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『的場...どうしよう、』
「?」
『彼氏ができた』
「は?」
『妹に彼氏ができた』
「.........」
突然何かと思えば
明翠のことではなく、妹のことらしい
『た、確かに17歳だし、そういうことはあるかもしれないのだけど』
「明翠が口を出すことじゃないだろ」
『でもっ!』
「でもじゃない」
『.........』
「はぁ、気になるなら見に行けばいい。同じ学校なんだろ?」
『うん、そうする』
何か気になることがあるのか
視線は一向に上を向かず
ため息ばかり聞こえた
昨晩、突然、妹に彼氏ができたと言われた
同学年にもお付き合いをしている人はいるし
別におかしな話ではないことは、分かっていた
「ねぇ、明姉」
『うん』
「どうやったら、長続きするかな」
『長続きって、その人と?』
「うん。上手く付き合うコツとかさ!」
『どうして、私に聞くのよ』
「どうしてって、的場さんと付き合い長いじゃん」
『的場は幼馴染なんだってば』
「でも、よく一緒にいるし、いつも何してるの?」
『いつも一緒じゃないよ。学校では友達といるし』
「わかった、的場さんとは幼馴染でいつも一緒じゃなくて、で、何してるの?」
『...たまに一緒に学校行ったり帰ったり、宿題したり。あと、妖の話とか、祓ったりとか?』
「この十数年、ずっと?」
『うん。だからね、幼馴染なんだって』
「.........」
『お兄ちゃんに聞いた方がいいんじゃない?ちょうど帰ってきてるんだし、彼女いたって話聞いたことないけど』
「聞いたら、へこんじゃったの」
『...あぁ』
「明姉と的場さんって、喧嘩とかしないの?」
『え、するに決まってるでしょう?一緒にいてしない方がおかしいわ』
妹は、少し驚いた顔をして
羨ましいと言った
『彩季に彼氏かぁ...』
「どうして、嘆くの!!」
『なんか、淋しい』
「淋しいって、別に結婚するわけじゃないんだから」
『それでも』
「そういえば、明姉、大学行かないって本当?」
『うん、行かないよ』
「どうして?明姉、頭悪くないじゃん」
『あんまり興味ないの』
「遠慮してるの?」
『遠慮?お金の心配なら必要ないよ?うちは、こう見えても財力はそこそこあるんだから。それに祓い人としてやっていきたいから大学では何も学べないし、あえていうなら、考古学とか経営学とか?』
「高校卒業したら、就職ってこと?」
『うん。家を出て、祓い人としてやってくわ。生計が立てれなければ、アルバイトでもすればいいかなって』
「家を出る?」
『フリーで続けるか、的場の一門に入れてもらおうかと思って』
「どうして?!」
『その方が、仕事が入るし、家に迷惑をかけなくて済む』
「迷惑なんて誰も思ってない!!」
『...ありがとう彩季。でも、誰がなんと言おうと私は家を出るわ。それにね、一門に入れば...』
「...的場さん?」
『.........』
「やっぱり」
『.........』
「好きなんだ」
『う、うるさい』
「図星」
『好きとか、あんまりわからないけど。でも、...その、守りたいなぁって』
「ふふ、恋する乙女の顔だよ明姉」
『そんなことない』
「あーあ、羨ましい」
『その顔やめてよ』
「照れてる」
『照れてない』
好きか嫌いなら、もちろん、好きだ
でも、それが恋愛感情の好きかと聞かれたら
わからないとしか答えられない
恋人らしいことをしたいと思ったことがない
傍にいられたらそれでいい
それで十分
「それで、妹の彼氏は、どうだった?」
『い、いまいち?』
「顔が?」
『的場に劣る...妹が、それでいいなら私は何も言わない』
「おれと比べないでもらえます?」
『他に、どう表現していいかわからないんだから許して』
「まぁ、いいけど...まだ何か?」
『...いいえ、何でもないわ』
「?」
〜〜〜
帰ったら明姉に話そうと思っていたら、居間には帰省中の兄が転がっているだけだった。祓い屋家業から距離を置いているとはいえ、蔑ろにしたいわけじゃない。ほんの少しの後ろめたさから、一応兄にも言うべきかと口を開いた。
「ねぇ、お兄ちゃん。彼氏できた」
「...は、マジ?」
「まじ...。やっぱりまずい?」
「まずいことはないけど、彩季が今後どうするかで変わるというか、なんというか」
「...そう、だよね。それは、一応わかってる」
「明翠は大学行かずに祓い人になるって言ってるみたいだけど、彩季は大学行くだろ?」
「うん、行くつもりで勉強はするつもり。お父さんに塾に行きたいって言ったらOKしてくれた。...って、明姉、大学行かないの?」
「行かないってさ。行ったところで仕事しに、何度も帰ってきそうだしな」
「そこは、お兄ちゃんが仕事頑張るところでしょ」
「明翠だからな」
「......明姉ってさ、自分のこと全然見えてないよね」
「ん?」
「自己犠牲が過ぎるっていうか、色々あったし私のせいかもしれないけど、ふらっと出かけて行って帰って来なくても、私たちが困らないって思ってそうだなって。見送るとき、ちょっと怖くなる」
「彩季が悪いことなんか1つもねぇよ。父さんたちだろ」
「どう見たって、的場さんは明姉のこと好きなのにさ、気づかないふりしてる。明姉だって、」
「お前が、どのくらい祓い屋のことわかってるか知らないけど、本当に色々あるんだよ。好きだの嫌いだのだけじゃなくて、家柄も派閥も内輪揉めだってあるし、婚姻やら、生まれた子供やらで、祓い屋内の勢力図が変わる。俺は気づかないふりしてる明翠が正しいと思うけどな。相手が悪すぎる」
「そんな言い方、的場さんがかわいそう。あんなに明姉のこと思ってくれる人いないのに」
「......彩季、的場ってのは祓い屋内一強ってとこの、御曹司なんだよ。そんで、明翠は、お前が思ってるよりずっとすごい祓い人だからな」
「.........」
「由緒ある名家が、明翠をうちに欲しいって度々交渉に来ているし、父さんが呼ばれることもある。爺さんは、的場の上の連中が明翠に目を付けてるって嫌がってたしな」
「え、おじいちゃん反対してたの?」
「あいつは昔の穢れのせいで、並みの妖とは契りを結べない。向こうが怖がって嫌がるからな。それが、的場一門に入ったら上級と結ぶ力があっても、それすら叶わないってことになる。それを、爺さんは明翠の可能性を潰すからって嫌がってたよ」
「でも雪は?」
「雪は、雪が好きであいつに懐いてるから例外」
「会合じゃ嫌われてたのに」
「自分より強い相手が怖いだけだろ、まぁあいつの態度が悪いからな」
「.........」
「そういう世界だ。彩季、だから、どうするかちゃんと考えろよ。距離を置くなら置くで、それでいい。」
「そんなことしたら家が」
「やることやって、どうにもならなきゃ、俺が腹括って廃業するしかないな。彩季と違って、彼女の1人もいない俺に期待するのもおかしいだろ」
「...うん、そうだね」
「そこは、そんなことないよお兄ちゃんくらい言ってくれ」
「めんどくさい」
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