2 「おはよ」 「・・・おはよう・・・・・もう、朝なのか」 「うん、地下だからわかりにくいかもだけど」 「・・・・・」 はっと目が覚めて部屋の扉を開ければ、座り込んで壁にもたれかかっているユイナが、顔をあげた 「外出られそうなら、連れの人、探しに行くけど」 「あぁ、問題ない」 「わかった」 「お前は、どこで寝たんだ」 「1日くらいちゃんと寝なくたってどうってことないから気にしないで」 「・・・・・だが」 「大丈夫、人の恩はありがたく受け取るものよ」 「・・・・う、うむ」 「ユイナ、出かけるのかい?」 「うん、この人、連れがいるんだって。送ってくる」 「そうかい、気をつけなよ。昨晩の暴動で、また、たくさん捕まったって話だ。警備も厳しくなってるってさ」 「・・・わかった。ありがと」 昨晩いた男たちも床に転がったり、椅子で寝ているようだった。入って来た時に通った階段を上がり外に出れば、まだ朝早いのか冷えた空気に身震いした。寒いのは好きではない。思い出したかのように外套のフードを被ったユイナの後をついていく。サカキが昨晩どうしたかわからないが、あいつのことだ無事ではあるだろう。 「最近は本当に治安が悪くなったみたいだから、気を付けて」 「・・・ユイナは、この町の者ではないのか」 「違うよ。この町に来たのは2か月前くらいかな」 「ならなぜ、そこまでする」 「・・・なんとかしたいと思ったの。私にできることなら何とかしたいと思ったから」 「・・・・・」 「最初こそ町の人に何言ってるんだって思われたけど、今は賛同して力を貸してくれる人たちがいるの」 「1人でやろうとしていたのか」 「協力者がいなかったらね。でも、あーいう上の人って、私みたいな小娘の意見なんて耳に入れたがらないから、順を踏んで叩きのめさないと意味がない」 「・・・・・すごいな。ユイナは」 「そう?でも言い方を変えればお節介とも取れるから、微妙なところよ」 「そんなことはない」 「もっと上からしたら、私の方が邪魔かもしれない」 「・・・・・」 「そうだ。ねぇ、連れの人って、どんな感じの人?」 「そうだな・・・背が高くて、何事にも動じない顔をしている」 「それ、どういう顔?」 「そうだな・・・っ!」 「おばさんが言ってた通りだ。警備が厳しくなってる・・・こっち」 昨晩同様に手を引かれ後ろを歩く。細い路地裏を気配を窺いながら進んでいく。昨日の場所に戻るのも難しいのか・・・。 「その剣、使えるの?」 「む?あ、これは」 「飾り?」 「そ、そんなことはない」 「嘘っぽい」 「何?!・・・・・お前のそれはどうなんだ」 「使える。自衛しなきゃ誰も守ってくれないから」 「・・・・」 「もし囲まれたら、躊躇わずに抜くだけ抜いて」 「・・・わかった」 「・・・ねぇ、思ったんだけど」 「なんだ?」 「貴方、いいとこのぼっちゃんでしょ?つてとかないの?」 「・・・・・」 「この状況、たぶん城まで伝わってない」 「何?だが、伝令の類は出しているのではないのか?」 「出てるとは思うよ。でも、私が書いた意見書もどこかで止まって・・・」 「何だ」 「静かに」 立ち止まったユイナが動きを止めた。一体自分たちは何からが隠れているのかわからなくなる。昨夜は、暴動を起こしている町民から、昼間は取り締まる領主側・・・。仮に捕まりでもすれば、私が王子だと知られてしまうだろう、そうしたらどうだ、私の立場はどうなる。 「行った・・・。とりあえず、昨日の場所まで戻るけど、会えるかどうかわからないわ・・・・っ!」 「おっと」 暗がりから現れた男に、ユイナが剣を抜こうとしたのを止めた。背丈といい、声といい、間違いなく自分の従者だとわかる。 「ユイナ、この者は違う」 「え?・・・・あ」 「こちらにおいででしたか。探しましたよ・・まったく。護衛の者たちが顔を真っ青にしていましたよ」 「それは、こちらのセリフだ。なぜすぐに戻らなかった」 「昨晩の暴動で店は閉まっていましたし、身動きが取れませんでしたので・・・それより、こちらの方は?」 「昨晩世話になった者だ」 「ユイナと言います」 「・・・それはそれは。主がお世話になりました」 「いえ、私も無理やり連れて行ってしまって、すみません」 「そんなことはありません。あの暴動に巻き込まれていたらひとたまりもありませんでしたから」 「そう言っていただけると、助かります・・・・。では、無事に合流できたようだし、私はこれで」 「ま、待て」 「ユイナさん、すみませんがこの辺りで馬の手配をできる場所は知りませんか」 「馬車の手配は難しいけど、馬だけならできると思う。それで隣町まで行ければ、手段はあると思うけど」 「はい、それで構いません」 「わかった・・・ちょっと遠いけど、そこまで案内します」 「待て、その前に」 「何?」 「そうですね、先にどこか食事のできるところはありませんか?」 食事をとりながら、ユイナの話をサカキを含めて聞く。この町の状況を昨晩よりも詳しく聞けば、サカキも知らなかったと言う。ユイナ曰く、城か、情報伝達に関わるどこかに領主の協力者がいるという。だから、こんな状況になってもなお中央が動かない。彼女自身、領主に目をつけられているため町の外へ出るのは難しいらしく手をこまねいていたそうだ。・・・たしかに、このような娘がいれば目を止めるのも仕方ないだろう。旅をしていると言っていたが、本当にどこかの町娘なのか? 「つてがあるかと聞いたな」 「うん」 「ないこともない」 「・・・・」 「この状況を伝えれば、ち・・・国も動くだろう」 「ですが、証拠がなければ難しいかと思いますよ。そもそも、」 「サカキ。・・・ユイナ、あの資料を我々に託してもらえないか」 「それは、できない」 「な、なぜだ!」 「だって、貴方たちが領主側の可能性だってある。資料を持ち逃げされたら困る」 「そんなことには」 「何をどう信じたらいいの?」 「うっ・・・」 「・・・・・」 「昨日あったばかりの人に大事な資料は渡せない」 「ごもっともですね」 「サカキ!」 「・・・お嬢、警備のやつらが近づいて来てます。一応、奥に」 「・・・ありがとう。そうさせてもらうわ・・・・彼らもいい?」 「えぇ、どうぞ」 「我々もですか?」 「この後も一緒に動くんだから、ばれたら困るわ」 「確かにそうですね。案内して頂かなければなりませんし」 「案内なら俺が変わろうか?お嬢」 「いいえ、私が行くから大丈夫。ありがと」 「しかし、あの野郎、お嬢まで!!」 「どういうことですか?」 「どうもこうもねぇよ。お嬢まで、あの馬鹿王子に差し出そうとしてんだよ」 「「・・・・・・・」」 「ちょっと、その話は、別にいいでしょ」 「よくねぇよ。お嬢のことなんだと思ってやがる」 「・・・・・」 「お嬢には感謝してるんだぜ。俺たちだけじゃ、この状況変えられそうにもなかったんだからな」 私のことか。サカキのじっとこちらを見下ろしてくる視線から逃げつつ、男を見上げているユイナの横顔に目が行った。その表情は読めないが、じっと見ていると、顔がこちらを向いたがすぐに逸らされた。 「私が向こうの手に乗れば、王子に直談判できるかもしれないと思ったんだけど、皆が駄目だって言うの」と笑ったユイナが、何を思っていたのかは、差し出される側の自分にはわからなかった。 ←→ 目次 |