ユキが倒れた。

それを聞いたんは、1人の仕事が終わった後やった。


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俺が駆けつけた時には、もう既に皆集まっとった。

腕に点滴は刺してるけど、元気そうにメンバーと話してるユキがおった。
俺を不安にさせてた当の本人はヒナちゃん!って呑気に笑いかけてくる。


なんや、お前…元気そうやんけ...
何も無かったんだ、という安堵感が胸を占めていった。


「ヒナ」

ちょっと、そう言って病室から出ていくヨコを追う。
そのままどんどん病室から離れていくヨコを慌てて追いかける。

「おい、ヨコ!どこまで行くねん!」
「ええから」

前を歩くヨコの顔は見えへん。けど、纏う空気はいつもと違って、それ以上喋ることはできんかった。





ガコンッ

病室から離れたとこにあるベンチに座って、さっき買った缶コーヒーを飲む。
チラッと横目でヨコを見ると、これと同じように缶コーヒーを啜ってた。


なんやねん、呼び出しといて黙りかい。

煮え切らないヨコの態度にイライラしてきた時、ヨコが徐に口を開いた。


「気づいとったか?」
「あ?何がやねん。」
「ユキのこと。」


ユキのこと?
なんや、何が言いたいねん。
ヨコの言葉にまたイライラが募る。


「倒れた原因、ストレスと睡眠不足らしい。」
「…」
「寝不足とストレスで、飯もあんま食えんようになっとったらしい。」
「それ、あいつから聞いたんか。」
「いや、今日現場に行ってた、ともさんから聞いた。」
「あいつは、」
「何も。俺が一番に着いてん。そしたら、俺の顔見て、よこちゃん、ごめんなぁって。」
「...」
「...」


重たい沈黙が流れる。
口からは感情を表すような空気が漏れた。


「気づけたはずやねん。」

おう。


「前より痩せたとか、目の下に隈ができたとか。
気づけることはいっぱいあったやん。」


はぁ...とベンチの背もたれに背中をあずけ、顔を空に向ける。その顔は腕に覆われて一切見えないが、きっと自分と同じ表情をしているはずだろう。


「情けないなぁ…」
「ん」
「男7人もおって、何してんねん。」

ユキは女や。特殊な環境やけど、そこは変えられへん。この環境の中、必死にもがいてるあいつは、誰よりもキツイはずや。

でも、ユキを特別扱いをするつもりは無い。今までだってそうしてきた。
ダンスだって、歌だって、バラエティーだって。一切手を抜かなかったし、あいつも全力でやる奴やった。
何より、ユキ自身が嫌がるから。やから、まだいける、こいつなら大丈夫やってグイグイ、グイグイ引っ張って行った。
その分ユキを俺たちで支えよう。
デビューする時、ユキ以外のメンバーと誓った約束は、今では意味のないものになった。いや、してしまった。


アホや。俺もあいつも。
頼り方を知らん、正真正銘のアホや。



「帰んで。」
「あ?」
「会って言ったる。アホ娘!!!って。」

缶コーヒーを一気に飲み干し、立ち上がる。目をまん丸にして、ヨコが俺を見てる。
言うたらな、言わんとわからんやろ。
俺らも、あいつも。

何、ボーッと座ってんねん。
はよ、行くで。



ガキ甘やかすんは、オカンとオトンの仕事やろが。



「はは、せやな。」

缶コーヒーを一気に飲み干して、ヨコも立ち上がる。



さぁさ、説教や。可愛い可愛い娘にな。




あの頃と

「「アホ娘ーーー!!」」
目を丸くしてこっちを見るあいつにありったけの愛を送ったる。

これから、覚悟せぇよ!

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