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祖母の葬儀から半月経った

祖母とは、あまり話した記憶がない
もともと物静かな人だったこともあって
家事を教わったけれど
一緒に遊んだ記憶はあまりない

随分と家が淋しくなってしまった

母が亡くなって
祖父母が亡くなった

来年には、私が家を出て
大学を卒業した兄が戻ってくる

再来年には、妹も大学に通うために家を出るのだろう
兄が結婚したら、また賑やかになるかもしれないなぁ


縁側に座って目の前を過ぎていく
小さい妖を眺める
昔は、遊び半分で祓ってたんだなぁと思うと
我ながら酷いことをしたと思う

すっと目の前が暗くなって
背に腕が回った

「・・・・」

『・・・・的場さん、これは、なんでしょうか』

「人恋しそうにしてたので」

『・・・暖かい』

正面から抱きしめられているのに
抵抗しようとも思わないのは、的場の言う通りかもしれない

もともと父とは、あまり話さず
兄は大学、妹は彼氏

淋しかったのかもしれないなぁ・・・なんて

「・・・・・」

『私も、彼氏作ろうかなぁ』

「・・・頭でも打った?」

『・・・・・打ってませんよ』

「・・・・髪、どうした」

『うん?・・・あぁ、少しだけ妖にあげたの。よく、気づいたわね』

「・・・・いつも見てますからね」

『堂々とストーカー宣言ですか』

「本当ですよ」

『あらまた、ご冗談を』

距離を取って、的場が右側に座った

「この前の会合で、誘われていただろう?」

『うん』

「受けるのか?」

『・・・受けないよ』

「あの妖を捕りに行くには、あの顔ぶれじゃ無理だろうな」

『・・・・・』

「わかっていて断ったんだろ?」

『いけない?』

「いや、おれが関わることじゃないが
 ただ、明翠を道具みたいな言い方をしていたから気に入らなくてね」

『ふふっ・・・ありがとう的場』

「・・・・・・・」

何かを考えるように遠くを見ている的場を横から眺める
十数年一緒にいたのに、私には的場が何を考えてるのか
全然わからなかった

ただ、たまに見せてくれる優しさが自分にだけだったらいいのにな
なんて、都合のいいことを考えて
すぐに考えないことにする

いつも、そうだった
どれだけ悲しくても、つらくても
できるだけ考えないように、その意味も理由も考えないようにしていた
そうじゃないと、立っていられない

「たまには、的場っていうのやめません?」

『・・・何の話?』

「昔から、不思議だったけど。おれは明翠って呼ぶのに
 明翠は、おれを名前で呼ばない」

『・・・的場は的場なんだから、いいじゃない』

「ね、たまには」

『ね、じゃない。何考えてるのかと思ったら、そんなこと』

「そんなことじゃない。今の距離をつめるのは、それが一番だ」

『距離って、この距離?』

自分の右隣りの空いたスペースを、とんとんと叩く

「まぁ、そんなところ」

『・・・・・・』

「ほら」

『う・・・』

横から視線を送られて
たまらず逃げる

「名前知ってるだろ?」

『知ってるけどっ・・・』

「何?」

『・・・・・』

「恥ずかしい?」

『だって、今更。的場は、的場で・・・』

「・・・・・・・」

無言の圧力
目が笑ってない

「ほら」

『・・・・・的場静司』

「だめ」

『・・・・・・っ』

「・・・・・・・」

『・・・言わなかったら?』

「明翠のことを、椿って呼ぶ」

『・・・・・・・』

「今だけでいい」

そう言った的場の顔が
妙に優しくて
どきりとする

『・・・・静司』

「もう一度」

『静司』

「はい」


『・・・それで、静司さんは、私になにか用事があって来たんじゃないの?』

「いいね、その静司さんっていうの」

『はい?』

「近くまで来たから、ついでにね。明日提出の宿題終わった?」

『・・・・・・・・え、宿題なんてあったけ』

「やっぱり」

『・・・・・・・・』

「かなりの量があったけど、終わる?」

『・・・なんで、もっと早く教えてくれないのよ!!』

「その方が、おもしろいだろ?」

『面白くない!!』

楽しそうに笑っている場合じゃない

『お茶とお菓子取ってくるから、私の部屋に先に行ってて!!』

縁側に的場を残して台所に走る
部屋は、まぁそれなりに片付いているから問題はない



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