07
学祭での準備で揉めたのは少し前のことだ。あの後、2人から謝られて、私も言いすぎたと謝った。それでも、そういうことはしてほしくないと付け足して納得してもらった。
「そうはいっても、あれから新零と赤葦くん仲良くなったよね」
「・・・・・」
「何があったわけ?あのあと。赤葦くん、新零のこと追っかけてったよね?」
「・・・・何もありません」
「あー、その顔は嘘ついてる」
「ちょっと、話してただけだし。特に何もない」
「でも、話してたんだ」
「へぇ〜」
と、こういうことになった。アドレスにある赤葦の名前だとか、前はなかった挨拶だとか変わったことは多い。そして、あの日、電池が切れたと慌てた私が光太郎の連絡先を知っているだろうと赤葦にスマホを借りてしまったことを後悔している。あの馬鹿のことだ、黙ってろと言っても言ってしまっているかもしれないと妙に赤葦との間に緊張感があったのだが、何も言ってこないところ見ると、本当に黙っているのかもしれない。それとも、知っていて知らないふりをしているのだろうか。それを聞くことでもばれるので黙っている。
「椿、部活の先輩が呼んでる」
「え?うん、ありがと」
赤葦の横を抜けて教室の出入り口にいる先輩に声をかけた。
「あの子、バレー部だよね」
「え?」
「さっきの背高い子」
「あぁ、はい。そうです」
「体育館の前通るときにいたなぁって」
「・・・あぁ、そうですね」
「新零ちゃん、いつもバレー部の体育館の前は全力で走り抜けてるもんね。なんかあるの?」
「何もないですよ、それより、どうしたんですか」
「あぁ、今度ね」
先輩からプリントを受け取って席に戻った。部活の時でもいいのにと思ったけれど、テスト前で部活が休みなことを思い出した。荷物も持ってきてしまった・・・
「新零は、テスト勉強どんな感じ」
「ぼちぼち?」
「いいよね、頭がいい子はさ」
「やるか、やらないかでしょ?」
「そのやれるかやれないかっていうのが、できる人はできるんだよ。私はできない」
「テスト前に全部やるから嫌になるだから、少しずつやればいいのに」
「それは、できる人の言葉だよ」
「うちの子だってやればできるって言葉あるけどさ、あれだって、誰だってやればそこそこできるだろって思わない?」
「言われてみればそうですねー。新零は、入学してから上位にいるから言えるんだよ。私なんて、中学のころはそこそこ良かったのに、入学してからの成績が良くなくてやる気なくなっちゃった」
「私は、ギリギリで入ったから、入学してからもギリギリであんまり変わらないかも」
うだうだと言っても、結局は勉強したくないのだ。2人とも部活に入っているのだから何かに対してがんばれないわけじゃないのにと息を吐いた。授業中も早い科目ではテスト範囲が終わっているため復習プリントなんていうのを配られた。特にやる気も出ず、後半の応用問題を解いて、自分のノートをペラペラとめくっていた。終わり10分のところで、プリント回収するからなーという教師のとんでもない一言に慌てて残りの問題を解いた。こんなことなら最初から全部解けば良かったと、またため息が出る。ふと外を見れば、朝は晴れていたはずの空に雲が見えた。それも、どこか雨が降りそうな少し暗い雲だ・・・晴れていたから傘なんて持っていない。帰るまで降らないといいけどとチャイムに合せてプリントを前に送った。
「あー・・・」
弓道部で使う小さな道場の外でため息を吐いた。持ってきてしまった荷物を持って帰るのも嫌で、顧問にお願いして鍵を借りて置きに来たのはいいが、雨が降り始めてしまった。こんな離れに人は来ないので走って戻るしかない。・・・どちらにしろ傘はないので濡れて帰るか、誰かに入れてもらうしかないとはいえ、クラスの友人は帰ってしまっただろうし、部活の友達や先輩も帰ってしまっただろう。こんなことなら荷物を置くだけですぐに帰れば良かった。気になるからと片付けなんてしている場合じゃなかった。
光太郎にお願いするかなぁとスマホを弄りながら雨の中を校舎に向かって歩き始めた時だった。後ろから誰か走ってくるなとは思っていたけれど、急に自分に影が下りたので驚いた。
「傘は?」
「忘れた」
「教室?」
「持ってくるのを忘れた」
「なら、誰かに送ってもらうとか」
「部室に荷物置きに行ってたから、多分みんなもう帰ってる」
「・・・・・」
「赤葦こそ、何してるの?」
「体育館に忘れ物したのを思い出したから、顧問の頼みごとついでに」
「そっか」
「そっかじゃなくて、せめて走れば」
「走っても走らなくても帰るまでにはべたべただから諦めた」
「コンビニまで送るから、そこで傘買って」
「・・・え」
「家に送るより、その方が濡れないで済むし」
「・・・ありがと」
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