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『・・・・・・・・・・』

「貴女も降りてきてください」

『・・・・・・・・・・』



螺旋階段の上にいる少女に声をかけた
彼女は、ゆっくりと階段を下り
槙島聖護の隣にしゃがみこんだ
少し、動揺しているようにも見える




「・・・・久しぶりだな」

『・・・・そうね』

「聞きたいことがたくさんあります。貴女についても、槙島聖護についても」

『・・・・・・・・・』

全くこちらを見ることもなく
槙島の髪を触っている
重傷のはずの狡噛さんが、ここぞとばかりに質問を投げかけるものの
反応はほぼないといっていい

ドミネーターはやはり反応せず
髪も肌も白い姿は、まるで人間というよりも
人形のようにみえた

「槙島聖護は、なぜお前を連れ去った」

『・・・そんな怪我でよくしゃべるわね』

「そんな軟じゃないんでなっ」

『・・・そう・・』


「槙島は、お前に何をさせようとした
 何の目的で手を組んだ。どうしてお前は、この男に従った」

『・・・従ってなんてない。自分で決めたんだもの、誰かに言われたわけじゃぁないわ』

「なら、あんたは好きで、その男と行動を共にしたのか」

『そうだったら、何か問題があるのかしら?』

「どうして。槙島は、犯罪者なのよ!」

『・・・・・・・・』

「ゆきの時もそう・・・目の前で人が殺されるのに何も思わないの?」

『かわいそうに、くらい思うわよ』

「・・・・・・・槙島の犯罪で、大勢が死んだのよ!!
 彼らのあるはずだった未来を奪ったのよ!!」

あまりに冷たい言葉に、苛立ちが増した
彼女も共犯者だ

『・・・・・・・・』

「・・・椿菖蒲を知っているな」

「?」

『・・・・知らないわ』

「そんなはずはない。桜霜学園で会っていただろう?
 それに、椿の家と関係があることはわかっている」

『・・・・・・・』

「これを聞くのは2度目だな・・・・あんたの名前は?」

『・・・・・・・』

「椿菖蒲は、あんたのことだろう?」

『違う』

「椿柚莉葉と容姿が似ていると言ってもか?」

『気のせいよ』

「事実、柚莉葉と菖蒲には血縁関係がないとわかっている
 調べればすぐにわかることだ」

『・・・・・椿の家は、そっとしておいてくれないかしら』

「あんたが認めるならな」

『聖護みたいなこと言うのね』

「・・・・・・」

『・・・椿菖蒲になる人間だったのは確かよ。でも、その名前は彼女のものだもの
 私のじゃぁない』

「なら」

『私に名乗る名前なんてない。』

「・・・・・・」

この時代に、無戸籍者がいるなんて思いもしなかった
目の前の少女は、名家の出身であり両親についてもわかっているというのに
どういうわけか無戸籍のまま今まで生きて来たのだ
それこそ、上手く生きてこられたのは槙島の傍に居たからなのかもしれないが・・・

「・・・監視官、連絡はまだか?」

「はい、到着まで、もう少しかかると思います・・・」

槙島確保の連絡と共に、2人ではこの状況を片付けることはできず
応援を呼んだのだが、外の状況や、ノナタワーの状況からすぐに、とはいかなかったようだ

狡噛さんが、少し疲れたように力をぬいた
少女は、俯いている
抵抗しないのはなぜだろうか
それほどまでに槙島を慕っているのだろうか・・・


『・・・さっき聖護が大勢の未来を奪ったと言ったわよね』

「はい」

『確かに、聖護は犯罪者よ。人も殺しているし、そうするように仕掛けたのもそう
 ・・・いらなくなったら、興味がなくなったら捨ててきた』

「それをわかっているのにっ」

『・・・私は、聖護に名前も居場所も、未来ももらった』

「・・・・・・」

椿の名と、槙島の話をするときにだけ
感情が顔を出すように感じた
少しだけ震える声が、彼女の姿をいっそう小さく見せる



『・・・私から奪おうとしてるのは、貴方たちだわ』

「!」

顔を上げた少女の瞳が揺れているのがわかる

『聖護は、私がいることを認めてくれた』

「何かに利用するつもりだったかもしれない」

瞳に涙が溜まっていく

『好きにしていいと言ってくれた。一緒にいてくれた』

「殺されるかもしれなかったのよ!」

『1人でいるよりずっといい!あの男の元に行くよりもずっとっ』

「あの男?」

「あー・・・盛り上がっているところ悪いが、うちの娘を、そろそろ引き取りたいんだが」

「「?!」」

『・・・・・・・・っ!』

「大きくなったな、菖蒲」



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