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ちょうど1年前に、来年はどうなっているんだろうかとあいつが言っていた。それに対して、お前次第だと答えた気がする。その通りだ。自分は変わるつもりはなかったのだから当然の答えだろう。桜なんて咲きそうもない、まだ寒い時期になぜ世の連中は、散る桜の絵なんて描いたりしたのだろうか。どう考えたって背景としておかしいだろうが。


「やっぱだいぶ、髪伸びたな」
「ん?・・あぁ、そうだね。大学決まったら切ろうかと思って」
「・・・・そのままがいいって言ったら?」
「切って欲しくない?」
「・・・・・・もう少しくらいいいだろ」
「靖友が言うなら、そうしようかな」
「じゃぁ、そうしてヨ」
「・・うん」

少し強い風が吹いて、新零が髪を耳にかける自然な仕草にどきりとした。だが、その後に「やっぱり邪魔かも」と付け足した新零に思わず笑いがこぼれた。

高校入ったばかりのころよりも随分と大人びていた。改めてみると違うものだなと思う。自分の事は触れたくないが、あの時、授業に出ろと言いに来た新零が今こうして自分の方を向いて笑っているのだ。あぁ、やばい顔がにやける。

教師がそろそろ解散しろとうるさくなり始めたころ、福ちゃんたちは既に寮へと向かっていたし、新零の友人も校庭には残っていなかった。人の背中を押しておいて置いて行ったらしい。気を使ってか、茶化されているのかわからないが、まだ目の赤い新零と話しながら、校庭を後にした。


言ってしまえたらいいのに、妙に言えなくなってしまった2文字が喉から出かかって全身がかゆくなる。

「靖友」
「・・ぁあ?」
「私さ、靖友とこうなるなんて入学した時は思ってもいなかった。嫌いで嫌いで仕方なかったのに、こんな風に一緒に帰ったり、遊びに行ったりして・・・本当、自分でもびっくりしてる。大体、靖友が私のこと好きなんて思ってもいなかったし」
「・・・・・」
「本当、びっくり。中学の私が見たら信じないだろうなぁって」
「新零チャン、さっきから酷いんじゃねぇのォ?」

完全に男として眼中になかったと言われると中々に辛いものがある。自分が悪いとはいえ、ここまで言われるとは。

「もとはと言えば荒北が」
「また戻ってんだけど」
「ごめん」

昔の話を蒸し返すときはたいてい荒北と言われる。嫌なわけではないが、新零の口から呼ばれる名前は特別に聞こえるのだ。自分で考えても気持ち悪いと思うが、事実そうなのだ。新開に呼ばれるのとは違う。

「私、箱学に来て良かった」
「・・・・・」
「靖友のこと好きになれて良かったって、そう思う」
「っ、なんでテメェはそう・・・」
「ん?」
「ん、じゃねぇよバァカ」
「馬鹿とは何よ、馬鹿とは!このボケナス」
「っせぇ!!ぁあああくっそ、新零!」
「な、何」
「あんまりかわいいことばかっか言ってんじゃねぇよ!!」
「?!」
「髪の毛伸ばすわ、急に大人びやがるわ、こっちの気も知らずに好きだのなんだの言いがやって」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

驚いた顔でこちらを少し見上げ、急に黙った俺に対して何を言ったらいいのか悩んでいる。ほら言えよ、一言だろと自分に言い聞かせているのに言葉は喉でつっかえて出てこない。あっさりとこいつが言ったばかりだというのに・・・

「おめさんたち、そんなところで立ち止まって何してんだ?」
「そうだぞ、こちらは気を利かせてゆっくり歩いてきたと言うのに」
「あ゛?!テメェら勝手に入ってくんじゃねぇよ。つーか先に行ったんじゃ」
「部活の方に顔を出していたのだよ。それで、ほう?俺たちは邪魔をしてしまったのか。それは、すまなかったな荒北」
「けどなぁ、こんな通学路の途中で見つめ合って立ち止まられても俺たちはどうしたらいいんだ?」
「そう言うことは、余所でやるのがマナーだぞ荒北」
「ちげぇっ!!勘違いしてんじゃねぇよ!!」
「荒北、言いたいことはちゃんと言ったほうがいい」
「福ちゃんまで、何言ってんの?!」
「そうだな。靖友、おめさん今何か椿さんに言おうとしていたんだろ?」
「さっきから見ていたが、じれったい奴だな。男ならはっきり言うときは言うものだろうが」
「そうだぞ、ほら、椿さんに何を言おうとしてたんだ?」


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