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『的場は、一門を背負うことにためらいはないの?』
そう何度か尋ねたことがあるけれど、
的場がちゃんと答えたことは一度もなかった
自分が、的場に言われたことに反応できないように
「明翠が気にすることじゃない」
『目のこともあるのに』
ふっと自分の右目を触れて
何か考えて
また手を下に降ろした
『私、的場一門に入ってもいいと思ってる』
「...?」
『なんていうの?就職先みたいなものかな?その方が仕事も入りやすいだろうし』
「椿はいいの?」
『前に言った通り、祖父が亡くなった時に区切りはつけたつもりよ。どちらにしろ、家は出ることになるだろうし』
「...明が、それでいいならいいんじゃない?」
『...うん』
「別に、急ぎじゃない。おれが継いでからでもいい」
『継ぐ気満々ね』
的場家の当主は代々右目を妖に狙われる
それが、私は嫌だった
幼い頃、的場の本邸に遊びに行った際に
見せてもらった右目に何も言うことができなかった
月に1度来る妖に居合わせる度
これを祓ってしまえたら...
なんて馬鹿なことを考えたことがある
私が、どうこう言うべきじゃないのはわかってる
それでも、嫌なものは嫌で
祓うことが許されないのなら
せめて、一門に入れば守れるかもしれない
傷だけならまだいい
的場が、的場静司がいなくなるのは、とても...とても、嫌だった
どちらにしろ、椿には残れない
今の椿に私がいたら
家族が巻き添えを食う可能性がある
それくらい、私の妖力が強いことくらい
自分でわかってる
そのことを考えても、やはり高校を卒業したら...
「まだ決まったわけじゃないけど」と複雑そうに笑う的場に、ほんの少しだけ寄り添うように隣から体を寄せた。祓い屋内での権力争いも、お姉さんのことだって、的場が話題にしたことはなかった。私も他人事ではないとわかってはいるものの、深く考えるのが嫌で話題にすることがなかった。まだ...あと少しだけは考えないでいたかった。
『静司が継いだら、一門は安泰ね』
「当たり前のことを、いちいち言わなくていい」
『ふふっ、そう言い切れるところ、私好きよ』
「......今日、どうかしたの?」
『様子が変なのは的場でしょう?』
「.........」
『幼馴染の目を騙そうとは良い度胸ね』
「その幼馴染の目が、あまりにも節穴で困ってるんだけど?」
『なっ、』
ほんの少し重みのかかった腕に顔を上げると、優しく笑っている的場と目が合った
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