06
興味が湧いた。あんな風に怒れる人間はあまりいないし、きゃんきゃんと子犬のように吠えているかと思えば、急に素直になったりと喜怒哀楽が分かりやすく人として面白いと、そう思った。だから、その中学時代のことが気になった。俺が聞いてどうなるという分けでもないし、どうするという分けでもない、ただ気になっただけ。それ以上の言葉は今は出てこない。
「中学のころ、好きだった人がいて、その人も私のことをたぶん好きだったの。なんとなく、あるでしょ?そういうの」
「体験したことないんで、知りません」
「・・・あるの!それで、他の告白全部蹴って、その人に告白したら、付き合えないって言われた」
「理由は、さっき話してた時の?」
「そう、その答えになるけど、私とは釣りあわないから付き合えないって。好きだけど、付き合えないって・・・そんなのおかしいよ」
「・・・それは、外見的な意味で?」
「・・・お前は他の男子からも好きだって言われてて、自分はそういうのじゃないから無理だって言われた」
「・・・・」
「他人からの評価で、自分の容姿は少なからずわかってるつもり。そうなんだって理解するようになって。友達にも新零はかわいいから彼氏なんてすぐできるよってしょっちゅう言われてさ」
「・・・・」
「・・・それでも、好きな人にそれが理由で振られるなんて、馬鹿みたい」
「椿は、何も悪くないと思う」
「なんで?」
「その相手が、根性なしってだけだと思うけど」
「・・・・」
「椿と付き合って、周りに色々言われるのを予想して耐えられないと判断した」
「・・・・っ」
「さっきの話しと同じ、それが理由で好きな相手を振るようなやつ付き合っても続かない」
「・・・赤葦は、少しは遠慮して」
「まだ、その人のこと好きなんだ」
「あの時が、一番楽しかった」
「じゃぁ、好きでもない人と付き合ったのは、そいつを忘れようと思ったから?」
「それは違う」
キッと睨まれてまた、視線が横へと流れた。まだと好きなのかと指摘した時に瞳が揺れたように感じた。つまりそういうことだ。後悔してますと書かれた顔は、自分で崩してしまった時間に戻りたいと、言っているようだった。
「他の人と付き合ったのは、断れなくて仕方なし・・・かな。向こうに悪いことしたって思うけど」
「理由は聞いてもいいの?」
「ここまで聞いといて、聞かなかったらどうかと思うけど?」
「じゃぁ、どうして」
「赤葦って、こういう話好きなの?私、男子とこういう話するの初めてなんだけど」
「俺だって、初めてだけど?・・・それで、続きは」
「・・・そんな気になるの?あんまりいい話じゃないし、男子に話す内容じゃない気もする」
「いいよ」
「・・・仲のいい友達グループって女子にはあって、私に告白したその人は、そのグループにいた友達の好きな人だった。隠してもどうしようもないから、ちゃんとその子に言ったら、応援するよって言われたの。他の子にも、いいじゃん付き合いなよって良物件じゃんって、気づいたら断れない雰囲気になってた。クラスでも付き合えってコールされて、本当は逃げたくて仕方がなかった」
「それで、付き合ったんだ」
「・・・もし断ったら、友達がいなくなるかもしれないと思って怖くて、断れなかった。もともと知ってる人だったし、まぁ色々」
「・・・・・高校入る前に、どうやって別れたの」
「向こうから・・かな。変だなって途中で思ったんだよ。付き合い始めていろんなところに遊びに行っても、手は繋いでもそれより先は1回も求められなかった。今思えば、きっと気づいてたんだなって」
「・・・・・・」
「電話で、別れようって言われた。悲しくもなかったし、それから連絡も取ってない」
電池がないと言っていたスマホを少し弄って、画面の電源を落とした。すでに氷が全て解けたメロンソーダには手を付けずに、最初に運ばれてきた水にストローを移すのを眺めた。椿新零にとっての中学時代は、後悔ばかりなのだろうか。それくらい声のトーンも落ちて、表情の暗くなったのを目の当たりにして開きかけた口を閉じた。それでもどこか、他人事のような口調でもあった。
「スマホに買い替えて、アドレスも変えて、中学の誰とも連絡が取れないようになってるの。だから、アドレス帳なんて淋しいものでね。そもそも、最近は他の方法使うから余計に少なくて」
「なんか、話し方に棘がなくなった」
「うん、そうかも」
「・・・じゃぁ、その淋しいアドレス帳に俺のでも入れといて」
「・・・・いつ使うの?」
「そこは、なんでじゃないの?」
「じゃぁ、なんで」
「椿のこと嫌いじゃないから」
「そういうの、ロールキャベツって言うんだよ」
「?」
「・・・でも、いいよ。他の人には教えないで」
「そんな人いるの?」
「いたから言ってるの」
そう言って、お互いのアドレスをスマホに入れたところで喫茶店を後にした。別れ際まで、本当に不思議そうにこちらを見ていた椿は、今日初めて会った時とは全く違う人に見えた。じゃぁと分かれて、少ししてからだった。後ろから突然、腕を引っ張られて驚いて振り返った。
「赤葦、スマホ貸してください・・・」
「・・・どうして」
「電池切れて、親と連絡取れない」
「公衆電話は?」
「番号覚えてない」
「・・・それで俺のスマホでどうやって連絡するの」
「光太郎の連絡先知ってるでしょ?」
「・・・光太郎?」
「木兎の連絡先」
「え・・・木兎さん?知ってるけど」
「良かった、少しでいいから貸してください。お願いします。」
いまいち状況が理解できないまま、画面に木兎さんの名前を表示させて椿に渡せば、少しいやだいぶかもしれない離れた所へ行って、何かを話して戻って来た。なぜ木兎さんなのかと聞いても、ちょっとした知り合いだとしか言わないのでよくわからなかった。さっきあれだけ色々と話したくせに何が駄目なのだと。木兎さんの下の名前を眺めて画面を消した。
「ありがと、じゃぁまた学校で」と手を振って人混みに消えて行った。近くを通りかかった少しチャラそうなどこかの生徒が、「今の子見た?」と話すのが聞こえてきたので、ちらりとそちらを見てから自分もその場を離れた。
「木兎さん」
「なんだ、赤葦」
「椿っていうクラスメイトがいるんですけど、知り合いなんですか?」
「おうっ知り合いっつうか、い・・・・・あぁぁああ・・・知り合いだ。そう知り合い」
「なんですか、それ」
「なんでもねぇよ!!ほら、赤葦トス上げてくれっ」
「??」
両者に誤魔化され納得がいかなかった。他の先輩にも椿って知っていますかと聞けば、知らないと答えられた。
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