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「久しぶりだな」
「・・・・・・」
「無視か」
「・・・・・・」
「私の言葉も拒絶できるようになったのか?」
「・・・・・・」
「ばけものとしての成長が進んでいるようだな」
「・・・・・・」
「学校はどうだ?」
「・・・・・・」
「上手く取り繕えたか?」
「・・・・・・」
「ばけものと一緒にいたがる人間なんて、いないだろうからな。せいぜい上手く取り繕っとけよ」
「・・・・・・」
「ばけものは、ばけものらしく、鎖につながれておけばいいものを。野放しにするから、敵連合なんてものができあがるんだろうが」
「・・・・・・」
「お前も、いつそっち側へ行くかわからんからな。今のうちに空の下を堪能しておけよ?」
「・・・・・・」
「返事くらいしたらどう・・・おい、どこへ」
「すみません、変な男の人が付いてくるんです!!」駅員に、少し大きめの声で伝えれば、斜め後ろからついてきた男が話すのを止めて足を止めた。駅員や周囲にいた人が、じっとそっちを見た。声が少し震えた。目で見る限りに手が震えているのがわかる。
「クソガキが」
「・・・・・・」
駅員が対応してくれている間に、改札を通してくれたので、消太に連絡を入れて帰路についた。
酷く疲れた・・・解放していた分、改めて制御装置をはめた負荷は間違いなく体力を奪っている。そしてそれ以上に精神的に疲れた。気持ちが落ち着かない、ざわざわと騒がしい。しかも帰宅途中で嫌な奴にあった。思い出して、身体が震えた。夕食を作る気も食べる気も起きず、お風呂に入って布団に転がった。・・・目を閉じたら見覚えのある景色が広がって、あいつの声が聞こえてきたため思わず目を開けた。居間に置いてきた鞄を思い出して、身体を起こし自室を出れば、着信音が聞こえ慌てて発信者を確認した。
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結局部屋で寝つけずにタオルケットを羽織って本殿の方へ歩いてきた。いつも眠れないときは、本殿にお邪魔している。昔から、なんとなく落ち着くのでそうやって家の中に閉じこもらないようにしていた。
突然の焦凍くんからの電話に、八つ当たりをしてしまった。彼は何も悪くない・・・しいていえばタイミングが悪かった。こんな時じゃなければ、喜んだのになぁ・・・と、廊下に膝を抱えたまま転がった。偶然見かけたから電話をくれたなんて、私は彼にそんなに心配をかけてしまったんだろうか。それとも、彼の母親と同じ病院に通院しているからだろうか。嬉しいような、ほっといてほしいような複雑な気持ちだ。「私は、貴方のお母さんじゃないよ」と言えば、おそらく「当たり前だろ」とこいつは何を言ってるんだとでもいうような顔で言われそうだ。でも、きっと彼の中には、それと似たものがあるのかもしれない。
“えらいな、墓参りか”
“にーなのごせんぞさまが、つちのなかでおねんねしてるの”
“そうか。じゃぁ、いずれ君もそこに入ることになるんだな”
“にーなも?”
“あぁ、君みたいな、ばけものは空の下にいちゃいけないんだ”
“・・・にーな、ばけものなの?”
“そうだ。いずれヒーローに倒されることになる”
“・・・・にーな、わるいことしてない”
“悪いことが起きる前に対応するのが、私の仕事なんだ”
“・・・・・わるいことしてないもん”
“だから、これから”
“にーな、なにもしてない。おにいさん・・・きらい!”
嫌な音が頭の中で鳴り、目を開けた。数時間は寝ていたのだろうが、まだ夜も深い。疲れたから寝たいのに、寝ればあいつの声が聞こえてくる。まだ駄目だった。あの声も顔も、私は怖くて仕方がない。私は、ばけものじゃない。そう思っているのに、あの景色を見ると不安になる。幼い時に感じたアレは、間違いなく死ぬことへの恐怖だった。けれど、人を傷つける自分は、やはりばけもので、いなくなった方がいいんじゃないかと思うときがある。それが突発的に起こる、自分でもそれが怖い。そして、それができないように個性が働いてしまう。根本にあるのは死にたくないだ。
「・・・あんな言い方、嫌われたかな」
昔から話だけ聞いていた男の子。冬美さんは、私なら焦凍くんの考えてることがわかるんじゃないかと言っていたけれど、あまりに状況が違うと思う。・・・私は家族から嫌なことや怖いことをされたことはない。いつだって優しくて、心配症で、それが申し訳なくて、渋る母に自分は大丈夫だと言って仕事に戻るよう背中を押した。1人が寂しくないわけじゃない、でも1人だから楽な部分もある。
「・・・・・」
木々のざわめきが耳に心地よい。焦凍くんは、ここをいい場所だと言ってくれた。それが嬉しかった。私もここが好きだ。ごちゃごちゃ考えるのは止めよう。明日、焦凍くんに謝りに行こう。そんなことを考えているうちに少し心が落ち着いて気づいたら眠りに落ちていた。