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新零が死んだら淋しいか
その答えを自分でも決めかねている
最後に来た返信を眺めて、息をついた

好きか嫌いかなら、当然好きに当てはまる
そうでなければ、ここまで面倒を見て、側に置いたりしない



あぁ、まただ
本の内容が頭に入らない

理由なんて、考えなくてもわかるというのに








偶然すれ違った上級生が、ちらりと私の方を見て立ち止まり
また、取り巻きを連れて歩いて行った

「愛華ちゃんって、王陵先輩と知り合いなの?」
『・・・違う』
「でも、今、確実に愛華の方、見てたわよ?」
『知り合いじゃないよ。初対面』

王陵璃華子
名前しか知らなかったが
聖護の、新しい玩具である
向こうは、私のことを知っているのだろうか
知っていて、こちらを見たのか
端に目を付けられたのか、どちらだろうか

「王陵先輩って、すごく綺麗よね。美しいっていうか」
「でも、少し出来すぎていて不気味よ」
『ねぇ、王陵先輩って3年生よね』
「えぇ、そうだけど。」
『3年生の教室って、どっちにあるのか教えてくれないかしら』

不思議そうな顔をしたけれど、すぐに教えてくれた

「はっ、もうすぐ授業始まっちゃう!!」
「ほら、愛華、行くよ!!」

移動教室の途中だったこともあり
椿菖蒲と会うのは、もう少し後になった







「槙島先生」
「?」
「今日、槙島先生の髪色とよく似た生徒に会いましたわ」
「ほう」
「珍しい髪色ですもの、それに、とても愛に飢えているように感じました」
「・・・・・」
「是非、もう一度会って話がしてみたい・・・ねぇ、先生。彼女の名前はご存じ?」
「あぁ、知っているよ。君が会いたいと言うのなら、ここに呼び出そうか」
「え?」
「彼女は、僕の特別なんだ。君に手を出されるのは少し困る」

思っていたよりも、早く彼女に目を付けられたなと思いつつ
端末を耳に当てた





『・・・・先ほどは、どうも』
「本当に綺麗な髪ね」
『・・・・ありがとうございます』
「新零さんは、先生の妹?」
「違うな、・・・だが、そういうことにしておこうか」

少し不服そうだが、話せば長くなる
美術品に触れるように、新零を愛で
収まらない高ぶりを、できる限り抑制していた

新零も、彼女にされるがままに大人しく椅子に座っていた
もちろん膝の上には本が拡げられているが
時に璃華子が、手や指に触れるため
不機嫌そうに眉間に皺を寄せていた

『ねぇ、聖護。私は、いつまでこうしてればいいのかしら』

「彼女の気が済むまでかな。
君を作品にされるのは困るからね・・・彼女とは、これで手をうったんだ」

『・・・・』

しばらくして気が済んだのか、キャンバスの方へ戻る璃華子の後姿をちらりと見て
横にいる聖護に声をかける

『返信は、まだかしら』

「・・・・・・」
『聖護が、好きよ』
「僕も新零が好きだよ」
『口でなら、なんとでも言える』
「その通りだ。口でなら何とでも言える」

筆を手に取った璃華子がピクリと反応したが
特に口は挟まなかった

「行動でも嘘はつける」
『なら、本心は、どうしたら確かめられるのよ』
「それは、自分の・・かな?」
『そうね』
「・・・・君の本心を僕が知ることは不可能だ」
『なら、聖護の本心は、どうしたら確かめられるの?』
「さぁね」
『結局、私が死ななきゃわからない・・・確かめようがないじゃない』
「残念だったね」
『・・・・・』

本心を言うつもりは、さらさらないのだろう
私も目の前の人間と同じなのだろうか

やめよう
・・・考えたって答えなんてでないのだ

視線を落とし
椅子から立ち上がった

何も言わずに美術室を後にした





「彼女、槙島先生のことが好きなのね」
「それは、どうかな」
「・・・でも先生、先生も」

言いかけたやめた
新零という生徒の名前を呼ぶとき
美術室に入ってきたとき
話をするとき
見送るとき
見た事のないくらい優しい顔をしていた
妹でないのだとしたら・・・・

知らずに彼女に手を出していたら
自分の命はなかったかもしれないなと、目を伏せた


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