06



校長先生からありがたい申し出があり、授業後にヒーロー科で使う施設で個性を使えることになった。嬉しいような、複雑な気持ちの中、体操着で指示された運動場へ向かった。途中、消太が合流して簡単な説明を受けた。

「耳のカフスは外さずに行く。ちゃんと自分で規模はコントロールしろ」
「うん」
「といっても、この運動場は老朽化が進みすぎて全部作り直すって話だ。運動場の範囲内なら誰も何も言わねぇよ」
「わかった・・・やってみる」
「身構えろよ?こっち外すの久しぶりだからな」
「うん」
「心配しなくても申請はしてある」
「うん」
「じゃぁ、行くぞ」

耳の制御装置はコントロールのためのもの、左足の制御装置は、強さを制御するためのもの。耳の装置は体への負担も少ないが、左足の装置はわけが違う。本来、1つの都市が崩壊するほど私の個性は強さと影響範囲を持っているらしい。らしいというのは、あくまで測定の個性を持つ研究者の研究結果によるものだからだ。実際に試すわけにもいかないため、それを指標に危険と判定された。その研究者の研究結果は、他の個性測定データでも信憑性の高い結果が出ているため嘘ではないだろうと、消太も言っていた。

外した瞬間、地面が凹んだ
別に地面が嫌いなわけじゃないが、外した反動だろう
もう随分と感じたことのない解放感に背伸びをして、ストレッチをする。足が軽い、身体が軽い、気分も軽い!

「気分はどうだ?」
「最高」
「そうか・・・これも、随分古くなったな」
「大事に使ってたつもりなんだけどね」
「そりゃぁどうも。やっぱこっちも、そろそろ買い替えた方がいいな」
「まだ使えるのに?」
「技術ってのは日々進化してんだ。最新ものに買いかえれば、お前の身体にかかるも軽減できるかもしれん」
「そうなんだ」
「カタログは目を通してる。もう少し待ってろ」
「・・・探してくれてたの?」
「まぁな・・・そんなことはいい、とりあえず7mくらいで始めて見ろ」
「うん」
「何かあれば、強制的に止める」
「お願いします」

ふっと肩の力を抜く。周りを見渡して、大体7m地点の場所を見定めた。たったそれだけ、私の場合予備動作は何もない。ただ思うだけ。隣でポケットに手を突っ込んで立っている消太は、もう常にテリトリー内の人間のため弾き飛ばされることはない。地面が割れて、建物は横から圧力がかかったように崩壊し、テリトリーの外へ押し出されていく。半径7mの中心に私がいて、隣に消太がいる。その7m外側に崩れた建物の瓦礫が周を描いた。

「ほうっ・・久しぶりでも、ちゃんとできてんじゃねぇか」
「朝飯前」
「あと30分くらいは好きにしてろ」
「はい、イレイザーヘッド」

イレイザーヘッドの名前がなければ、私は制御装置を外すことも、思いっきり個性を使うこともできない。地面を蹴って、宙へ上がる。重力を拒絶すればなんということもない。足の裏面だけ空気を拒絶すれば、宙を反発力で駆け上がることだってできるし、停滞だってできる。できる範囲で上まで上がって、力を抜いて地面すれすれまで落ちても、地面激突せずに止まれる。足の装置を外してさえいれば、雲を拒絶して払うことだってできる。もしかしたら、隕石だって拒絶できるかもしれない。ただ範囲が広くなればなるほど拒絶する対象物の選定が難しくなる、予定外のものも拒絶してしまうし、人に関していえば仲の良い人しか今の消太のように傍にいてもらうこともできない。そこまで、コントロールの制御ができる代物は世の中にはない。人工的な好き嫌いにだって限度がある。常に嫌な理由を考えて作り出していたって、不意打ちで感情が動けば反応も変わってくる。仮にコントロール制御をしていない場合、どちらでもないという感情が、少しの出来事で“嫌い”に傾けば、それまでだ。

上から運動場の範囲を確認して、拒絶範囲を確定する。瓦礫を弾き飛ばさないよう、酷い嫌悪感は抱かずにすべての建物を崩しながら外へ出した

「・・・・・・」

よく敵が高笑いしながら、街を破壊する漫画みたい
高笑いでもしてみたらよかっただろうか・・・なんてね

地面に足が付くと、少し眩暈がした。傾いた身体を消太に支えられたので、そのままくっついた。消太との隙間から見える景色には、何もない更地と遠くの方に見える瓦礫の山。彼は何も言わずに私の頭に手を置いている。今、どんな顔をしているんだろうか。

「キャパオーバーじゃねぇな。久しぶりで疲れたか?」
「・・・体力的には疲れてない」
「・・・・・・・」
「・・・私の最大出力ってどれくらいだろうね」
「試したいとか言うなよ」
「うん」
「新零」
「何?」
「最近、敵の動きが目に見えて激しい。ここも安全だとは言い切れなくなってきた」
「・・・・・・」
「もし敵と接触した場合、すぐに連絡しろよ。特徴は前に教えたな」
「うん・・いつも何かあったら連絡してるでしょ?いつも通りだよ」
「・・・そうだな」
「・・・・・・」
「1人じゃねぇからな」








「椿さんの様子はどうだった?」
「ご覧になってたんですか、校長」
「そりゃぁもちろんさ!」
「・・・あの程度の対物であれば、制御は問題ありません」
「そうじゃない。精神的な方さ」
「・・・あれは、自分の力が人並じゃないことにショックを受けて凹んでるってところでしょうね。幼少期の傷ってのは、成長途中ではより深く抉られるものですから・・・。ただ、この程度のことで心の折れるような娘ではないので、心配は不要かと」
「いつも大丈夫だったが通じないのが思春期の子供たちの難しさなのさ!特に椿さんは感情が個性発動に影響するからなおさらさ!」
「わかってはいるつもりです。それに、だからこそ、私が手を放す必要もあるのだと思います」

新零が人を頼ったり、甘えてきたりするうちは、こちらから手を出す必要はもうないだろう。本人も俺に頼ってばかりではいけないとわかっているはずだ。あいつは、この3年間で成長しなければいけない。国に自分は危険でないことを証明しなければ、成人してもなお監視役を付けられかねず、さらに日本の外に出ることもできない。

「オールマイトさんも見てたなら、隠れてないで出てきてください」
「気づいていたのか、相澤くん」
「そりゃぁ、まぁ」
「・・・椿少女の資料は読ませてもらったんだ。少々特殊ではあるが、十分個性も制御されているし、なぜ国はまだ彼女を危険だと判断するんだい?そろそろ認められてもいいころだろう?」
「それは私がまだ、そう判断して国に申し出ていないからです」
「え、そうなの」
「あいつが自分で自分を怖がるうちは意味がない。自信を持つまでは、自分の目の届くところに置いておくつもりです」
「・・・・・」
「その場を提供できるのが、この雄英ってわけさ!彼女が立派に成長できるように国にも話は通してある」
「そういうわけです、オールマイトさん」

たまには落ち込む日があったっていいだろう。もともと、前向きで明るい性格ではあるが薬の影響は良くも悪くも両方に出てしまうため、服用中はそれらも抑えられてしまう。1番の問題は、あの男の言葉が今でも新零の中に突き刺さっていて、ことあることに精神的な部分を抉っていることだろう。条件的に起きる自傷行為は、いくら個性を受け入れようとも不意な出来事で浮かんだ不安が形となって表れている証拠だ。その不安を払拭させようにも、近しくなりすぎた自分の言葉では、もう意味がないのだろう。


ALICE+