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「ひろくん!!」
会議室の扉がバンッ!と音を立てて開けられる。普段の彼女からは想像できないほどの慌てぶりだった。これがいつも通りだったら、何慌ててんのと軽口を叩いて笑えるのに。今日は、そのいつも通りではなかった。
冷静な彼女をそうした原因が、自分にあると分かっているから、より罪悪感に駆られた。
「ユキく…」
「ひろくん!!」
肩をガッと掴まれて、顔を見合わせる。その顔がどんどん歪んでいく。
何か言いたくて。でも、どう言ったらいいかわからなくて。そういった不安や悲しさや悔しさがこの人の顔に浮かんでは消えていく。でも、この人の目に映る自分の顔もユキくんと同じように酷いものだった。
言わなあかんねん。なんで黙ってんの。迷惑かけてごめんって、心配かけてごめんって
泣かせて、ごめんって。
言わなあかんのに、僕の口から出そうになる言葉は…
貴方を泣かせるものしか、もちあわせがなかった。
あの頃と君
まだまだユキくんと、皆と歩んでいきたかった、なんて。
僕は、自分勝手な我儘を必死に必死に飲み込んだ。
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