「貴様が、私の饅頭をっ!!」

「先生、饅頭1つくらいで、そんなに怒らなくてもいいだろ」

『・・・・・・・』

「・・・なぁ、昨日、どうしてあの妖を」

『・・・・・・?』

また不思議そうに首を傾げた

「覚えてないのか」

『・・・・・喰いたくない』

「なら、どうして昨日」

『・・・・・・・・・・・殺さなければ、死ぬ、食べなければ、死ぬ』

「何、私は無視か!っ・・・・・・・・・何をする!!!!」

「先生っ!」

とびかかった先生から
焼けるような音がして
先生が飛び跳ねた

触ったのか?
おれが触れられた時は、何も起きなかったのに

『・・・・・それ、猫違う』

「あぁ、にゃんこ先生は、お前と同じ妖だよ」

「こんなやつと同じだとっ?!私は、もっと高貴で」

「お前、怪我はないか?」

「無視かっ!!」

コクリと不思議そうにうなずいた

「でも、なんで、おれはよくて、先生はだめなんだ?先生、もう一回触ってみてくれないか?」

「何?!」

嫌がる先生をすまないと思いつつ捕まえ
そっと触れさせれば、今度は何も起きなかった
おれ自身が触れても、何も起きなかった

「?」

『・・・・・・・・・』

「先生?」

「お前、変なものを喰らったな・・・・・・・・」

「変なもの?」

『・・・・・・・・・』

「変なものって、お前、腐ったものでも食べたのか?」

「・・・・・・・」

『・・・・・・・・・・・』

「夏目、お前は、こやつを蹴り倒したと言ったな?」

「ああ、最初に会ったときに」

むむむと考える先生と
風に揺れる葉を、見ている妖を交互に見た

その時、強い風が木々を揺らした
それとほぼ同時に
妖が、ふっと左側に目を光らせた

その先に、別の妖をいるのが見え
とっさにげんこつで殴ってしまった

「・・・わるい」

『・・・・・・・』

「いくら腹が減ってるからって、見境なく妖を喰うなよ」

『・・・・・そこの猫も喰う』

「・・・・・・」

その通りで言い返す言葉はなかった
にゃんこ先生も、おれと出会う前
いや、出会ってからも妖を喰らっているかもしれない
もしかしたら・・・人も・・・・・・・

「・・・わるいな、できれば、おれの前では遠慮してくれないか?」

『・・・・・お前、喰う』

「?!」

突然また、恐ろしいことを言うので身を引いた

『ああああ゛あ゛・・・・・・・・・力が、欲しい』

「力?」

『力』

「これは、私のものだ。横取りは許さんぞ!!」

『力・・・力・・・・・・・・・あと少し』

「?」

苦しそうに呻きながら
ぎこちなく手をこちらに伸ばしてきた
急に変わった雰囲気に背中に嫌な汗が流れる

「手を出すなと言っているだろうが、馬鹿者めっ!」

「うわっ先生」

元の姿に戻った先生が間に入る
ぞわりと先ほどのより大きくなった妖が殺気立った

先生に連れられて、少し離れた場所に降ろされた
姿の小さくなった先生が、また近づくなと言った

この違和感はなんだろうか

「夏目、また変なことを考えているだろう?」

「あの妖は、なぜ急に凶暴になったりしたんだ?」

「言っただろう。あの手の得体のしれないものには関わらない方がよいと」

「・・・・変なものって、あの妖は、何を食べたんだ?」

「・・・・・・・・・・・」

「先生?」

「聞いたところで、お前には、どうにもできん」

「・・・・・・?」

「あれは、」

あれは、人を喰らった

それも、力の強いものをな

私が祓われたのはその力のせいだろう

それを消化するための力を必要としておる

急に凶暴になったのは
もしかしたら

「まだ、あの妖の中に、その人がいるってことか?」

「・・・その可能性は、ないとはいえん」

「なら、先生。あの妖は」

会話を思い出す

“・・・変・・違う・・・・・・人の子”
“・・・・・喰いたくない”
“・・・・・・・・・・・殺さなければ、死ぬ、食べなければ、死ぬ”

考えすぎだろうか
初めにおれに向かってきた妖を襲ったのは、自分のためか・・・・おれを助けるため?
喰らいたくないのは、自分が人の子だから・・・?

「お前には、どうにもできん」

「でも、まだあの妖の中には、」

「肉体が残っているとは限らん。思念だけが残っているのかもしれん どちらにしろ、消化不良を起こして妖自体が弱っておるがな」

「もし、その妖が死んだら・・・」

「中にいるにものも死ぬだろうな」

「そんな・・・」

「もともと、喰われた人の子など助かるはずがなかろう」

「・・・・・・・・・・」

「やはり、お前に言うべきではなかったな
 助けようなんて、余計なことを考えているのではないだろうな」

「探したら、あるかもしれないだろ?」

「・・・・・・・・まったく」

助ける方法があるかもしれない
どうにかして・・・・

妖に喰われてもなお人としての意識があるのだとしたら
どれだけおそろしいことなのだろうか
人からその存在に気づいてもらうことさえできず
山で生活し
妖を捕食し
・・・もしかしたら・・・・・・
そう考えるだけで吐き気が来た


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