出会い1

「何してるの、こんなところに突っ立って」
「!」
「ここは危ないから、こっち」
「・・・なっ」
「ここもすぐ暴動に巻き込まれるから逃げた方がいい」
「暴動だと?」
「早く。ほら、音聞こえるでしょ」
「だが・・・」
「だが、じゃない」
「・・・・・」
「巻き込まれたいの?!」
「・・・・」
「早く」
「・・う、うむ」

馬車が壊れたのが事の発端だ。
そこから、近くの町で新しく馬車を手配し、すぐにでも城に戻るつもりだったというのに、何がどうしてこうなったというのだ。大体サカキはどこへ行った。なぜまだ戻って来ない。
早くしろと手を引く娘について行くが、大丈夫なのかもわからない。今は信じるしかないのだろう。それにしても、なぜこの町は、これほどに荒れているのだろうか。

「暴動だとさっき言っていたが、何が原因だ?」
「・・・・・・・・領主が、政ごとを蔑にしてる。説明は後でするから、早く中に入って」
「・・・・大丈夫なのだろうな?!」
「ほら、早く中に」
「・・・・・」
「早く!」
「な、押すなっ」

どこかの家?の裏口から中に入った。すぐ近くを男たちの大きな声が過ぎていくのが聞こえる。さらに奥へと手を引く娘について階段を下り、地下にある扉をくぐった。とても不味い状況な気がする。これでは、サカキとも護衛の者とも合流できない。

「お嬢!外はどうだった」
「いつも通り、あいつらが騒いでるよ」
「ったく、いつまで続くんだよ」
「早く終わらせるために、私たちが動いてるんでしょ!もうひと頑張りだって」
「・・・そうだな・・。で、お嬢、そいつは?」

地下の扉をくぐった先は、酒場のようだった。10人ほどの男たちと目の前の娘を含め4人の女と子供。そいつは?と指を差され思わず半歩下がった。外套のフードを被っているとはいえ、身分がばれるわけにも行かない。

「道で突っ立ってて危なかったから連れて来た」
「連れて来たってお嬢」
「大丈夫、余所者だから。状況もわかってないよ」
「・・・・だが」
「大丈夫。私が責任とる」
「・・・・・・まぁ、お嬢が言うなら何も言わねぇけどよ」

この場での、この娘の立場はかなり上のようだ。若い娘に見えたが、年上の男たちをまとめているのか・・・。暗がりではっきりと見えていなかったが、自分の方を振り返った娘が外套のフードを外した。プラチナブロンドの髪に緑色の瞳・・・意思の強そうな瞳に少し手に力が入った。さらに奥へ進む娘について別の部屋に入った。

「どうして、あんなところに1人で?」
「移動中、馬車が壊れたのでな。連れの者が手配に行っていた」
「こんな日が沈んでから?1泊するべきじゃない?」
「うっ・・・・」
「この辺りは、領主への不満が高くて夜になると、いつも外に出られる状況じゃないの」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「領主が、どこかの誰かさんに気に入られようと必要以上に皆から巻き上げてるの。領土が欲しいのか、地位が欲しいのか知らないけど。政まで蔑にして、不正だらけ。おかげで余所から面倒な連中まで流れ込んできてる」
「・・・・・そ、そうか」
「私たちは、その不正を暴くためにできるだけ情報を集めてるの。言い逃れできないようにするために」
「領主に意見するのか?」
「それ以外に何があるの?上が動かないから、こうなるんでしょ」
「・・・・・・」
「でもね、きっと事情があるんだと思う。でも何もせずにいるなんて、できる状況じゃなくなってきてる」
「・・・・・・」
「暴動を抑えるために、領主が片っ端から参加者を捕まえてる。このままじゃ働き手がいなくなって、この町ごと終わっちゃう」
「・・・勝ち目はあるのか?」
「どうかな、領主がなんだか焦ってるみたいだから話を聞いてもらうだけでも苦労しそう。それに、決定打がないの。今のままじゃ、勝てないかな」
「・・・・・」
「そうだ、まだ名乗ってなかった。皆はお嬢なんて呼ぶけど、ユイナでいいから。連れの人と合流するまでは、私から離れないで。一応、責任とるって言っちゃったし、貴方のこと無理やり連れてきちゃったから」
「わかった・・・。ユイナ、さっきは助かった。」
「どういたしまして。朝になるまでは、ここに居た方がいいと思うけど。早く合流した方が良い?」
「あぁ、できればだが・・・今は少し休ませてほしい」
「・・・・わかった。りんごでも食べる?」
「いいのか?」
「いいよ?ここのりんご、城に治めてるからかなりおいしいの」
「・・・・・・・そうか。・・・ユイナ」
「何?」
「なぜ何も聞かない」
「部屋に入っても外套のフードとらないってことは、わけありでしょ?」
「・・・・・」
「だから、何も聞かない」
「助かる」
「じゃぁ、りんご取ってくる」

初めこそ真面目な顔をしていたが、今は、にこりと笑って部屋から出て行った。
この部屋はユイナが使っているのだろうか?ベッドや椅子や机が一揃えあるが、テーブルに置かれた本や資料のほかには、あまり物がない。触っていいものかわからないが資料、おそらく領主へ訴えるためのものを手に取れば文面に自分の名前があることに気づいた。まさかと思いつつ・・・町の名前を思い出し、ここの領主を思い出して、心当たりがあることに気づいた・・・。
白雪どのとの一件があって以降は、その手の物は全て断るようになったが・・・あれが賄賂の類だったのか・・・・・・・見返りに何かやった覚えはあまりないが。焦っているのは私が断るようになったからとすれば・・・・・ユイナの言った、誰かさんというのは自分のことになる。

「資料、見ましたね」
「なっ・・・突然、現れるな」
「あまりに真剣に読んでるから邪魔しちゃいけないかと思った」
「・・・・・」

横からひょいと覗きこんだユイナに驚いて、資料から手を放した。

「その耳飾り、中々の品だな」
「え?・・・・あっ、これ、お店で働いてるときにお客さんに貰ったの・・・」
「店?」
「さっき入って来た1階が酒場なの。今いる地下は一見様はお断りで静かに呑むところ。私ね、ここで住み込みで働いてるの」
「そうか」
「・・・りんご、すぐ剥くね」

手際よくりんごを剥くのを眺めつつ、勧められるがままにベッドに腰掛けた。早く城に帰りたいが、下手に動くわけにも行かない。疲れで動ける気もしない。しかし、りんごか・・・。りんご・・・。剥き終ったユイナが皿に切り分け、1切れ先に口に入れた。

「やっぱり、おいしい」
「・・・城にいれているのだから、当然だ」
「私が選りすぐったからおいしいの」
「・・・・・」
「どうぞ。まぁ城に入れている物よりかたは落ちてるんだけどね」

たしかに、味は劣る気もするが十分おいしい

「じゃぁ私は外にいるから、この部屋好きに使って」
「お前の部屋ではないのか?」
「そうだけど、私がいると休みづらいでしょ?その代り、机の上はあんまり触らないでね」
「・・・わかった。ありがとう、ユイナ」
「どういたしまして。何かあったら呼んで、外にいるから」

変わった娘だ・・・と思いつつも疲れた体を横に倒せばすぐに眠気が下りてきた。寝心地の悪さだとか、埃っぽい空気だとか、気になることはたくさんあるが、今は眠気に勝てそうにない。こんなことなら、意地を張らずにサカキの言うことを聞くべきだった。


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