貴女に捧げる隠し事

起きたらいつもの如く学校でした。
いつもの様に教室でひーくんに朝食代わりのいちごミルクを飲まされて、薬を飲んだ。ここまでは良かったのか、何か下半身がソワソワするのだ。変な感じ、いつも触れない所に何かが触れているような。生理はまだなはず……。とりあえずトイレに行こうと、ひーくんに一言添えて、女子トイレに入った。

そこで叫ばなかった私は、かなり優秀だと思う。

「ひぃいいいくんんん!!なに、こけほ、けほっ!!」
「沙智!?。どうした、何かあったのか!?」

慌てて教室まで走り、扉を開けた時点で私の体力は尽きてしまい咳が止まらない。涙目で見渡すとクラスメイトもどうしたどうしたと慌てており、その中でもひーくんが真っ先に駆け寄ってきて、私の背中を摩った。ありがとうとお礼もそこそこひーくんの手を取って、教室を出る。こんな所で話せないもの!。
私の気持ちとは裏腹に息切れと咳き込みのせいで、フラフラしてしまう。そんな私を見て、ひーくんが

「触るぞ」

と、一言添えて、軽々とお姫様抱っこをした。ちょっと待って、この体勢だと見えちゃう!とスカートを慌てて押さえる私に気づいてないのか、「それで何処に行きたいんだ?」と言うので、カスカスの声で人がいないところと言うとスタスタと歩き出した。
そして、

「ここでいいか?」

と、空き教室まで運んでくれた。私を机の上に座らせると、ひーくんは私の顔を覗き込むように立ち、

「それで何があったんだ?。虫でもいたか?」
「……………ひーくん」

ここに来るまでに息は整ったけど、何でこんなことになっているのか分からなくて驚きのあまり涙が零れた。ギョッとしたひーくんが、慌てて制服からハンカチを取り出した。優しく涙を拭いてくれて、更に零れてくる。

「うっ、うう〜」
「どうしたんだよ、沙智…」
「ひ、ひぃくん、今、いまからいぅこと……ひかないでね、ひっく」
「引かねェよ」
「………ぱ」
「ぱ?」
「ぱん、つ……おとこものはいてたのぉ〜ふぇええん」

目の前のひーくんに抱きつき、胸もとで大号泣。そうなのだ。何故か下着が男物のパンツに変わっていたのだ。昨日は確か新品のブラジャーとセットの物を履いた筈なのに、なんで。それにこのパンツ、にぃたちのものじゃないし、誰のかも分からない。びっくりと困惑のせいでぴえぴえと涙が止まらない。

私が頓珍漢な事を言って、ひーくんも驚いているんじゃないかと思っていたが、何故か彼は普段と変わらない態度で私の背中をポンポン叩き、顔を上げろと言う。言われた通りに顔を上げると、

「ぴぇ!?」
「お、泣き止んだ」

ペロリと頬に伝う涙を舐められた。へ、なんで!?と驚きのあまり固まっていると、何を思ったのかひーくんは更にぺろぺろとしてくる。うぅ、カヴァスもよく舐めてくるけど、それより優しい舌使いで変な感じがする!。

「もっ、や!だめ!」
「あ?」
「擽ったいからだめ!」
「もっと舐めてェ」
「ダメなの!」

グイッと彼の胸を押して、距離をとる。何故かひーくんは眉間に皺を寄せて不機嫌です!と表情を露にしてくるけど、私の方が不機嫌なんだからね!。パンツは違うし、ぺろぺろされるし!もーー!。

「んで?パンツがどーしたんだよ」
「あ……トイレ行ったら、男物履いてたの、私。昨日新品の奴履いて寝たはずなのに!」
「俺がお前に牛乳零して、履かせたからな」
「そうなの、ひーくんが履か………なんて!?」
「?。俺が俺のパンツをお前に履かせた」
「!?!?!?」

人って驚き過ぎると悲鳴とか声すら出ないんだと始めて知った。どういうこと!?と詰めよれば、私の髪を結ぶ際に机に置いといた牛乳を倒し、私のパジャマに掛かったらしい。かなり派手に零した様でパジャマのズボンは勿論のこと私のパンツは水没。昨日履いてたパンツは洗濯中で、替えもない。なら、俺の履かせるかとこの人は思ったらしい。
いや、本当どういうこと!?。

「私のパンツは!?」
「洗濯機に入れたから、今頃干されてんな」
「はか、履かせたってみみみみ見たの……」
「中身は見てねェよ。目ぇ閉じて履かせた」
「ひゅ…………」
「つーか、中1まで一緒に風呂入ってたし、制服に着替えさせてんの俺か竜胆さんなんだから恥ずかしがることなくねェか?」

