の知ってるニオイが鼻に触れた。

「(ナマエチャン…?)」

顔を伏せていて見えなかったけど、間違えるハズがない、アレはナマエチャンだ。窓際の席で友達らしき女と座っていて、何故か……アイツは泣いていた。
ハ?なんで泣いてんの?目にゴミが入ったとか?いや、だったら何で目の前の女は心配そうにナマエチャンの頭撫でてんの?意味わかんねーんだけど。

「何なのォ」

俺の声なんて、届くハズもなかった。


▼△▼



モヤモヤしたまま授業を受け、課題をやり、気づけば練習の時間になっていた。こーゆー時は回すのに限る。回して回して、必死に回せば、嫌なことなんて忘れられっから。
そう思って外周に出かけたのだケド、俺は運が悪いのか良いのか、また…ナマエチャンを見つけた。

「ハァ!?なんだアイツ…」

丁度校舎から門へ行く道で、ナマエチャンともう一人…男が歩いていた。オイオイオイオイなんだよありゃァ、なんかの見間違いか?何楽しそうに歩いてんの、なんでそんな近ぇーんだよ、つか俺より…イケメンじゃナァイ?
知らねー男はナマエチャンを気遣うように歩幅を合わせてスッゲー優しそうな顔で歩いてる。ナマエチャンも笑っていて、少し立ち止まったかと思えば鞄の中を漁りだした。取り出したモノは遠くてよく見えねーけど、多分アレは…ナマエチャンがサークルで作ったヤツだ。いつもやたらお洒落に包んでる紙の色と同じだ。それを見た瞬間、さっき以上の苛立ちがふつふつと湧き上がってくる。

「何なのォ…マジ」

今すぐにでもあの男のもとに行ってナマエチャンを攫ってやりたかった。でもそれが出来なかったのは、俺に自信がないからだ。
泣いてたナマエチャンを見た後、気になって連絡を取ろうと携帯を開いた。けど、俺とナマエチャンの最後のやり取りは、俺の既読無視で終止符が打たれていた。そういえば最後にナマエチャンとやり取りしたのはいつだったか…その日付からは、知らない間に2週間も過ぎていた。ナマエチャンに最後に送られていた言葉は、
『行きたいところ決めたよ!荒北くんの時間あるときにでも、お返事ください。』
だった。
それ以降、ナマエチャンからの連絡はきていない。ナマエチャンのことだからきっと、俺の返事がくるまでずっと待ってたんだろう。普通なら返事まだ?トカなんとか言ってくるモンだが、ナマエチャンはそれをしない。ずっと、俺を待ってくれてたんだ…。

「クソッ…!」

なァナマエチャン、今も待っててくれてンだよなァ?






 

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