09
「人の顔をじろじろ見るなんて、失礼ですよ。入間さん」
「前から思っていたんですが、貴女、誰かに似ているんですよね」
「芸能人で例えると的なやつですか?」
「そういうことではなく、自分が会ったことある人物だと思うんですが思い出せないんです」
「見てたら思い出せますか?」
「それが思い出せないから困っているんです」
「もやもやしますよね、思い出せない時って。でも私は自分の知ってる血縁者がいないので、その入間さんが思い出そうとしている人物は、私の本当の血縁者かもしれないですね。他人の空似かもしれませんけど」
「・・・・・もし、思い出したら会ってみたいと思いますか?」
「・・・・・人によりますね。その人が容疑者や犯罪者って可能性だってあるわけですし。それに私の生みの親だとしたら会いたいとは思いません。彼女も犯罪者ですし。」
そんな会話をしたのは、数か月前だ。結局思い出せないままでいたが、こんな場所で思い出すことになるとは思わなかった。神宮寺寂雷が率いる麻天狼の観音坂独歩。制服警官のころに職質をきっかけに関わりのあったサラリーマン。椿めめは、彼に似ている。髪の色味、残業続きで疲労のたまった時は特に似ているように思う。他人の空似。そっくりというわけではないが、似ていると思うとことさら似ているように思える。
まさか彼と同じ場所へ足を進めることになるとは思ってもいなかった。観音坂さんの方を見ている理鶯に声をかけると、思案するような声がした。
「麻天狼の観音坂さんですが椿に、どこか似ていると思いませんか?」
「ああ、小官も言おうと思っていたところだ。パーツ1つ1つは似ていないが総合してみると不思議と似ている」
「・・・・・」
「めめに伝えるのか?」
「ええ、聞いてはみますよ。以前、そういう話をしたことがあります。」
「そうか。ならば銃兎に任せよう。」
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「麻天狼の観音坂さんと、私ですか?」
「えぇ、彼のことは知っているでしょう」
「知ってますよ。見てましたし」
中王区でのバトルを終えて、職場に復帰すれば「お疲れ様です」と椿は声をかけて来た。他の連中は、その様子を遠巻きに見ていた。「入間さんが、職場で当たり散らすわけないって私は言ったんですけどね」なんて言いながら、マヌカハニーの喉飴と不在の間の記録を自分のデスクに置いて行った。
「お節介ならそう言ってください。ただ、彼に会ってみるというなら繋ぐことはできます」
「・・・そんなに似てますか?」
「少なくとも、私と理鶯は思いましたよ。あのバカは、それどころじゃなかったので考えもしなかったみたいですが」
「じゃあ、とりあえず直接会うだけ会ってみます。連絡してもらえますか?」
「わかりました。日時が決まったら教えます」
「よろしくお願いします」
左馬刻が握りつぶした彼の名刺を理鶯が拾ってポケットに入れたままにしていたものを貰ったが、渡した本人もまさか電話がかかってくるなんて思ってもみないだろう。なんとなく想像できる反応を頭に浮かべながらコールすると、思ったより明るい定型文が返ってきたが、こちらが名乗った途端に酷い衝撃音が聞こえた。
中王区で、もう1つ気になることがあった。勘解由小路無花果は、自分にだけ聞こえるように「めめは、元気にやっているか?もし何かあれば、すぐに引き上げるからな」と言ってきた。2人には、警察官としての立場以外に何かしら繋がりがある。後半は脅しに近かったが、前半は、どこか彼女を心配するような声だった。自分に協力的だった椿を、もう少し疑うべきだっただろうか。いや、そうだとしたら何もなさすぎて不思議なくらいだ。
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