言葉も出ない。
偶に突飛なことをやるって分かっていたけど、流石にパンツまで履き替えさせられるとは思ってなかった。りんちゃんだって、そこまで許したことないのに!。

「そういや、昨日の下着は新品だよな?。白いリボンがプレゼントみてェで可愛いかった」
「………」
「ああいうのって沙智が選んでんのか?。俺も一緒に選びたい。今度一緒に選ぼうぜ」
「…………」
「あと、俺のパンツを履いてる沙智も可愛かった。ほら、見てみろ」

そう言って、彼はケータイの画面を見せてきた。そこには寝てる私(上半身制服のシャツ、ボタンが止められてないせいでブラも丸見え)がひーくんのパンツを履いている写真……待受画面だった。

「あ、流石にお前の奴は写真撮ってねェから」

添えるように言われた一言。
違う、違う、そうじゃない!。
こんな写真許してないし、なんでこんなにはだけてるの私……!!!。

「………ん……ち」
「は?」
「ひーくんの、えっち!!!!!!」


ひーくんの頬に紅葉が咲いた。


■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□


「か、影山……その頬どうしたんだ…?」
「これッスか?沙智にやられました」
「お前……白崎さんに何したんだよ………」
「沙智の写真撮っただけッス」

な?と話しかけられたが、ぷいっとそっぽを向いといた。写真を撮ったと言っても、被写体の格好が格好だもの。だけど、ひーくんは何がいけなかったのか分かってないらしく、首を傾げながら「朝からずっと不機嫌なんスよ、此奴」と菅原先輩にボヤいている。不機嫌なのは君のせいなの!!。菅原先輩は私の気持ちが伝わっているのか、影山が悪いと思うと呟いていた。

武田先生が運転してくれるバスに荷物を乗せ、いざ青葉城西へ。潔子先輩の隣に座らせてもらおうと、声をかけようとしたが、

「沙智は窓際な。乗ったことねェ車だと絶対ェ酔うだろ」
「…………潔子先輩の隣がいい」
「文句言うな。ほら乗れ」
「うぅ〜〜!!」

背中を押されて、そのまま乗車。窓際に座らされて、隣にひーくん。こっちは怒ってるんだけど!。自分が悪い事したと本気で思ってないのだろう。彼としては可愛いものを写真撮ったって感じなんだろうけど、下着姿なんて写真撮られたくないし、そもそも勝手にパンツを履き替えられるなんて!!!。
ぷいっと窓の外を眺めているけど、繋がった手をにぎにぎとされて大変気が散る。

「私、怒ってるよ」
「俺は悪いことしてねェ」
「履き替えさせるなら起こしてよ」
「薬飲んだら、お前起きないだろ」
「本当にほんとーーに、本当に見てない?」
「本当ほんと」
「……後で絶対に返してね…」
「……おう、乾いてたらな」
「絶対の絶対だよ?」
「乾いてたらな」
「写真は「それは無理」もーーーえっち!!!」
「エッチじゃねェ」
「じゃあ、変態!」
「ちげェ。俺は沙智にしか興奮しねェし、可愛かったんだからいいだろ。別に」
「良くない!!。消さないなら、買う時選ばせてあげない!。いつも通り勝手に買うもん!!」
「あ゛ぁ?それとコレは話が別だろ!」

「(此奴ら、会話丸聞こえなの分かってんのかな)」
「(履き替え??写真???は………!?)」
「(よく分からんが、影山が悪いな)」
「(王様、ムッツリすぎデショ。沙智は王様の何処がいいんだか)」

ふーふーっとヒートアップしてしまった息を整えて、ひーくんをじっと見る。写真の削除は兎も角本当に見て無さそうだし、下着は返してくれるっぽいから………許してあげよう。私って本当に優しいと自画自賛。まぁ、元々怒り続けるのが苦手で、朝から怒ってたから、もう燃料切れなだけだけど。はぁ、無駄に疲れた気がすると、ひーくんの腕に寄りかかる。

「疲れた……」
「お。これで仲直りだな」
「もうそれでいいよ」
「なら、「それはお家で」………チッ」

ぎゅーはお家でと待ったを掛けると何故か舌打ち。その代わりと握られた手を解いて、ひーくんの腕に絡めた。これでとりあえず我慢してね。その思いが伝わったのか、こてんと私の頭に重みか乗った。

「練習試合頑張ってね」
「おう。日向の囮が4強相手にどこまで通用するか、試してェ」
「……翔くん…。そう言えば今日、翔くん静か」

静かじゃない?と聞こうとしたその瞬間。

「うわあああああ!!止めて!!バス止めてええええ!!!」

田中先輩の声と嗅ぎ覚えのある酸っぱい匂い。
まさかとひーくんと一緒に声と匂いがする方を見れば、ゲロまみれのズボンを履いた田中先輩と真っ青な顔でダウンしている翔くんがいた。

これって、ヤバいのでは……!?。






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