13
ぱたぱたと走って行った明翠を見送りつつ縁側から失礼することにした。服に付いていた砂を綺麗に払い、袖をまくる。言うつもりはなかったものの、気づかれてしまったものは仕方がない。まだ少し血が滲んでいる傷口の様子を見ながら部屋へ向かう。
「?」
「!」
「お邪魔してます」
「あ、的場さん...いらっしゃい」
「明翠なら、すぐ来ると思いますよ?」
「いえ、姉に貸したものを返してもらいに来たので、もう大丈夫です」
明翠の部屋から出ていく彼女の妹を見送り
相変わらず片付かない部屋だなと思う
古い文書が積まれ
紙の束だったり、封印具が置かれている
そして、極めつけの畳にベッド
洋式の家具と対称的に筆や炭、その他和風の物が並ぶ
明翠の部屋は何度見ても不思議だ
しかし、先ほど出て行った彼女の妹は、何をしていたんだろうか
焦る必要なんてなかったはずだが...と、考えていると
明翠が部屋に入ってきた
「さっき、妹がいたよ」
『彩季が?』
「なんだか、貸した物を取戻しに来たって言って、すぐ出てったけど」
『貸した物?』
「心当たりない?」
『何も借りてないと思うけど...』
部屋の真ん中のテーブルに持って来たものを置いて
物の確認をし始める
『一応、重要なものには結界はってあるし、札があるから心配ないと思うんだけど』
「?」
『さすがに、本の冊数までは覚えてないしなぁ』
「そういえば、この前の会合の時、来てたっけ」
『うん。興味が湧いたのかな。それなら、ちゃんと言ってくれればいいのに』
明翠の口ぶりからして
彼女の妹は何かしらを隠れてやっているらしい
先ほどの焦った様子は、そのせいか
『ほら、手当しますよ』
「別にこれくらい手当てするほどじゃない」
『出血したんだから、手当は必要でしょう?』
明翠は、おれがはぐらかすこともわかったうえで、この傷の理由を深くは聞いて来ないだろう。相変わらず手慣れた様子で包帯を巻きながら穏やかな顔をする彼女に、少しだけ居心地の悪さを感じる。
縁側にいた時よりも血色は戻っているものの、眠りが浅いのか目元の疲れが見て取れる。
『こっからが本題ね。的場、宿題の範囲教えて!』
初めから期待してはいなかったけれど
戻ってしまった呼び方に少しがっかりした
おれが的場の人間ではなかったら
もう少し明翠は応えてくれただろうか
明翠が椿の人間ではなかったら
もう少し応えやすかったんだろうか
そんなどうにもならない生まれのことを頭の片隅に押しやって
全く手の付けていないテキストをめくった
絶望したように項垂れて
『...終わるはずない』とぼやいた明翠を見るのも後何回だろうか
子供として扱われた時間が終わっていく
それ故のもどかしさに嫌気がさすこともあったが
最近になって、少しだけ名残惜しいと思うようになった
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